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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第10章 平和篇
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第二十一話 職人

 『絹屋敷』への来客。

 それはうら若い女性だった。

「レティシア・コルデーと言います。出身はリオン地方のモントーバンです」

 モントーバンは領主のいる町である。

 おそらく現侯爵レオナール・マレク・ド・ルミエ閣下にも頼んだのではないかなとアキラは推測した。


「フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵閣下のお誘いにより、参上いたしました」

「ド・ラマーク領主のアキラ・ムラタ・ド・ラマークだ。これからよろしく頼む」

「はい!」

 レティシアは、20代前半といった年頃。

 職人らしく栗色の髪をショートボブにし、明るい鳶色の目は好奇心で輝いているようだった。

 受け答えはハキハキしており、アキラとしては『体育会系だな』などと内心思っている。


「宿舎は用意してある。ええと、荷物は?」

「多いので、馬車で運んでもらいました。表に置いてあります」

「そうか」


 ということで外に出てみると、大きなカバンが3つ、それに小型のコンテナかと思えるような衣装ケースが5つも積まれていた。

「大半は道具類です」

「わかった。それじゃあ運んでしまおう」

 ということで、使用人総出で……といっても3人しかいない……それに1人は侍女なので実質2人……で荷物を宿舎へと運んでいく。

 途中、王都からの技術者たちも手伝ってくれたので、思ったより早く終わった。


 宿舎は『絹屋敷』の敷地内にあって、平屋建て。2LDK相当である。

 2部屋の内1つが居室兼寝室で、もう1つは作業場に転用可の部屋だ。

「こんないい部屋を使っていいんですか?」

「ああ、もちろん。食事はまかないでよければ『絹屋敷』で食べてもらってもいい」

「わかりました!」

「給金は追って相談でいいかな?」

 腕前を知らずに決めたくないとアキラは言い、レティシアもそれでいいと頷いたのだった。


*   *   *


「仕事場は、最初のうちはハルトヴィヒの工房を使ってもらいたい。というか彼が直接上司になる」

「はい、聞いています!」

「うん。それじゃあ紹介しよう」

「お願いします」


 アキラはレティシアを伴ってハルトヴィヒの工房の扉を叩いた。

 事前に訪問することを告げていたので、すぐにハルトヴィヒが出てくる。


「ハルト、紹介するよ。モントーバンから来てくれた職人の……」

「レティシア・コルデーです。よろしくお願いします!」

 ぴょこん、と頭を下げるレティシア。

「ああ、よろしく。僕は『絹屋敷』の技師長を務めるハルトヴィヒ・ラグランジュだ。ハルトと呼んでくれ」

「はい、ハルト様。……私のことも、レティとお呼びください。アキラ様も!」

「わかった、レティ」

 こうして顔合わせは問題なく終了。引き続き、職場の紹介である。


「技師長、と言ったが、今のところ僕の他には、妻のリーゼロッテがいるだけだ。その妻も、出産準備のために休暇中だ」

「そうなんですね」

「もっとも、『絹屋敷』以外には地元の職人とでもいえる者たちが多数いる。そっちは順次紹介していこう」

「お願いします」

「では、仕事内容の打ち合わせに入りたいが、構わないかな?」

「はい。是非お願いします!」

「それじゃあこっちへ来てくれ」


 ハルトヴィヒは工房の隅にある打ち合わせ用テーブルにアキラとレティシアを招いた。

「まず、最初に確認したい。レティ、君はガラス職人で間違いないね?」

「はい。貴金属の小物も作れますが」

「それは好都合だ。……で、ガラス細工の腕前はどのくらいだ?」

「あ、それでしたら幾つか作品を持ってきていますのでそれをご覧ください。今、取ってきます!」

 そう言ってレティシアは席を立ち、小走りに宿舎へと駆けていった。


 そして、3分ほどで小さなカバンを抱えて戻ってくる。

「お待たせしました」

 そしてテーブルにおいたカバンから、作品を取り出し並べていくレティシア。

「これとこれがワイングラス、これがカクテルグラス、こっちは多用途のお皿……」

「ほう……」

 いずれも小振りながら、なかなかの出来であった。


「こっちはアクセサリーです。ガラスをあしらった銀のブローチやペンダントヘッドですが」

「うんうん、いいね」

 加工技術も確かだが、デザインもなかなか見事なものだった。


「デザインは自分で?」

「はい、恥ずかしながら」

「いや、なかなかのものだ」

 本当に優秀だな、とアキラの期待も高まる。


 ここでハルトヴィヒは『色ガラス』を見せてみることにした。

「レティ、見せたいものがある」

「何でしょうか?」

「これだ」

「これは……!」


 ハルトヴィヒはサンプル用に作った色ガラス片をテーブルに並べる。

「赤、橙、黄、緑、青、紫、茶、黒、白……し、信じられません!」

「これを使ってガラス製品を作ってもらいたいんだ」

「やりたいです! 是非、やらせてください!!」

「もちろんだ、そのために来てもらったんだから」

「……イメージを固めるため、この色ガラスはお預かりしてよろしいでしょうか?」

「ああ、もちろん」

「では、お借りします。……構想ができましたら報告いたします。……1日いただけますか?」

「いいとも。それじゃあ明日の夕方、ここへスケッチか何かを持ってきてくれ」

「わかりました!」

 レティシアはカバンの中に作品を元どおり収め、色ガラスのサンプルも詰め込んだ。

「それでは、お借りします!」

 と言うが早いか、小走り……いや全力疾走で宿舎へ戻っていったのである。


「……ちょっと変わっているけど、役に立ってくれそうだな」

「ああ、そうだな。でもアキラ、職人であのくらいはまともすぎるくらいだぞ」

「職人ってそんなに変わったやつが多いのか?」

「それはもう。僕やリーゼがまともに見えるくらい」

「それって、俺はどう反応すればいいのか困る情報だな……」


 残ったアキラとハルトヴィヒは顔を見合わせて笑ったのだった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月10日(土)10:00の予定です。


 20220903 修正

(誤)「それって、俺は同反応すればいいのか困る情報だな……」

(正)「それって、俺はどう反応すればいいのか困る情報だな……」

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― 新着の感想 ―
[一言] >>それはうら若い女性だった。 ハニトラ要因! >>おそらく現侯爵レオナール・マレク・ド・ルミエ閣下にも頼んだのではないかなとアキラは推測した。 パパの頼み(強制)は断れなかった! …
[一言] おー、女性職人さんでしたか なんとなくおじさんとかが来るのかと思ってましたがやる気が溢れていていいですねー
[一言] 職人さんの ワクワク感 とまらないのでしょうね。 わたしもわくわくしてきます。
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