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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第8章 新生活篇
214/433

第二十二話 報告会 参

 リーゼロッテ担当の報告はあと1つ。『ぬか』である。

 『ぬか袋』の効能に関しては今更であるが、『ぬか』についての詳細を行うのだ。


「『ぬか袋』につきましては、もう皆様ご存知だと思いますので、米ぬかの効能について説明させていただきます」

「うむ」

「米ぬかを使うと汚れが落ちることはご存知でしょう。食器の油汚れにも有効です。手荒れも起こしにくく、有益です」

「おお、なるほどのう」

「それから、洗顔にも使えます。ぬか袋としてではなく、米ぬかを少量の水で練って顔に塗り込み、その後洗い流すだけです。お肌がすべすべになります」

「それはいいな。あとで館の者たち全員に教えてやろう」

 フィルマン前侯爵は嬉しそうに言った。


「ぜひそうなさってください。……それから、米ぬかの油脂分を使い、床板や壁板を磨くと艶が出ます」

 実際に現代日本では、米ぬかを使ったワックスも商品化されている。

「ぬかを布でくるみ、こすり付けるだけです」

「それはいいですな。後ほど試してみましょう」

 家宰のセヴランが興味深そうに言った。


「それから、腐葉土と混ぜて熟成させることで堆肥たいひもできるのですが、まだそこまでの量の米ぬかが採れるわけではないので、今の段階ではそういう用途もあるとのみご承知おきください」

