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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第9章 領地発展篇
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第十六話 マリエ

 真夏のド・ラマーク領、『絹屋敷』に住民が一人増えた。

 名は『マリエ』。

 フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵が手配してくれた助産婦経験のある侍女である。


 年齢は今年51歳。出産を機に侍女をやめ。家事と子育てに専念していたが、子供たちが皆成人しているのでこのたび1年契約でサポートに来てくれたというわけだ。

 男3人女4人と、7人の子供を産み育てており、地元では助産婦としての経験も積み、取り上げた子供は30人を超えるという。

 焦げ茶色の髪をポニーテールにまとめた小柄な女性である。

 体型はややふくよか。雰囲気は田舎のおかみさん、である。


「アキラ様、よろしくお願い致します」

「いや、こちらこそよろしくお願いするよ」

「早速ですが、奥様方はどちらに?」

「ああ、これから案内しよう」

「お願いいたします」


 最初なのでアキラ自ら案内を買って出た。

 向かったのは『絹屋敷』の厨房である。

「ミチア、いるかい?」

「はい、あなた」

 ミチアは昼食の下準備をしているところであった。


「紹介するよ。前侯爵閣下が寄越よこしてくれたマリエだ」

「マリエと申します。奥様、よろしくお願いいたします」

「あ、ええと、アキラ様の妻のミチアです。こちらこそよろしく」

 ミチアも元はフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵のところで侍女を務めていたわけであるが、マリエとの面識はない。

 というのも、マリエが侍女を辞めたのはミチアがまだ侍女として働き出す前だからだ。


「まだ体調に大きな変化はありませんか?」

「ええ。つわりもまだ軽いし……」

「それならよろしいのですが、のちほどゆっくりお話を聞かせていただきますので」

「ええ」


「……アキラ様、お子様がお出来になったご婦人はもうお一方いらっしゃいますよね?」

「ああ、紹介しよう」

 というわけで、アキラは研究棟へとマリエを案内していく。


「こちらがリーゼロッテ・ラグランジュさんだ。……リーゼ、紹介しよう。前侯爵が手配してくれたマリエだ」

「マリエと申します。リーゼロッテ様、よろしくお願い致します」

「マリエさん、よろしくね。それから、私のことはリーゼと呼んでちょうだい」

「では、リーゼ様、と」

「ええ、それでいいわ」


*   *   *


 昼食の時間となったので『絹屋敷』の全員が食堂に集まった。

 具体的には、アキラ、ミチア、ハルトヴィヒ、リーゼロッテ、そして領主補佐のアルフレッド・モンタン、侍女のマゴットとアネット、それに使用人のダンカンである。

 その場でもう一度、アキラはマリエを紹介した。

 

「……そういうわけで、マリエは向こう1年間、主にミチアとリーゼのケアをしてもらうことになる」

「皆様、よろしくお願いいたします」

 と、紹介が済んだところで、マリエからの質問が。

「アキラ様、他に人はいないのですか?」

「ああ、通常はこれだけだ」

「そうですか。侍女としてはマゴットさん、アネットさんがいますので大丈夫ですね」

「ああ、安心して家事を任せている」

「ですが、先程は奥様が厨房にいらっしゃいましたよね?」

「うん、ミチアは料理がうまいからな」


 だがマリエはそれを批判した。

「奥様、今後はそうしたお仕事をなさいませんように」

「どうしてです?」

「厨房での仕事はどうしても立ち仕事になってしまいます。それに、今後つわりがひどくなる可能性もあります」


 それについてはマゴットが説明した。

「私も奥様にご注意しているんですが、なかなかお聞き入れくださらなくて。それというのも、旦那様は奥様の手料理がお好きだからなんです」

「マ、マゴット!?」

「まあ……夫婦仲がおよろしいのも結構ですが、アキラ様、しばらくは奥様の手料理を我慢なさってくださいませ」

「う、うん、もちろんだ」


 アキラも注意されてしまった。

 そもそもアキラは、ミチアが『大丈夫です』というのをそのまま信じ、軽作業だから、ということもあって台所仕事をめていなかったのである。

 まだまだ貴族としての意識が低いアキラは、そんなミチアに注意することさえなかったのだった。


*   *   *


 マリエは人当たりも柔らかく、古参の侍女・使用人との軋轢も生じさせずに『絹屋敷』の生活を改善していった。

 ミチアとリーゼロッテへの指導も同時に行う。

 ミチアには立ち仕事、とくに力を込めるような仕事をなくすこと。夏でも身体を必要以上に冷やさないこと、を指導した。

 リーゼロッテには、冷えへの対策の他に、規則的な生活をするようにと厳しく言い含める。


「リーゼ様、睡眠時間を削っての研究は絶対になさってはいけません。ハルトヴィヒ様も、リーゼ様をお止めしなければいけませんよ?」

「う、うん……」

「わかりましたね?」

「はい……」


 そして、手が空いた時間には、ミチアと共に『携通』の情報を確認する。もちろんリーゼロッテも参加させて。

「ははあ、つわりというのは『ホルモン』? のバランスが崩れることで起きるのですね」

「それに、身体がアレルギー反応を起こしている可能性もあるみたいよ」

「原因がわかっても、『異邦人エトランゼ』様の世界ではないのですから、対処できないことが多いですね」

「それでも、食事を少なめに、回数を増やすとか、無理せず流動食……ジュース類でカロリーやビタミン・ミネラルを摂るとか、できそうなこともありますね」


 そうした『携通の情報』に加えて、マリエの経験による対策……『好みの香り』を見つけ、リラックスする……なども実践していく。

 食べ物の匂いが苦手になる人は多く、香水のきつい匂いが駄目、という人もいる。

 が、柑橘系やミント系のほのかな香り(あくまでもほのかであり、くどくてはいけない)は平気、というケースは多い(この世界調べ)。

 それに加え、テレピン系……針葉樹の香り、森の香り……も候補に入れられることが『携通』からの情報でわかった。


 結果、ミチアは柑橘系、リーゼロッテは柑橘系とミント系の香りが癒しになることもわかり、質のよい睡眠が取れるようになったのは僥倖であった。


 そして、季節は巡る……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は1月22日(土)10:00の予定です。


 20220115 修正

(誤) 年齢は51歳。出産とともに侍女をやめて子育てに専念していたという。

 今は子供も皆独り立ちし、手が掛からなくなったということで前侯爵の要請に応じ、こうして来てくれたのである。

(正)(消去) 修正時に消し忘れたようです m(_ _)m

(誤)雰囲気は田舎の御上さん、である。

(正)雰囲気は田舎のおかみさん、である。


 20220116 修正

(誤)「こちらがリーゼロッテ・アイヒベルガーさんだ。

(正)「こちらがリーゼロッテ・ラグランジュさんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 助産婦経験豊富な人材はどこでも引っ張りだこでしょうに前侯爵もいい人をこちらに送ってくれましたねー
[一言] >>フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵が手配してくれた助産婦経験のある侍女である。 サンバ! >>取り上げた子供は30人を超えるという。 つまり、子供を取り上げられて、返してと泣き…
[一言] >>51歳 仁「重要な事なので2回なのかな?」 56「○○コンだと不味い年齢?」 明「誰かとは違うぞ」 >>軋轢も生じさせずに 仁「屋敷のボスへと就任か・・・」 56「家だと最下位しか決ま…
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