表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第8章 新生活篇
200/433

第八話 産物チェック

 アキラが売り物になりそうな特産物は何かないかと頭を悩ませているその場にやって来たのは元代官で現領主補佐のアルフレッド・モンタン。

「旦那様、お悩みですね」

「ああ、そうなんだ。なんとかして財政を立て直したいんだけどな……」

「お察し致します。……旦那様は『異邦人エトランゼ』としての視点で、何かできることを模索していらっしゃるのですよね?」

「ああ、そうだ」


 アキラが『異邦人エトランゼ』であることを、アルフレッド・モンタンも承知している。何しろ国王公認なのであるから。


「でしたら、まずはこの領内の産物をリストアップし、可視化してからお考えになられるとよいのではないでしょうか」

「なるほど、可視化か」


 こうした検討を脳内だけでやっていると行き詰まりやすい。

 そこで視覚化することで、目から入った情報が新たな刺激となって、思いがけない閃きに繋がることもあるのだ。

 同様に、声に出して読み上げるという手もあり、この場合は耳から入った情報が刺激となる。

 そういうわけでアルフレッドはアキラに『情報の可視化』を進言したのであった。


「よし、やってみよう。アルフレッド、手伝ってくれるか?」

「もちろんでございます」

 そこでアキラは執務机の上に大きめの紙を敷き、ド・ラマーク領の大まかな形を描いた。

「ほう」

 単なるリストアップではなく、領内の分布までよりわかりやすく可視化しようというアキラの試みに感心するアルフレッド。


「では、産物を挙げていきますので書き込みをお願いします」

「頼む」

「まず、小麦・大麦、豆類。主要農産物であり、各地で生産されておりますので、これらは書き込まずともよろしいかと」

「そうだな」

「まずは桑の葉、果実が取れる桑畑ですね。南部から東部にかけての丘陵を切り開き、栽培しています」

「うん」

「牧畜は西部の一部でのみ行っており、ヤギが主流です。同じように養鶏も行っています、この2つを行っている地区はほぼ重なっています」

「よし」

 アキラは手書きの地図に書き入れていく。


「開墾を進めております北部ではジャガイモを植えています」

「そうか」

「その他の根菜類としてニンジン類が各農家で少しだけ作られております」


 次々に産物を挙げていくアルフレッド。長年代官を務めてきた彼ならではの知識である。


「……それから、先ごろお飲みいただいた『よもぎ』。川沿いの土手を始めとする草地ですね」

「うん」

「旦那様が使えると仰った『い草』。湿地帯の池です」

「そうだな」

 そこで一旦アキラの手が止まった。


「こうしてみると、養蚕とよもぎ、い草以外は普通だな」

「はい。他の領地でも大なり小なり作られていると思います」

「だなあ……」

「あとは、かなり特殊な作物類になるかと思いますが」

「まだあるのか」

「はい。……これはハーブに分類されると思いますが、『辛菜種からなたね』が若干」

「からなたね?」

 アキラも初めて聞く植物名だった。


「はい。涼しい地方でしか栽培できない作物で、葉や茎にピリッとした辛味があるのです。辛子や唐辛子、コショウとはまた違った辛さですので、好む人もいます」

「ふうん」

「それから『甘大根あまだいこん』」

「あまだいこん?」

「はい。小さな大根のような植物ですが、ほの甘いので食べる人がいます」

「いいんじゃないか?」

「ですが、灰汁が強くて、しかも土臭いので一般受けはしないかと」

「そうか……でもまあ、候補には挙げておこう」

 こういう場合あまり先入観を持っていると、思わぬ見落としをすることもあるのだ。


「あとは木の実やキノコはどうだ?」

「そうですね、キノコでは……松林に出るキノコ、雑木林に出るキノコの幾つかは食べているようです」

「おお。……だけど秋にならないと確認できないか」

 もしかしたらシイタケやマツタケが見つかるかもしれないとアキラは期待している。

 醤油があれば、それらを美味しく調理できるからだ。


「木の実の方は?」

「はい。クルミとクリが山にありますね。子どもたちが主に集め、おやつにしているようです」

「こっちも栽培したいが……収穫までには時間が掛かるな」

 クリならば甘露煮にするなどして付加価値を付ける手もある。

 だが、採算がとれるまでには時間が掛かるだろうな、とアキラは想像した。

 桃栗3年、というのは苗を植えてから収穫できるまでの年数だという。

 そこからするとクリは短い方であるが、今年の収入増には期待できない。

 それどころか、クリの苗木を植えようとしたらさらなる初期投資を迫られることになるだろう。


「……まずは、こんなところでしょうか」

「ありがとう。……気になるのがこの『辛菜種からなたね』と『甘大根あまだいこん』だな」

「それでしたら、この付近の家でも栽培していると思います。ああ、『辛菜種からなたね』でしたら庭に生えているかもしれません」

「そうか。よし、見てみよう」


 考えあぐね、行き詰まったアキラは、気分転換も兼ねて庭に出てみることにした。


*   *   *


 『絹屋敷』の庭は広い。敷地面積だけで言ったらフィルマン前侯爵の『蔦屋敷』よりも広い。

「……荒れているけどな」

 草ぼうぼうの場所が半分以上を占めているのだ。

 手入れをする手間と人手が惜しいからである。


「ええと……ああ、ありましたありました。こちらです。御覧ください」

 一緒に庭に出たアルフレッドがアキラを手招いた。


「これが『辛菜種からなたね』か……」

 半ば野生化したと思われる『辛菜種からなたね』が数本群がって生えていた。

 確かにその草は、菜種ににた白い(・・)花をつけている。

「この花や葉をかじるとピリッと来るんです」

「どれどれ」

 アキラは葉の先をむしって、口の中に入れてみる。

 噛んでみると、確かにピリッとした香りが口の中に広がり、鼻に抜けた。


「う、辛い……」

 だが、どこかで味わったことのある辛さである。

「どこだったかな……」

 考えたが思い出せないので、アキラはもう一度、今度は茎をむしって口に入れてみたのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月10日(土)10:00の予定です。


 20210403 修正

(誤)松林に出るキノコ、雑木林に出るキノコの幾つかは食べていようです」

(正)松林に出るキノコ、雑木林に出るキノコの幾つかは食べているようです」

(誤)草ぼうぼうの場所が半分以上を締めているのだ。

(正)草ぼうぼうの場所が半分以上を占めているのだ。


(旧)単なるリストアップではなく、領内の分布まで可視化しようというアキラの試みに感心するアルフレッド。

(新)単なるリストアップではなく、領内の分布までよりわかりやすく可視化しようというアキラの試みに感心するアルフレッド。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] あれから少し調べたのでご報告。 https://cookpad.com/recipe/1777361 豆腐半丁(豆乳で代用可)、酢、塩、菜種油でマヨネーズっぽい調味料が出来るようで…
[一言] 更新お疲れ様です! >「はい。……これはハーブに分類されると思いますが、『ズナナ草』が若干」 「ズナナそう?」  アキラも初めて聞く植物名だった。 「はい。1本ずつ散らばって生え…
[一言] 山葵ですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