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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第8章 新生活篇
202/433

第十話 もう1つの候補

 ワサビ醤油で食べたステーキの味は……。

「……う……か、辛い!」

「は、鼻が……」

 ハルトヴィヒとリーゼロッテは、鼻につんと抜けるワサビ独特の辛味に顔をしかめていた。

「2人ともちょっと付け過ぎだな」

「〜〜〜〜〜!!」


 しばらく鼻を押さえ、俯いて涙目になっていたが、

「……あ、でも、癖になるかも」

 と、リーゼロッテ。

「うん、確かにな。油っこさが和らいだ感じがする」

 そう言いながらハルトヴィヒは少し控えめにワサビ醤油を付け、もう一口。

「……うん、これならちょうどいい。慣れてくると美味いな」

「ほんとね。付け過ぎなければ美味しいわ」


 コショウとはまた違った風味に慣れてくると、辛味を楽しめるようになってくるようだ。

 そもそも、辛味成分といっても幾種類もある。


 トウガラシはカプサイシン。

 コショウはピペリン。

 ショウガ(ジンジャー)はジンゲ(ギンゲ)ロール、ショウガオール。

 サンショウはサンショオール。

 そしてワサビは硫化アリル・アリルイソチオシアネートなどアリル化合物だ。ちなみにカラシや、ネギ・ニンニク・ダイコンの辛味成分もアリル化合物である。

 アリル化合物は揮発しやすいのが特徴だ。

 なお、辛味は味覚ではなく痛覚であると言われている。


 それはさておき、ワサビ醤油の使い方に慣れてきたハルトヴィヒとリーゼロッテは、同時に味も気に入ったようだ。

「うん、あぶらっこさが緩和される気がするわ」

「同感だ。……閣下にもお勧めじゃないかな?」

「確かにな」

 フィルマン前侯爵は、最近脂っこいものが苦手になってきたと言っていたような気がする、とアキラは思い出した。

 この世界の人たちにワサビが受け入れられるか心配に思うアキラにとって朗報である。


「それじゃあ、これなら栽培の支援をしてもらえるかな?」

「大丈夫だと思いますよ」

 ミチアが真っ先に保証してくれた。

「あとは、もう少しお料理のバリエーションを増やすといいのではないでしょうか」

「なるほど。……具体的には?」

「そうですね、私でしたら、お醤油、赤ワイン、お砂糖、ワインビネガーでソースを作ります」

「それにワサビを合わせるわけか」

「はい」

「それも美味しそうだな」

「あとは……また考えておきます」

「わかった」


 そんなやり取りのあと、アキラは前侯爵のところへ行く準備をし始めた。

 『蔦屋敷』への訪問は1日がかりになってしまうのだから。


「旦那様、夜分恐れ入ります」

 そこへ、領主補佐のアルフレッド・モンタンがやって来た。

「『甘大根』のサンプルが手に入りましたのでお持ちしました」

 3本の甘大根がお盆に載っていた。

「お、ありがとう」

 ワサビが見つかったことで頭から抜けていたが、この『甘大根』も産物候補に挙げていたことをアキラは思い出した。


「これが甘大根か……」

 手に取ってしげしげと眺める。

 根の部分の長さは10センチくらい。太さは8センチほど。葉っぱはあまり大根らしくなかった。

「これが甘いわけか……うん? 甘い? 大根?」


 アキラは『携通』を取り出し、何やら検索していたが、

「これは……もしかすると砂糖が取れるかもしれないぞ!」

 と言い出した。

 それを聞いたミチア、ハルトヴィヒ、リーゼロッテ、アルフレッドらは驚く。

「砂糖が取れる? 砂糖はサトウキビから取るんじゃなくて?」

 そう言ったのはリーゼロッテ。

 アキラが答えて曰く。

「うん。サトウキビは主要な砂糖の原料だけど、これがもしも『甜菜てんさい』とも言われるサトウダイコンの仲間だったら、こいつからも砂糖を作ることができるはずだ」


「旦那様、それができたなら、この地方の農家は楽になりますよ。収入も倍増すること間違いなしです」

「そうか。それは嬉しい。でもまずは、こいつから砂糖が取れるかどうかだ」

「アキラさん、それでしたら私にやらせてください」

 ミチアが名乗りを上げた。


「『携通』の情報を書写していたときに、サトウダイコンから砂糖を取る手順が少しだけあったことを覚えています」

 ミチアの記憶力は驚異的なのである。


「刻んで煮て、灰で不純物を沈殿させる、とありました」

「それだけか?」

「ええ。多分、『灰で不純物を沈殿させる』のがコツなのでしょう」

「そうだろうな」

 甘大根を食べる、ということがあまり一般的ではない理由の一つが灰汁の強さなのだろう、とアキラは想像した。

「灰を使う、ということは多分『灰汁あく』が強いのだと思います」

 ミチアは一般的な葉物野菜を煮るときにも灰汁あく抜きのために草木灰を入れることがあるから、と言った。


「わかった。粉砂糖にまでしなくていいから、やってみてくれるか? 明日1日あればできるかな?」

「おおよその目処は付くと思いますよ」

「なら、私も手伝うわ」

 リーゼロッテも名乗りを上げてくれたので、アキラは2人に任せることにした。

 それに合わせ、フィルマン前侯爵に会いに行く日も明後日にする。

 どうせなら『ワサビ』と『甜菜てんさい』の2つをいっぺんに紹介したいからだ。


「アルフレッドは、明日、できたらもう少し『甘大根』を集めてきてくれないか?」

「はい、承りました」

「俺は庭や近所に生えているワサビを探すよ」


 こうして、ワサビと甜菜てんさいという、大きな産業の元となりそうな植物が見つかったのである。


「うまくいくといいなあ」

 それはアキラの心からの叫びであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月24日(土)10:00の予定です。


 お知らせ:4月17日(土)早朝から18日(日)昼過ぎまで不在となります。

      その間レスできませんのでご了承ください。


 20210418 修正

(誤)アリル化合物は揮発は揮発しやすいのが特徴だ。

(正)アリル化合物は揮発しやすいのが特徴だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >わさび 涼しい気候ならソバも育ちそう。 ソバにワサビつけて食べたい。 というか、海産物以外はこの土地の産物でソバを作れそうな件。
[一言] 甜菜は、異世界物でも喉から手が出るくらい欲しい物ですよね。。
[一言] 甜菜を擦り下ろして濾して汁を煮詰めただけだと、褐色のドロッとした物体Xになり、ひと舐めしただけでのたうち回って記憶を封印するほどマズくなるそうです… 甜菜糖は汁の抽出法とアク抜きの工夫が必須…
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