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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第9章 領地発展篇
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第五話 漆職人

 侯爵邸へ戻ったアキラは、レオナール・マレク・ド・ルミエ現侯爵とフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵に外出の報告を行った。


「ふむ、『漆』職人だと?」

「はい。どうやら、数十年前にやってきた『異邦人エトランゼ』の弟子らしいです」

「ほほう……」

「詳しい話はまだ聞いておりませんが、その『異邦人エトランゼ』は世に出ることなく、辺境で弟子を育て、そして没したようです」

「そういう無名の『異邦人エトランゼ』もおるのだな……」

「それで、明日、こちらに呼んで色々と話を聞いてみたいと思うのですが。できればお抱えにしたいとも思っています」

「うむ、そうか。出立日を1日延ばそう」

「さっそくのお聞き届け、ありがとうございます」

「なに、貴重な技術者を得られるかどうかの瀬戸際だ。一向に構わんよ」


 こうして、翌日侯爵邸に『漆職人』を呼ぶことになり、アキラはレオナール侯爵に頼み、ローマンを例の店にやってその旨を伝えさせたのだった。


*   *   *


 翌日、午前9時。

 3人の『漆職人』がレオナール侯爵邸にやってきた。

 侯爵邸の応接間でアキラとレオナール侯爵、フィルマン前侯爵が謁見する。


「レックスです」

「ブルーノと申します」

「ゴードンといいます」

 レックスは暗い金髪に茶色の目。ブルーノは焦げ茶の髪に茶色の目。ゴードンは明るい茶色の髪、茶色の目をしていた。

 年齢はブルーノが一番年長で49歳、レックスが32歳、ゴードンが28歳ということだった。


「はじめまして、だな。『異邦人エトランゼ』のアキラ・ムラタ・ド・ラマーク男爵だ。こちらは領主の侯爵閣下、そちらはそのお父上の前侯爵閣下だ」

 アキラがそう告げると、3人の職人は平伏した。

「これ、そう緊張するでない。そなたたちは『異邦人エトランゼ』の弟子ということだが、その方のお名前は? 経歴もよければ聞かせてくれるかな?」

 レオナール侯爵が気さくに声をかけると、3人はゆっくりと顔を上げた。

「は、はい」

 一番年長のブルーノが代表して話し始める。

 それによると……。


 『異邦人エトランゼ』の名前はゴンゾウ・マエダ。

 それを聞いたアキラは、前田権蔵、あるいは前田権三、と書くのであろうか……と考えていた。


 こちらに迷い込んだ時にはもう50歳を超えていたという。

 場所はここガーリア王国の東にあるブリタニー王国。

 そこの山中に迷い込み、山の中にあった集落に定住。

 数年後、『漆職人』として集落のために尽くす。

 が、思ったほどには売れず、落胆。

 それでも集落の有志数名に『漆』関連の技術を指導。


 ところが、大雨と土砂崩れにより、集落は消滅。

 難民として国境を越えてガーリア王国へやって来た。

 そこの山村に落ち着き、また『漆職人』として過ごし、村人に技術指導。

 12年後没。享年78。


 これがゴンゾウ・マエダの経歴だという。


「弟子は何人いたんだい?」

「ブリタニー王国では4人いたそうです。こちらでは我々3人です」

「そうか」

「そして先生は、『漆塗り』を理解してくれる人を探し、後ろ盾になってもらうよう常々仰られてました」

「そうだろうな」


 異質な技術を根付かせるには時間が掛かるし、費用も掛かる。また人手も必要である。

 つまり権力者の後ろ盾があれば有利なのだ。

 そういう意味で、フィルマン前侯爵と出会えたアキラは非常に運がよかったといえるだろう。


「事情はわかった。それで、君たちはどんな技術を学んだんだ?」

 アキラの問いに、3人は口々に答える。

 それによれば、『漆液の採取』『漆液の精製』『塗りの基本』までを学んだという。

 少々微妙だが、アキラとしては『漆液』を手に入れたいと常々思っていたので、彼らの技術は是非とも欲しかった。


「何か、腕前を示せるものを持ってきたかな?」

 これは大事である。

 自分を他者にアピールするなら、製品サンプルは必須だ。

 同時に、相手が『見る目』を持っているかも見極めることができる。


「はい、持参しております」

 3人はそれぞれ自分の作品を持参していた。

「ふむ、『拭き漆』だったかな」

「よくご存知ですね」

「さすが『異邦人エトランゼ』様」


 3人共、いわゆる『拭き漆』の作品を持参していた。

 これは、漆液……ウルシの木から採った樹液を簡単に精製したものを木にり込んで仕上げる技法である。

 木の木目を生かしつつ、品のいい茶色に仕上げられる。


 レックスは『くし』。

 ブルーノは『小皿』。

 ゴードンは『小箱』だった。

 いずれもかなりいい出来で、十分売り物になると思われた。


 それらは現侯爵と前侯爵にも見てもらい、『よい出来』との評価をもらうことが出来たのだった。


「それで、いかがでしょうか、アキラ様」

 おそるおそるゴードンが尋ねてきた。

「そうだな、是非うちの領地に来てほしい」

「ほ、本当ですか!」

「もちろんだ」

「あ、ありがとうございます!」


 当然、現侯爵も前侯爵も反対はしないし、自領に欲しいとも言わない。

 『異邦人エトランゼ』の技術を最も生かせるのは『異邦人エトランゼ』であることを知っているからだ。


 その後アキラはいつ頃ド・ラマーク領に来られるか、また、その場合の荷物はどのくらいか、などを確認。

 アキラ側にも受け入れ準備があるからだ。

 その上で支度金として5000フロン(およそ50万円)ずつを渡し、ローマンを付けて帰らせた。

 ローマンを同行させたのは持ち逃げを予防するためであることを付け加えておく。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月30日(土)10:00の予定です。


 20211023 修正

(誤)年齢はゴードンが一番年長で49歳

(正)年齢はブルーノが一番年長で49歳

(誤)一番年長のゴードンが代表して話し始める。

(正)一番年長のブルーノが代表して話し始める。


(誤)その上で支度金として5000フロン(およそ50万円)ずつを支度金として渡し、ローマンを付けて帰らせた

(正)その上で支度金として5000フロン(およそ50万円)ずつを渡し、ローマンを付けて帰らせた

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― 新着の感想 ―
[一言] アキラも最初にこの世界に出た場所次第では多少技術を伝えるくらいで埋もれていた可能性はあったんでしょうねえ
[一言] >>漆職人 漆職人の朝は早い、起き抜けに漆を顔に塗りたくるのだ。 漆職人「漆に慣れるための伝統行事だとか」 >>侯爵邸へ戻ったアキラは、レオナール・マレク・ド・ルミエ現侯爵とフィルマン・…
[良い点] 漆はやっぱり日本人なら使いたくなるよね…… [一言] なんとなく、家業が詰んだので〜でやってた金継ぎをおもいだした
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