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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第8章 新生活篇
221/434

第二十九話 木工旋盤の可能性

「俺、急がないでいい、って言ったよな……?」

「うん、まあ、な……」

 アキラの目の前に鎮座している器械。

 それは『木工旋盤』であった。アキラが望んだとおりの。


 とはいえ、先日アキラがハルトヴィヒに相談してからまだ3日目である。

「……もうできたのか」

「いやあ、こういうのを作るのは好きだからね」

「それにしても早かったな」

「ああ。アキラが細かい質問に答えてくれたからね」

 そう、依頼した後、ハルトヴィヒはアキラに『木工旋盤』の詳細な仕様を尋ね、アキラもそれらに答えていた。答えられない点は『携通』も使って……。


「動力は足踏みか」

「うん。最初にはずみ車を回し、そのあとは踏み込んでいけば回転し続ける」

 要するに、地球でも使われていた『足踏みミシン』方式である。

 踏み板が上下するとそれがクランクシャフトに伝わり、回転軸を回す。

 金属加工でないなら、これで十分なのである。


「試してみたかい?」

「もちろん。ほら」

 ハルトヴィヒが差し出したのは見事な丸棒であった。長さ60センチ、太さ5センチほど。

「5分でこれを作った」

「おお」


 これまではある程度手慣れた職人が手仕事で行っていたが、この『木工旋盤』があれば、こうした丸棒が量産できる。

 もしも、柱にするような大きいものが必要なら、大型の木工旋盤を作ればいい。その際は足踏みではなく、水車などの動力を使う必要があるだろうが……。

 だが今は、生まれたばかりの『木工旋盤』を使いこなし改良していく段階だ。


「まあ、似たようなものを使ったことがあったからな」

「へえ? それって『帝国』でかい?」

 ハルトヴィヒの出身は今いるガーリア王国ではなく、隣国であるゲルマンス帝国なのだ。

「帝国は『器械』関係はここよりいくらか進んでいたからね。……もちろん、過去に『異邦人エトランゼ』がいたからなんだが」

「なるほど」

「そこに、これほどじゃないけど、棒を丸く削るための器械があったんだよ」

「そういうことか」


 どんな構造なのか気になったアキラは、ハルトヴィヒに尋ねてみる。

「加工材の両端に鉄の芯棒を打ち込んで、それをV字になった鉄の軸受に乗っけるんだ」

「ああ、そうすればその軸を中心に回転させられるからな」

「そう。数人掛かりで加工材を回してもらって、加工者が削っていくんだ」

「なるほど、原理は旋盤と同じだな」

「まあね。だがなぜかそれ以上の改良をしようとしなかったな」

「何でだろうな?」

 あと少し工夫すればもっと使いやすくなるだろうと、木工職人ではないアキラにも思われたのに。


「何かこだわりがあったのかもしれない。僕にはわからないけどね」

「そうか。まあ、他所よその国のことだからいいさ」

 その話はそれで終わりとなったのである。


*   *   *


「でだ」

 アキラは目の前にある木工旋盤に話を戻す。

「これにはまだ色々な使い方があるんだ」

「ああ、『オプション』を使うんだな」

「そうそう」


 アキラはハルトヴィヒに依頼する際、様々なオプションの絵を描いて説明していた。

 そしてハルトヴィヒはそれらを忠実に再現してくれたのである。


「まずはこれでこう、加工材を掴んで」

「うん」

「こうやって削ると、ほら、凹面ができるだろう?」

「おお!」

 アキラが示したのは『丸盆』や『丸皿』、『小鉢』、『ボウル』などを作るための治具。

「コップもできるな!」

「うまくやればかなり薄いコップができると思う」

「だな」


 これまで、コップを作る際には、『ドリル』に似た工具を使って丸太や角材を『くり抜き』、その後外側を刃物で削り出して作っていた。

 ジョッキのような大物はくり抜くのではなく、小さな『たる』もしくは『おけ』を作る要領で組み立てられている。


「これで作った製品が特産品になるといいな」

「まずは職人の育成からだ」

「それは僕がやろう。だからまずは僕がこれを使いこなさないとね」

 やる気を見せるハルトヴィヒであった。


*   *   *


 そして2日、ハルトヴィヒは工房に籠もって木工旋盤を使いこなすべくいろいろとやっていたが、ついにとりあえず納得のいくレベルになったようで、たくさんの作品と共にアキラの前に現れた。

