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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第1章 基盤強化篇
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第十一話 電気を作る(一)

ほとんど虫は出ません

 ゴドノフたち5人の『幹部候補生』による蚕の世話は順調だった。

 孵化、1齢幼虫『毛蚕けご』を経て4日間で1センチほどに成長し、今は2齢となって少し白くなっている。

「大きくなってくるのが楽しみですだ」

「世話のしがいがあります」

 などと、やる気を見せてくれている。


 一方アキラはというと、大きな問題を解決すべく、頭を悩ませていた。

「うーん……」

 与えられた『離れ』で腕を組み、俯いたまま唸っているアキラを心配し、ミチアがそっと尋ねた。

「アキラさん、悩みごとですか?」

 声を掛けられたアキラははっとした様子で顔を上げた。

「え……あ、ああ、ミチア。うん、まあ、悩みごと……なんだろうな」

「ええと、それって、誰かに相談してはいけないのでしょうか?」

「え?」

 ミチアは微笑みながらアキラに言う。

「悩みごとは誰かに相談できるのでしたら、そうなさったほうがよろしいのでは? お一人で悩んでらっしゃるのはあまりよくないのではと思うんです」

 アキラは苦笑し、頭を掻いた。

「そう……かな。そう……だな。『下手の考え休むに似たり』だ。よしミチア、ハルトとリーゼを呼んできてくれるかい?」

「はい、わかりました」

 ミチアは『離れ』を飛び出していき、すぐに2人を連れて戻ってきた。

 『濾過器』の方は一段落していたし、『鉛筆』制作も、『粘土』を手配中なので、2人とも手が空いていたのは幸いだった。 


「アキラ、また何か面白そうなことかい?」

「だったら何でもやるわよ!」

「うん、まあ、座ってくれ」

 アキラははやる2人をなだめ、椅子を勧めた。

「お茶淹れますね」

 ミチアは気を利かせ、お茶を用意するのであった。


 お茶を飲みながらアキラは切り出した。

「実は、『電気』を作りたいんだよ」

「でんき?」

「でんきって、なんだい?」

 わかってはいたが、予想どおりの反応にアキラは苦笑する。

「まあ、そういう反応が普通だろうな。……電気というのは、そう、雷は電気だな」

「へえ……雷と同じものか」

 ハルトヴィヒが興味深そうに頷いた。

「だけど、雷を作りたいんじゃない。……なんでそんなことを言いだしたかというと、これなんだ」

 アキラはテーブルの上に、1センチほど厚みのある長方形の板を置いた。

「なんだい、これ?」

「『携帯汎用通信機』っていうんだ」


 アキラが取り出した『携帯汎用通信機』、通称『携通(K2)』は、いわゆるスマートフォンの仲間である。

 一般的な通信機能以外にも、データ保存、データ処理その他、用途は広い。

 そしてこの携通(K2)には、アキラが必要とする科学的な資料が保存されていた。性能的には専門書100冊くらいのデータを保存することができるのだ。

 とはいえ、アキラは紙媒体にロマンを感じていたので、あまり多くの資料は保存されていない。

 そして、アキラがこの世界に迷い込んだ当初から内蔵バッテリーは消耗しており、家に帰ってから充電しようと思っていたのである。

 今では完全に電池切れで使用できなくなっていた。

 それでもこれが使えるようになれば、曖昧な科学知識を補完できるはずなのである。

 また、電気分解や電気めっきなどの工業にも応用できるはずであった。


「ふむ、なるほど。それにはアキラの世界の知識が詰まっていて、動かすためには『電気』が必要ということなんだな」

 ハルトヴィヒが端的にまとめた。

「そうなんだ」

「……で、『電気』を作るにはどうすればいいのか、アキラは知ってるのかしら?」

 アキラは頷いた。

「ああ。それにはまず『電池』というものを作らなければならないんだ」

「そこで僕とリーゼの出番、というわけだな?」

「面白そう! ねえねえ、何をすればいいの?」

 ハルトヴィヒとリーゼロッテは大乗り気である。


 それを横で聞いていたミチアは肩を落とした。

 確かにこの内容では、アキラが自分に相談するはずがない、と理解したのだ。

 だが、次のアキラの言葉にミチアははっとする。

「まずは簡単な電池を作って、電気とはどういうものか知ってもらった方がいいかな。……ミチア、今の季節、果物って何がある?」

 自分に話が回ってきたと思ったら、電池とは全く関係なさそうな果物の話だったので、ミチアは面食らった。

「え、あ、はい。今の季節ですと、まだ少し早いかもですが『リンゴ』か『オレンジ』ですね」

「すぐ手に入るかな?」

「ええ。リンゴでしたら届いていると思いますよ」

「よし、それじゃあ1個でいいから欲しいんだけど」

「では、いただいてきます」

 自分にもできることがあった、とミチアは少し気をよくし、本館へと駆け出していった。


 続いてアキラはハルトヴィヒに尋ねる。

「ハルト、銅と亜鉛の板って手に入るかな? それに銅の細い針金も」

「ああ、大量にでなければ大丈夫だ」

「大きさは2センチの5センチくらいでいいんだ。針金は太さ1ミリ以下でいい」

「なら簡単だ。10枚ずつあればいいか?」

「うん、十分だ。針金は2メートルくらい頼む」

「おやすいご用だ」


 最後にアキラはリーゼロッテに、

「砂鉄、って知っているかい?」

 と尋ねた。

「さてつ? ……知らないわ」

 がその答え。

 アキラは少し考えると、

「ハルト、あと鉄の釘も用意してくれ」

 と頼んだ。

 ハルトヴィヒは二つ返事で引き受ける。釘なら、先日『濾過器』を作った際に使った釘が余っていたからだ。

「ちょっと待っててくれ。言われたものを揃えてくる」

 と言って、彼は工房へと向かった。


「アキラさん、リンゴをもらってきました」

 そこへミチアが、リンゴを2個、もらって帰ってきた。

「よし、それじゃあ用意をしよう」

 まずリンゴを4つに切る。それを4枚の陶製の皿に置く。


「アキラ、これでいいかい?」

 リンゴを切り分け終わった頃、ハルトヴィヒがアキラの要求した素材を持って戻ってきた。

「ああ、ありがとう」

 アキラはリンゴに銅の板と亜鉛の板を突き刺していく。それが4つ。

 そしてハルトヴィヒには、

「ハルト、この板とこの板を、針金で繋げるかな」

 と頼んだ。

「ああ、任せてくれ。……《クレーベン》」

 ハルトヴィヒの魔法により、まるでスポット溶接したかのように銅線が銅板、亜鉛板にくっついた。

 いよいよ実験開始である。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 明日4月8日(日)も更新します。


 20180407 修正

(旧)バリコム

(新)携通(K2)

 バリコム、という会社があるようなので商標対策に。


(誤)「そこで僕とリーゼの出番、とうわけだな?」

(正)「そこで僕とリーゼの出番、というわけだな?」

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― 新着の感想 ―
砂鉄って欧州では一般的では無かったんでしょうか?
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