「うむ」


「最後になりますが、アキラ様からお教えいただいて『ぬか漬け』なる食品加工法を模索中であることを報告させていただき、終わりたいと思います」

 『携通』に簡単な情報があっただけなので、『ぬか漬け』のやり方はまだ確立してはいなかったのである。

「うむ、ご苦労であった」


*   *   *


「それでは、私の報告をさせていただきます」

 今度はハルトヴィヒの番である。


「まずは『太陽熱温水タンク』。未だ研究中ですが、冬場に身体を拭くくらいの温水は作れます。煮炊きの燃料節約にもなります」

「ふむ」

「最終目標は風呂のお湯をこれで賄うことですので、まだまだ完成には程遠いと思っております」

「そうじゃな。今のままではまだ『費用対効果』が不十分だ」

「はい。これからも研究してまいります」

「うむ」


「もう1つ、リーゼロッテと共同開発しました『保存庫』です。こちらは完成しました」

 ハルトヴィヒは詳しい説明を行う。

「生鮮食品を保存するものですが、単に庫内の温度を下げるだけでなく、魔法を併用することでより長期間の保存を可能にしました」

「おお、それは朗報だ!」

「それはいいですな!」

 前侯爵、現公爵、セヴランら、『蔦屋敷』の面々は身を乗り出すほどに興味を惹かれたようだ。


「低温はもちろんですが……まず、傷む、腐るということは、『細菌』のせいだから『《ザウバー》』で滅菌します」

「うむ、理屈じゃな」

 フィルマン前侯爵は頷いた。

 細菌については、以前『結膜炎』が流行した際に身に沁みて理解している。


「それから生ものが傷むのは『酸化』もあります。そこで酸素を減らしました」

「なるほどのう」

「そして化学変化を起こしにくくする魔法『《スタビライズ》』の効果を庫内に及ぼすようにしました」

「ふむ」

「これらの効果を組み合わせたことで、少なくとも半年は鮮度を保って保存できました。おそらく1年間は大丈夫でしょう」

「半年までは検証済みか。1年保存が利けばいいのう」

「はい。とりあえず半年ということは、冬に夏のものが手に入るということです」

「そうじゃな。それは嬉しいのう」

「ド・ラマーク領では『桑の葉』それから『タデアイの葉』の保存を行っております」

「生鮮食品は試していないのか?」

「試験的に、川魚と鹿肉、いくらかの野菜で試しました」

「それならば、効果は間違いなくあるようじゃな」

「以上で、私からの報告を終わります」

 ハルトヴィヒは一礼して席に戻った。


「補足の提案があります」

 ここでアキラが発言する。

「何かな、アキラ殿」

「はい。……ええと、私の世界には『保冷車』というようなものがありまして、低温保存した食品などを輸送する専用の車があります」

 クールな宅配便を思い出しながらアキラは説明を行った。


「うむ」

「ですので、同じものではありませんが、こちらでもそうした『保存庫』付きの馬車を作ったらどうでしょうか」

「おお、長旅でも新鮮な食材が手に入るな」

「いえ、それだけではなく、海のある地方から内陸へ、魚などを運べます」

「おお、そうじゃな」


 ここリオン地方は海から遠く、新鮮な魚といえば川や湖で捕れる淡水魚だけであった。

 だが、この『保存庫』付きの専用馬車を作れれば、今以上に鮮魚が口にできるということ。

 そして同時にこれは流通革命であり、経済発展にも大きく寄与するであろうと前侯爵は考えたのである。


「よし。まずは『蔦屋敷』に保存庫を作ってくれ。その後、馬車に積める……いや、最初から保存庫付きの馬車も作ってもらおうか」

「はい、閣下」

 ハルトヴィヒは自席で頭を下げた。


*   *   *


 そして、再びアキラからの報告になる。


「街道工事をしながら試してきました結果、道路の舗装方法は『マカダム舗装』が最もコストパフォーマンスがよいことがわかりました」

「ふむ、なるほどな」

「ご存知のように『マカダム舗装』は砕石を敷き、突き固めたものです。砕石は大抵の場合現場もしくはその近隣で調達できますし、破砕にはハンマーとタガネがあれば十分です」

「そうじゃな。以前アキラ殿に聞いたところによると、今の馬車の3倍から4倍の重さになると舗装が傷むかもしれないということであったな?」

「はい。工法によっても変わりますのでどのくらいから、と明言はできませんが」


 補修が楽である、というメリットがあり、これは道路の保守という意味で非常に有利である。

 アスファルト舗装の場合、補修したところに段差ができてしまうが、マカダム舗装の場合はそれがほとんどないからだ。


「いずれ、王都までの道が全て舗装できたらいいのう」

 フィルマン前侯爵は夢を語った。

「はい。そうなれば、馬車の速度も倍とまではいきませんが5割増しくらいにはなるでしょうから、流通も活性化しますね」

「そうなれば当然、経済成長も望めるな」

「はい」

「未来は明るいのう」

 前侯爵は祖国の将来に明るいものを感じたようだった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月17日(土)10:00の予定です。


 20210710 修正

(誤)『ぬか漬け』なる食品加工方を模索中であることを報告させていただき、終わりたいと思います」

(正)『ぬか漬け』なる食品加工法を模索中であることを報告させていただき、終わりたいと思います」

(誤)「はい。そうなれば、馬車の速度も倍とまでは生きませんが5割増しくらいにはなるでしょうから

(正)「はい。そうなれば、馬車の速度も倍とまではいきませんが5割増しくらいにはなるでしょうから


 20230619 修正

(誤)「半年までは検証済みか。1年保存が効けばいいのう」

(正)「半年までは検証済みか。1年保存が利けばいいのう」

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― 新着の感想 ―
[一言] 僻地から次々に生まれる発明や文化が王国を豊かにしていくんだと思うとほんと未来は明るいですねえ
[一言] なんか別作品に比べて、こっちではお婆ちゃんの知恵袋的知識も現役ですよね 血なまぐさい死傷者もいないし、平和でいいわ〜 フ「本当になぁ……」実感。 公「お前さんは毎日死んどるからの」 ジ「い…
[一言] >>リーゼロッテ担当の報告はあと1つ。『ぬか』である。 ああ、地球と違って異世界だと戦略兵器の『ぬか』の事ですね! >>それから、洗顔にも使えます。 ハルト「食器洗い中に洗顔も出来ます…
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