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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第10章 平和篇
252/433

第一話 大盛況

 その春の王都行は大盛況であった。


「おおお! これが『蒸気エンジン』か!」

「モーターもすごいですな!」

 国王ユーグ・ド・ガーリアをはじめ、宰相パスカル・ラウル・ド・サルトル、農林相ブリアック・リュノー・ド・メゾン、産業相ジャン・ポール・ド・マジノ、魔法技術相ジェルマン・デュペー、近衛騎士団長ヴィクトル・スゴーといった、そうそうたる面々がこぞって喰い付いたのである。


「ああ、素敵な色ですこと」

「こちらは素晴らしいデザイン」

「まさに時代の最先端ですわ」

 一方、王妃アドリエンヌ・ド・ガーリアをはじめとして第2王女シャルロット・ド・ガーリア、その侍女長ミザリ・ド・ポワソン、セヴリーヌ・ロラ・ド・フォンテンブロー伯爵夫人など女性陣は、アキラが持ち込んだ色鮮やかな絹織物とその製品であるドレスに目を奪われていた。

 王族優先ではあるが、今回は合計15着を用意できたため、王妃からの下賜かしとして功ある臣下に与えることも可能だった。


*   *   *


「つ、疲れた……」

「……同感」

 その一方で、プレゼンテーションを行っていたアキラとハルトヴィヒは自室でぐったりしていた。

 自室といっても2人部屋で、豪華な居間に寝室が2つ付いているもの。

 プレゼンテーションの打ち合わせを行う必要があるので、こういう部屋が割り当てられたのだ。


「お疲れさまでした、アキラ様、ハルトヴィヒ様。何かお飲みになりますか?」

「何か冷たいものがいい」

「僕も……」

「わかりました」

 お付きの侍女……アネットは2人をねぎらっていた。

 彼女はもちろん別の、侍女用の部屋で寝泊まりしている。


 アキラとハルトヴィヒは居間のソファにもたれかかって脱力している。

 ほぼまる1日、新製品の説明をしていたのだから無理はない。


*   *   *


 この日はハルトヴィヒの報告で終わってしまった。


 技術的には『モーター』『魔法式充電池』『ハルトヴィヒ式発電システム』『蒸気エンジン』『ハルトコンロ』『電信』の6つ。

 どれ一つとっても、世界に激震をもたらすような新発明である。

 モーターは王都行の3日目に大急ぎで作ったもの。

 発電機があるのだから、そこに電流を流せば、原理的にはモーターになるわけだ。

 もちろん、コイルの巻数は発電用とモーター用で最適値が異なるわけだが。


「今回は特に新規報告が多かったからな……」

 ハルトヴィヒの発明ラッシュだったこともある。

「まあ、な……毎年ここまで発明できると思われたら困るが」

「それはないだろう」

 今回の発明ラッシュが、ほぼ1点……『ハルトコンロ』という『超安価な熱源』の発明に集約されることは、皆理解している。

 それがあるからこその『蒸気エンジン』であり、『ハルトヴィヒ式発電システム』である。

 そして『ハルトヴィヒ式発電システム』があって『魔法式充電池』が意味を持つのだ。


「電信はアキラの世界の技術をそのまま再現しただけだしな」

「まあそれはな……」

「このおかげで『蔦屋敷』の『微粒子病』対策が迅速に行えたということは、みんな感心していたぞ」

 情報伝達の重要さは近世・近代になるほど重要視される。

 電信は、モールス符号を覚える必要はあるが、これまでにない速さで情報の伝達ができるのだ。

「とはいえ、『音声でやり取りできないのか?』って言われたなあ」

「それはみんな思うことだろう」

 それに加えて、アキラとしては『無線』での通信を行いたかった。

 が、まだまだ技術的には無理がある。


「まあ、今回の活躍で、ハルトには何らかの褒美が出ることは間違いないよ」

「喜ぶべきなんだろうな……」

 『ハルト式』と冠された数々の機械やシステムが世に広まることに対し、少なからず抵抗のあるハルトヴィヒである。

「技術者だからっていうのはわかるが、地位や立場が上がれば、それだけ暮らしやすくなるんだから」

「まあ、そうだよな……」

 もうすぐ父親になるのだから、生活力が高いに越したことはないわけである。


 ハルトヴィヒは知らなかったが、アキラはフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵から、『今回の功で、ハルトヴィヒはおそらく準男爵を賜るだろう』と耳打ちされていたのだ。

