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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第8章 新生活篇
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第二話 湿地帯

 手っ取り早くお金を得る。

 それはつまり外貨の獲得ということ(この場合の外貨、とは『他の領地』くらいの意味である)。

 もちろん領内の経済を活性化することも重要だが、今はそれ以上に領内の通貨量を増やす必要があった。

 要は長期的な金策と短期的な金策、双方が必要ということだ。


「観光……は難しいかな」

 王都から遠い北の地であり、行き来も大変なので、観光客の急な増加はちょっと望めそうもない。

 長期的な計画としてはいいのだが、当面の金欠を解決するには不向きだった。


「やっぱり何かを売る……というのが一番手っ取り早いか……」

 そのためにも資金が必要なのだが、その資金さえおぼつかないのが現状である。

「うーん……」

 唸ったところで解決策が浮かんでくるわけもなく。

「湿地帯を見てくるか……」

 行き詰まったアキラは、気分転換も兼ねて、問題の湿地を視察してくることにした。


「馬で行かないと時間が掛りすぎるな」

 この領地に来てからというもの、必要に迫られてアキラも乗馬を練習し、なんとか1人で馬を操れるようになっていたのである。

 アキラが厩舎から馬を1頭引き出していると、従士隊長のケヴィンが飛び出してきた。

「旦那様、どちらへ?」

「街道工事の視察だ」

「お一人でですか? 私もお供します」

「よし、付いてこい」


 そういうわけで2人は共に馬を走らせる。

 修繕中の街道を、馬の速歩で1時間ほど行けば、問題の湿地帯である。


*   *   *


「……この辺は土地が低いのか……」

 湿地の手前1キロほどから土地が低くなっており、少しずつ湿っぽくなっていった。

「これじゃあ水がしみ出してくる訳だ」

 かといって湿地を迂回させるには、道のりが長くなりすぎる。

「今は雪解け水がしみ出してくるからなおさら湿っぽいんだろうな」


 そうしたことは現場を見ないとわからないことである。

 そして。

「川もあるのか……」

 湿地帯の最低部には、幅5メートルほどの川が流れていたのである。

 川の源頭は北の山なので、水が枯れることはなさそうである。


 街道工事は、そんな川の手前100メートルほどまで来ていた。

 工事自体は難工事というほどではない。ただ、予定より資材と日数を要する、というだけで。


「水は豊富なんだよな……これを使って何かできないかなあ」

 思いつくことといえば、まずは魚の養殖や、観光釣り堀。だがこれもすぐにできるものではない。

「水力発電……は流れが遅くて無理かな」

 アキラは思いつくまま、考えを巡らせている。


「温泉……出ないかな?」

 温泉が湧けば、観光資源というだけでなく、領民の保養施設を作れる。

 外貨獲得までには長い道のりがあるが、公衆衛生という点においては悪くない。

 地下水が豊富そうな土地なので、温泉を期待してみるアキラであった。


「あとはやっぱり米の栽培……なんだが、この地方は寒いからな……」

 今の日本で栽培されている稲は、比較的寒い地方で栽培できるよう品種改良されているが、元々稲は南方の植物である。

「まあ、試しにやってみるくらいか」

 この湿地が全て水田になったなら、それは素晴らしいことだとアキラは考えていた。


「あとは……何か珍しい植物でもあるといいんだが」

「旦那様、そっちは泥深いですよ」

「おっと、そうか」

 考え事をしていて沼状の場所に馬を進めそうになっていたアキラを、ケヴィンが止めてくれたのであった。


「泥の中で栽培できるといったらレンコンか……」

 あるのかないのかわからない。

 とりあえず、目につくものを探して湿地帯の脇を馬で歩いてみるアキラだった。


「旦那様、何をお探しですか?」

 護衛のケヴィンに聞かれたが、アキラの答えは1つ。

「それがわかればなあ」

「?」

「……領地のためになりそうなものはないか、ってな」

「ああ、そういうことですか」


 ケヴィンに付き添われながら、湿地帯を見て回るアキラ。

 その目にふと止まったものがある。


「これは……?」

 湿地帯にある大きな池塘ちとうに生えている草。

 細く長く、つんつんと真っすぐ伸びている。


「面白い草ですね」

 ケヴィンも名前は知らないようだ。


 アキラは近くに生えていたその草を一束引っこ抜いてみた。

「うーん……もしかすると……いや……」

 どうにも判断がつかない、という顔をする。

「旦那様、どうなさったんです?」

「いや、この草がちょっと気になってな」

「誰か知っている人に聞くしかないですね」

「そうなんだが……」

「とりあえず『絹屋敷』に帰りましょう」

「それしかないな」


 ケヴィンの意見に従い、アキラは帰ることにしたのである。


「……俺の勘が正しければ、絹とともにもう1つ、産業にできるかも……」

 そう思いながら馬を飛ばすアキラであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月27日(土)10:00の予定です。


 20210220 修正

(誤)修繕中の街道を、馬の早足で1時間ほど行けば、問題の湿地帯である。

(正)修繕中の街道を、馬の速歩で1時間ほど行けば、問題の湿地帯である。

(誤)かといって湿地迂回させるには、道のりが長くなりすぎる。

(正)かといって湿地を迂回させるには、道のりが長くなりすぎる。

(誤)とりあえず、目につくものを探して湿地帯の脇を馬で歩いてみるゴローだった。

(正)とりあえず、目につくものを探して湿地帯の脇を馬で歩いてみるアキラだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 池塘ですか、尾瀬を思い出しますなあ となると引っこ抜いた草はワタスゲかそれに近いなにかだろうか
[一言] >>手っ取り早くお金を得る。 >>それはつまり外貨の獲得ということ(この場合の外貨、とは『他の領地』くらいの意味である)。 野盗に扮して他領の村を襲うんですねわかります。 >>今はそれ以…
[一言] えー工学魔法でキュービックジルコニアとかの宝石を量産しましょうよう 手っ取り早く大金になりますよ? ジ「やめんか」確かに手っ取り早いけどさ 礼「なにを見つけたんでしょうね?」植物には詳しく…
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