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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第7章 新生活への序章篇
191/433

第十四話 懐かしの蔦屋敷

 明けて、快晴の朝が来た。

「出発にはもってこいの天気だなあ」

「本当ですね」

 アキラとミチアは部屋の窓から朝日に照らされた遠くの山を見つめる。


「もうすぐ雪解けですね」

「うん。そしてまた、養蚕の季節が始まる」

「頑張りましょう」

「そうだな」


 この日は半日掛けてパミエ村で休憩兼昼食。そして夕方にはアルビ村で宿泊。

 更に翌日、ほぼ1日掛けて『蔦屋敷』となる。


「閣下、お世話になりました」

「うむ、頑張れよ」

 レオナール侯爵と握手を交わしたアキラは馬車に乗り込んだ。


「父上、お元気で。またお会いしましょう」

「お前もしっかりやれ」

 フィルマン前侯爵とも握手を交わしたレオナール侯爵は、出発する一同に向け、小さく手を振った。


 レオナール侯爵家の者たちに見送られ、アキラたち一行はモントーバンの町を出立。一路北を目指す。

 道からは湯気が立ち上っている。

 晴れた朝、放射冷却で冷えたため、霜が降りたのだ。

 それが早春の日差しに照らされ、蒸発して冷やされ、湯気となって見えているのである。


「春は近いというのに、まだ朝は冷えるな」

「そうですね。でもほら、木の芽は膨らんでいますよ」

 馬車の窓から見える街道脇の木々の芽が膨らんでいるのがわかるほどには、北国にも春は近づいてきていた。


*   *   *


 予定どおりにパミエ村で昼食を済ませ、短めの休憩をとって出発する。

 この日の行程は少し長いためだ。

 それもあって、モントーバンの町では3泊4日と、馬を休ませていたのである。


*   *   *


 それからの道中も何ごともなく、その夜はアルビ村に泊まった。

 ここは、『蔦屋敷』周辺のブロン村、ゴルド村、ブリゾン村を併せたくらいの、かなり大きな村である。

 村長宅も立派で、貴族一行が泊まる、いわゆる『本陣』的な役割もしていた。


「明日の夕方には『蔦屋敷』か……」

「楽しみでもあり、ちょっと緊張もしますね」

「そうだな……」

 出発したときと今では、アキラもミチアも『立場』が違っている。

 アキラは領地持ちの男爵となっていたし、ミチアに至っては侍女から男爵夫人である。


「なんだか、帰ってからやらなきゃいけないことで頭がいっぱいだよ」

「わかりますけど、私もいますし、ハルトヴィヒさんやリーゼロッテさん、それに新たな家臣になってくれた人たちもいます。無理はなさらないでくださいね」

「それこそ、わかってはいるんだけどな……」

 根が庶民なので、こうした不安は致し方ないのだ。

 それでも独りじゃないと思うだけで、アキラの安心感も違っていた。


「……旅ももう終わりです。今夜はゆっくりしましょう」

「……そうだな」

 せめてこのひとときだけは、とアキラに寄り添うミチアであった。


*   *   *


 翌日もまた快晴。その分冷え込んだが、一行の顔は明るい。

 いよいよ今日は『蔦屋敷』に帰り着ける日なのである。


「それでは出発だ!」

 号令をかけるフィルマン前侯爵の声も、心なしか弾んでいるようだった。

 ゴトゴトと馬車は進んでいく。

 ところどころぬかるみもあり、あまり道はよくない。だがそれもまた、『蔦屋敷』に近づいた証である。

 空は青く澄み、朝の日差しが眩しい。

 馬を操る御者も、なんとなくいているようにも見える。皆、故郷に帰るのが楽しみなのだ。

 そう思ったアキラは、『蔦屋敷』のある土地が、今は自分の故郷になっているのだなあと実感したのだった。


*   *   *


 馬車が北へ向かうに連れ、北の山々が近づいてくる。

 一行が昼休憩を終え、午後になるとさらに見知った風景となっていく。


「長かった旅も終わりだな」

 見慣れた風景に囲まれ、ぽつりとアキラが呟いた。

「旅もいいけど、俺はやっぱり落ち着いて仕事をしているのが性に合っているよ」

 ミチアもそれに答えて、

「ふふ、私もです。……でも、帰ったらやらなきゃいけないことが山積みですね」

「そうだなあ……」


 まずは旅の成果の整理を行い、領地へ行く準備。

 同時に新たな部下の待遇を決めなければならない。

 初めてのことが多く、不安になるアキラだが、1人じゃないことを思い出し、気持ちを奮い立たせる。

 隣りにいてくれるミチアを、いやミチアと一緒に、この世界で幸せにならなきゃな、と思い直すと、少し顔が赤らむアキラであった。


「……あなた、顔が赤いですよ?」

「日が当たってるからな」

 ミチアに言われたアキラは、西日のせいだと誤魔化した。もう夕方なのである。

 春とはいえ、まだ日は長いとはいえない。傾いた太陽の光は夕方の赤となり、あたりを代赭たいしゃ色に染めていた。


「あ、ほら、桑山が見えました」

「どれ……おお、懐かしいな」

 桑の苗木を植栽した山。通称『桑山』が見えてきた。つまり、いよいよ『蔦屋敷』が近いということだ。

 その証拠に、

「大旦那様、おかえりなさいませ!」

「アキラの旦那、おかえりなさい!」

 ……と、屋敷の者や職人たちが迎えに出てきている。


 そして馬車の窓からも懐かしの『蔦屋敷』が見えてきた。


「ああ、帰ってきたなあ」


 第二の故郷ともいえるこの土地に、アキラは帰ってきた。


 そして、新たな仲間、家臣たちと共に、新たな養蚕の歴史が幕を開けることになる……。

 お読みいただきありがとうございます。


 まだ終わりませんよ?


 次回更新は1月30日(土)10:00の予定です。


 20210123 修正

(誤)アキラは領地持ちの男爵となっていたし、ミチアに至ってはは侍女から男爵夫人である。

(正)アキラは領地持ちの男爵となっていたし、ミチアに至っては侍女から男爵夫人である。

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― 新着の感想 ―
[一言] >明けて、快晴の朝が来た。 >アキラとミチアは部屋の窓から朝日に照らされた遠くの山を見つめる。 昨夜は心行くまで励んだのでとてもスッキリした良い顔している二人だった。 >「うん。そしてまた…
[一言] 次回からは第2章「巨大蚕の襲来」編となります もすら〜や♪もすら〜♪ 明「やめて」あのサイズは手に負えない ジ「手伝おうか?」礼子がいれば何とかなるぞ 礼「お任せください」ない胸ぐいっ エ…
[一言] ドレスの献上に向かったら貴族になって戻ってくることになるとはねえ それもド・ラマーク領の領主として
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