「どうだい? もちろん、技術的にはまだまだつたないけど、木工旋盤の可能性は見えてきたと思う」

「ううん、これはすごいな……」

 ハルトヴィヒが作った作品は十数点にも及ぶ。その数倍の不良品を出したらしいが、それは置いておいて、アキラは素直に作品群に目を奪われた。


 コップ。250ミリリットルくらい入るそれは、肉厚が3ミリほどと、とても軽いモノに仕上がっていた。

 ジョッキ。500ミリリットルくらいの大きさで、程々の重さがある。取っ手は後付けになっていた。

 サラダボウル。直径30センチで、肉厚は1センチくらい。どっしりしていて使いやすそうである。

 小鉢。直径10センチくらい。サラダや煮物を取り分けるお一人様サイズ。

 小皿。直径10センチほどで醤油用にちょうどよさそう。

 菓子器。直径30センチくらいでサラダボウルよりは浅い。果物を盛り付けるのに使える。

 お椀。アキラにとっては馴染み深い、味噌汁用のお椀である。

 さかずき。こちらの世界では使われているのを見たことがないので、ハルトヴィヒが『携通』で見て参考にしたと思われる。


 食器以外にもいろいろとあった。

 丸盆。直径30センチ、厚み1センチほど(今回の木工旋盤では直径30センチが限度である)。

 こけし。『携通』で見て、見様見真似で作ったものと思われる。

 飾りのある丸棒。椅子の脚や手すりなどに使えそうである。

 ペン軸。真円に削られているが、これが使いやすいかどうかは不明。

 円柱。直径5センチ、高さ10センチ。練習に作ったという。積み木になるかもしれない。

 円錐。直径5センチ、高さ10センチ。これも練習として作ったそうだ。これも積み木として使えそうだ(ただし尖っているので危ないかも)。


「少しの練習で、これだけのものが作れる。木工旋盤なしでこれだけのものを作ろうと思ったら、年単位での修業が必要だろうな」

「なるほど。つまり、少し練習すれば、誰でもそこそこ品質のものを作れるということだな」

「そういうこと」

 これは朗報である。冬という農閑期に、特産品を作る手段が増えたわけだ。


「あとは塗装について考えることだな」

「うん。それに、加工に適した木を知ることかな」


 この冬のド・ラマーク領は忙しくなりそうである。

 お読みいただきありがとうございます。


 20210828 修正

(誤)もしも、柱にするような大きいものが必要なら、大型の木工旋盤を作れないい。

(正)もしも、柱にするような大きいものが必要なら、大型の木工旋盤を作ればいい。


 20230309 修正

(誤)ジョッキのような大物はくり抜くのはなく、小さな『樽たる』もしくは『桶おけ』を作る要領で組み立てられているジョッキのような大物はくり抜くのではなく、小さな『樽たる』もしくは『桶おけ』を作る要領で組み立てられている。。

(正)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 旋盤使うなら安全メガネが大事だゾイ。ズイ(ง ˘ω˘ )วズイ いや、雪メガネで当面は代用出来るけどね?
[一言] 読んでてふと思い出したのが、野菜の皮むき器なんですよね あれ一つあるとないで、料理の準備時間が全然変わってきちゃうという ジ「大昔、実家に持って行った時、母が『これはズルい』と愕然としてた…
[一言] 材料が木ですし失敗作なんかは焚付にでも使えばいいでしょうからドンドン練習させて職人を育て上げたいですねえ
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