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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第10章 平和篇
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第三十八話 もうすぐ・・・

あけましておめでとうございます。

2023年もどうぞよろしくお願いいたします。

 卵を採るための繭を残し、残りはすべて処理を終え、保管庫に保存された。

 これらは桑の葉が採れない季節、つまり養蚕ができない季節にまとめて糸を紡ぐことになる。


「さあ、まずは蚕室さんしつの掃除だ」

「はい」

「清潔にしておかないとカビが生えるからな」

「はい」

 ド・ラマーク領は内陸にあるため比較的湿度が低いが、それでも油断はできない。

 『微粒子病』になったら蚕は全滅だからだ。

 数年前に起きた悪夢のような出来事は、アキラにとって忘れられない事件であった。


 次の蚕……『秋蚕あきご』を育て始めるまでの数日間で、蚕室をきれいに掃除する必要がある。

 アキラも手伝い、職人たちはせっせと作業を進めるのであった。


*   *   *


「できた」

 ハルトヴィヒは、レティシアから頼まれた、様々な径の回転砥石を作り終えた。

 径の違う回転砥石といっても、製法は皆同じなので、さほど難しくはない。

 ハルトヴィヒの作り方は以下のようになる。


1.回転軸は6ミリの鉄もしくは青銅の丸棒。

2.そこにベースとなる木製の円盤を取り付ける。

3.回転軸を中心に回転させながら、木製の円盤を削り、完全な回転体に近付ける。この時直径は目指す回転砥石よりも小さくしておく。

4.木製の円盤に接着剤を塗り、砥粒を接着する。

5.接着剤が固まったら、さらに接着剤を付け、砥粒を塗り重ねていく。

6.『5』を繰り返し、目指す回転砥石径より少し大きくなるまで行う。

7.回転砥石を回転させながら鋼鉄のスクレーパーで外見を整えていく。


 以上である。なかなかに面倒くさい。

 が、そこそこ精度のよい『軸付き回転砥石』を作ることができるのだ。

 また、表面近くだけに砥粒が使われているので節約にもなっている。

 外径が小さくなってしまった回転砥石は使えないのでこれでいいのである。


 ところで現代日本では、『軸付き』ではなく、中心に穴が空いた形の回転砥石が多く作られている。

 この形式だと、型に砥粒と結合剤を入れて焼成もしくは硬化させればいいので量産化が容易である。


 欠点は回転させた時の精度がやや出にくいこと。

 つまり回転させた際に『芯が出ていなくて』『ブレる』のである。

 この場合の『芯が出ていない』というのは回転の中心と回転軸の中心が一致していない、ということになる。

 なので使う前に『芯出し』と呼ばれる調整をしないと精度のいい研削はできない。


 要は製作時に手間を掛けるか、使用時に手間を掛けるかの違いである。


*   *   *


「ハルトヴィヒ様、ありがとうございます!」

 直径・形状違い10種類、各3個ずつ、計30個の回転砥石をもらってレティシアは大喜び。

 さっそく試してみようと、自分の工房へと駆けていったのである。


 そこへアキラがやって来た。

「ハルト、ご苦労さま」

「いやなに、これが僕の仕事だからね。それより、ミチアの様子はどうだい?」

「うん、マリエの見立てによると、今日中ということはなさそうだ」

「そうか。なら準備を万全にしないとな」


 ミチアは今朝、陣痛が始まっていたのである。

 アキラは大慌てで助産婦経験のある侍女のマリエを呼びに行った。

 そして診断の結果、早くても今夜だろう、ということだったのである。

 そのため落ち着かない心持ちのまま仕事をしていたが、さすがに集中できないため書類仕事は断念。

 なので職人たちと一緒になって『蚕室さんしつ』の掃除をしていたというわけである。


「しかし、春頃だと思っていたけど、夏になったなあ」

「え? 今のくらいだと思うよ」

 ミチアとリーゼロッテが懐妊していることがわかったのは昨年。

 その時はなんとなく春頃かと思っていたアキラだったが、実際には真夏になってしまっている。

 これは、この世界の妊娠期間が地球とは少し異なるからであった。

 その証拠に、誰一人として違和感を抱いていない。


(こんなところが少し地球と違うのか……まあ、遺伝子的には全く問題ないんだろうけどなあ)

 と、久しぶりにちょっとだけここが異世界だということを実感したアキラであった……。


*   *   *


「どうだい、ミチア?」

「……今は落ちついています」

 アキラはマリエの許可を得てミチアに面会をしていた。

「マリエは、生まれるのは今夜あたりだろうと言っていたけど」

「ええ、聞いています」

「俺は何もできないけど、無事を祈っているよ」

「ええ、私、頑張ります」

「頼む」

 ミチアの手を握り、アキラは部屋を出た。


 『絹屋敷』ではお湯を沸かしたり産着を用意したりと慌ただしい。

 《ザウバー》を使い、屋敷中を滅菌してもいる。

 準備は万全……少なくともできることは全てやっている……はず。

 それでも落ち着かず、アキラは屋敷中を行ったり来たり、うろうろと歩き回っていた。


「アキラ、少しは落ち着けよ」

 そんなアキラに声を掛けたのはハルトヴィヒ。


「ハルトか……絶対お前もリーゼの番になると慌てると思うぞ」

「はは、そうだろうね。だけど今は他人事ひとごとだから、こうしてなだめ役に回っているわけだ」

「そうか。それじゃあリーゼの出産の時は俺がなだめ役をやってやるからな」

「うん、頼むよ」

 そう言い合って2人は笑った。


 『絹屋敷』に、新たな生命が誕生するのはもうすぐである。

 お読みいただきありがとうございます。

 本年もよろしくお願い致します。


 次回更新は1月14日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 銀のスプーンを用意しなきゃ!
[一言] >>「清潔にしておかないとカビが生えるからな」 異世界なのでカビ以外のナニかも生えます。 >>アキラも手伝い ご領主様なのに! >>ハルトヴィヒは、レティシアから頼まれた、様々な径の…
[一言] 今回でおめでとうまではいきませんでしたか しかし、妊娠期間に違いがあったとはなあ ちょこちょこ地球とは違うところが出てきますねえ
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