 まだ本決定ではないので本人には知らせるな、とも言われている。

 他国から帰化した技術者が1代限りとはいえ貴族に列せられるのはかなり珍しいことである、とも前侯爵はアキラに言っていた。


*   *   *


 ソファに寝転びながらアキラが言う。

「モーターのデモンストレーションは面白かったな」

「ああ、あれな」

 ハルトヴィヒも頷く。

 ハルトヴィヒは現代日本でいう『ミシンモーター』程度のものを製作し、デモンストレーション用に『扇風機』を仕立てたのである。

 まだ春先なのでまだ使いたくなる気温ではないが、『風を送る器具』ということで、大歓迎されたのである。


「これはいい!」

「夏になったら重宝しますな」

 電源は『魔法式充電池』なので、『モーター』と併せてのデモンストレーションとなったのである。


 つまり、『扇風機』=『モーター』+『魔法式充電池』の有用性を示し、そのために『ハルトヴィヒ式発電システム』があることを説明。

 さらに『蒸気エンジン』が発電システムに必要であることを理解してもらい、熱源としての『ハルトコンロ』を紹介する、という流れである。

 この順序は事前にアキラとハルトヴィヒとで打ち合わせて決めたもので、技術の連鎖を理解してもらうのには有益だった。


 そして最後に『電信』。

 デモンストレーション用の電信機を使い、隣の部屋と通信を行ってみせたのだ。

 モールス符号は面倒そうだと思われたようだが、これが数キロ、数十キロ離れていても行えるということに、首脳陣は驚きをもって見入っていたのだ。


「僕1人の手柄じゃないさ。アキラの『異邦人エトランゼ』としての知識と『携通』の情報がなければ無理だったよ」

「それを言うならこっちだって、ハルトの技術がなければ再現できなかったさ」


「どうぞ、アキラ様、ハルトヴィヒ様」

 ちょうどそこへ、アネットが冷たいレモン水を運んできてくれた。

 少し気力が戻ってきたアキラとハルトヴィヒは、身を起こしてそれを口にする。

「……美味い」

「うん、美味いな。アネットもすっかり一人前だな」

「おそれいります」


 アネットは元ド・ラマーク家の侍女で現侍女長マゴットの孫で、つい先ごろまでは侍女見習いであった。

 家事の腕も上がった彼女を、経験を積むのにいいだろうと、今回アキラが王都行に伴ってきたのである。


 冷たいレモン水を飲んで大分気分がよくなってきたアキラとハルトヴィヒは、翌日のデモンストレーションの打ち合わせを始めた。


 アキラの報告は、『絹製品』以外には『蚕の選別』『甜菜糖』『雪室』『印鑑』『網戸と蝿帳はいちょう』『木炭』『畳』。

 『甜菜糖』と『畳』は前年にも紹介してはいたが、きちんとした製品としてのお披露目は今回が初めてだった。

 これらの説明を、どうわかりやすく行うか、2人は打ち合わせていくのであった。

 お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] てん菜糖と雪室があるなら、かき氷に決まってるじゃない(マリー並感)
[一言] >「おおお! これが『蒸気エンジン』か!」 『蒸気(ハルト)エンジン』ですね、わかりますん。 ハ「オイ、ヤメロ」 >臣下に与えることも可能だった。 妃 <◎>w<◎> 姫 <◎>д<◎…
[一言] >>そうそうたる面々がこぞって喰い付いたのである。 国王「ちょっと硬いな」ガジガジ >>アキラが持ち込んだ色鮮やかな絹織物とその製品であるドレスに目を奪われていた。 王妃「目、目がぁ!…
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