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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第10章 平和篇
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第十四話 色、いろいろ

 王都から来た3人の技術者たちに朱肉について説明したアキラ。

 技術者たちは感銘を受けたらしく、休憩時間を利用してアキラに質問を行った。

「アキラ様、先程のお話ですと、この『朱』は作られた色、ということですね?」

 アキラは頷く。

「そう。合成顔料だ」

「なるほど、そう呼んでいるのですね」

 染料、顔料という用語はこの世界にもある。

 染料は色の粒子が細かく、透明感のある色材。

 顔料はもう少し粒子が大きく、下地色に対する隠蔽力のある色材だ。

 大雑把に言えば『インクと絵の具』の違いということになる(顔料インク・透明絵の具という例外もあるが)。


「元々は、絹織物を染めるための染料の研究から始まったんだよ」

「ああ、そうなのですね」

「特に青・紫系の色素は、天然にはなかなかない。そこで人工色素というわけだな」

 カラフルな色で染めるため苦労した日々を懐かしく思い出すアキラ。


「簡単ではないですよね?」

「もちろんだ。だが、合成物の場合、品質が一定になるという大きなメリットがある」

「確かにそうですね。植物から取る色素はばらつきますから」

「そうなんだよ。まあ、まだまだ、染料は作れていないんだけどな」

 顔料はできたんだが、とアキラは残念そうに言った。


「では、他にどんな色が?」

「最初にできたのが緑青ろくしょうだった」


 緑青ろくしょうは顔料の名前であり、また銅にできる青サビの呼称でもある。

 銅や銅合金が酸素・二酸化炭素・水分・塩分などと反応してできる青緑色の『サビ』だ。

 単一物質ではなく、 塩基性炭酸銅、塩基性酢酸銅 、塩基性塩化銅、塩基性硫酸銅その他が含まれる混合物である。

 最も簡単な作り方は、銅板を空気と水分に触れさせて放置すればよい。

 その際、酢を少量塗ると多少腐食が早まるようである。

 なお、この方法では『古いブロンズ像』のような『均一な緑青色』を発色させるのには向かない。


 余談だが、現実に緑青を作りたいなら『塩化アンモニウム』を水に溶かして塗るのが手っ取り早い。

 塩化アンモニウムは比較的安全な化学物質なのでネットなどでも手に入れやすい。

 サルミアッキという独特の味がする飴にも含まれている。

 また、ベーキングパウダーの一種である『イスパタ』は重曹と塩化アンモニウム、デンプンなどの混合物である(作者注)。


「俺の世界の化学合成技術はかなり進んでいたからな。こちらで再現するにはまだまだ時間が掛かりそうだ」

「そうなのですね……私たちもお手伝いできればいいのですが」

「これからここで学んで、それからだな」

 意気込みだけでどうにかなるものではない。地道な一歩一歩の積み重ねが大事である、とアキラは説明したのである。

「何しろ、俺の世界では基礎教育6年、初等教育3年、中等教育3年、高等教育4年、専門教育5年、というような教育課程がある」

 それぞれ小学校、中学校、高校、大学、大学院をこちらの世界の者たちにわかりやすく言い換えたものである。


「そ、それを1年で覚えようというのはかなり無謀ですね」

「そうだな。俺だって全部覚えているわけじゃないし、人を指導できるほどの学力もないし」

 苦笑するアキラであった。


「それでも、学問のレベルを一気に底上げできるチャンスには違いありませんよ」

 技術者の1人ベルナデットが言った。

 3人とも、自ら志願してこのお役目に付いたのだから、とも。


「それであの、赤い色はどうなのですか?」

 ベルナデットは女性らしく、布地・服地の染色には興味があるようだ。

「赤か。顔料としては『朱』や『弁柄』があるんだが、染めには今ひとつでね。これからの研究次第さ」

「わかりました」


 このように、王都からの技術者たちの学問に対する熱意は大変なものである。


*   *   *


 さて、アキラはハルトヴィヒの研究室を訪れた。

 『ハルト炉』の進捗状況について確認するためである。


「順調だよ。耐火レンガも手に入ったしね」

 ハルトヴィヒはサンプルの耐火レンガを手に持ち、そう告げた。

 レンガが少し焦げたような色をしているのは、実際に試したかららしい。


「それはよかった」

「うん。……色ガラスだろう? アキラが作りたいのは」

「そうなんだ。それも真っ赤な色のな」

「わかってるよ。『携通』のデータを見たけど、若干の金を混ぜるといいそうなので実験的に作ってみようと思っているのさ」

「お、楽しみだな」

「あとは紫を出したいからマンガンを手に入れたいな」

「商人に頼んでいるけどな。マンガンそのものが、まだ一般に知られていないから難しそうだ」


 が、マンガンの鉱石である『菱マンガン鉱』はバラ色であることから『ロードクロサイト(バラ色の石)』とも呼ばれ、半貴石として扱われている。

 そういった物を見つけてもらえればいいのだ

「気長に待つよ」

 焦っても何もできないと悟っているアキラであった。


「で、炉の方はいつ完成する?」

「明日にはでき上がっているだろう」

 嬉しい返答であった。

「そんなに早いのか」

「試運転はお昼すぎにするつもりだ」


 その頃もう一度来てくれれば、試験に立ち会えるよ、とハルトヴィヒは言った。

 そしてアキラはできるだけ都合をつけて見に来る、と約束したのだった。


*   *   *


 そして、蚕の卵もまた青くなっていた。

 『催青期さいせいき』である。

 こうなるとあと1日か2日で孵化ふかする。

 そうなったらいよいよ養蚕時期の始まりである。

「技術者たちへの指導は現場に任せるとして、科学を教える授業にどのくらい拘束できるかな……?」

 教育のスケジュールも立てねばならないアキラ、なかなかに忙しい。


 充実した毎日を送るアキラであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月23日(土)10:00の予定です。


 20220716 修正

(誤)「何しろ、俺の世界では基礎教育6年、初等教育3年、中等教育3年、高等教育4年、専門教育4年

(正)「何しろ、俺の世界では基礎教育6年、初等教育3年、中等教育3年、高等教育4年、専門教育5年

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― 新着の感想 ―
[一言] 世界一不味い飴サルミアッキ・・・。(´・ω・`)
[一言] >>技術者たちは感銘を受けたらしく、 休憩時間を利用して至る所に朱を塗りつけていた。 >>カラフルな色で染めるため苦労した日々を懐かしく思い出すアキラ。 アキラ「気がつけば早10年、思…
[一言] 分野を絞ったとしても1年で詰め込める異世界の学問にも限界がありますからねー せめて3年くらいはいてもらいたかったですね
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