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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第7章 新生活への序章篇
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第十二話 少しの自覚

 新年明けましておめでとうございます。

 本年も拙作をどうぞよろしくお願いいたします。

 アキラとミチアの町巡り……デートはまだ続いている。

 

「領地に行ったら、こうしてゆっくり2人きりで歩くことなんて当分できそうもないからなあ」

「……ふふ、ほんとですね」

 よくも悪くも、それが貴族であり、領主の務めである。アキラにも、そのくらいの自覚はあった。

 だから、この機会を目一杯楽しもう、という気になっているのである。


 とはいえ、元の世界でもデートなどしたことはなく、それどころか彼女と言える相手もいたことがないアキラである。

 辛うじてサークルの後輩と博物館に行ったことがある程度では、どういう場所を巡れば、ミチアが喜んでくれるかの見当はつかなかった。

 そこでストレートな行動に出る。


「次はどこへ行こう?」

 すなわちミチアに振ったのである。

「そうですね、特にないんです。……町を歩き回ってみましょう。2人で」

「そうだな、2人で」


 息が合うと言うかなんというか、アキラとミチアはあてなく町巡りを始めた。

 人の多い場所では、はぐれないよう自然と腕を組む2人。

 そしてやって来たのは服飾店。

 既製品が展示されているそこは、一般人……職人や普通の商人……一家がまあまあ食べていけるくらいの収入がある……人々向けの店。

 蛇足ながら、裕福な商人や貴族は既製品を買わないし、貧しい者は古着を買うのである。


「ちょっとだけ、デザインを参考にさせてもらいましょう」

「ああ、いいかもな」

 今更であるが、ミチアの記憶力はとてもいい。だから『携通』の内容を書き写しながら、それを記憶していられるのだ。

 そんなミチアなので、中堅どころが着る服装についての情報を集めようと考えたのである。

 ……デートですることではないと思われるが、アキラもミチアもそのことに気が付いていないあたり、似た者夫婦である。ワーカホリックともいえるが。


 2人が入った店は、既製品を多数展示していたので、ミチアとしてもかなり参考になったようだ。

 だが、それ以上にアキラは、この世界における服飾についての理解を深めることができていた。

 それは、多少なりともおしゃれを楽しもうとしていること。

 すなわち、生活にゆとりがあるということに他ならない。

 生きるためにギリギリな毎日を送っているのでは、お洒落をしようと考える余裕などあるわけがないからだ。

 その点、この店に飾られた既製品の服には、多くはないものの、装飾部位が見受けられたのである。


(職人、あるいは商人としてであれば、ただ売れるものを開発すればよかったんだろうけれど、領主としては、1人でも多くの人がおしゃれを楽しめるような暮らしができるように努めるべきなんだろうな……)

 そんなことを思ったアキラなのである。

 そのためには雇用問題、賃金の問題、福祉の問題など、クリアすべき問題は多い。

 現代日本でそれらがどう処理されていたかは漠然と知ってはいるが、それをこの世界でそっくりそのまま実施できるとは思えない。

(それも課題だな……)


 例えば、最低賃金。

 これを上から『幾ら以上にしろ』と命令することはできる。そしてそれを守らせることも。

 それにより『雇われた者』の最低賃金は保証されるが、ここに問題がある。

 それは、『雇用が減る』可能性が高いということだ。


 雇用側は、給金を増やさねばならないわけであるから、その分雇う人数を減らし、トータルでの賃金を同じにしようとする……可能性が高い。

 それを防ぐには、やるべき仕事も増やし、収入が増えるようにしていく必要がある。

 そのためには、お金の動きを見定め、循環をよくする政策を行う必要がある。

 政治と経済は、かくも難しい……。

 ……と、アキラは『領主』的な思考にふけるのであった。


*   *   *


「これ、美味しいですね」

「うん、こっちも美味いぞ」


 昼になったので、アキラとミチアは手頃な食堂に入ってみたのである。

 大衆食堂的なそこは、『安くて美味い』店であった。


「うーん、つくづく思うけど、このモントーバンはいい町だな」

「ですね」

「治めているレオナール閣下の手腕が凄いんだろうな」

「そうですね」


 今すぐは無理でも、いつかはこの町のように、人々の笑顔が絶えない町を治めてみたい、と思うアキラであった。


*   *   *


 さて、自由時間は午前中で終わり、午後は領地運営についてレオナール・マレク・ド・ルミエ侯爵が簡単な講義をしてくれることになっていた。

 そして、人材の紹介も。


「午前中、町を見て回っていたようだが、何か感じたことは?」

「そうですね、一言で言っていい町だと思いました」

「それは嬉しい。では、どういうところがいい町だと思ったのだ?」

「はい。人々の暮らしに余裕というかゆとりがあるな、と感じたからです」

「なるほど、ゆとりか。……ならば、それはどうしてだと思う?」


 このような形で、領主のすべきことを考えさせ、説明し、教えていく侯爵。


「ふむ、雇用を増やし、経済を回す。大要は悪くない。だが、現実には難しい。ゆえに……」


 素人考えに近い政策案を、侯爵は否定せず、より実現できそうな形にまとめるやり方を説明してくれた。

 また、『福祉』については、治める側にかなりの経済的余裕がないとすぐに破綻すると警告してもくれる。


「焦ることはない。代官がいるのだから、まずはその者にならうべきだ。改革を急いではならない。一般大衆は大きな変化に戸惑うものだからな」


 侯爵の講義は、アキラにとって非常にためになるものであった。

 同時に侯爵にとっても、アキラの考え方すなわち現代日本の政治と経済は、参考にすべきところがあったのである。


*   *   *


「さて」

 午後3時過ぎ、講義も終わり、ティータイムとなったその時、レオナール侯爵が切り出した。

「この後、約束した人材の紹介をしようと思う」

「よろしくお願いします」


 どんな人材が現れるのか期待する反面、ちょっぴり不安なアキラであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は1月16日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「領地に行ったら、こうしてゆっくり2人きりで歩くことなんて当分できそうもないからなあ」 屋敷(白い家)には前領主の支持者が大勢押しかけて抗議してるのでそれどころではありません。 >どうい…
[一言] 懇切丁寧に教えてくれる良い先達ですなあ いずれはアキラ君もこんな立派な領主に……
[一言] >>「領地に行ったら、こうしてゆっくり2人きりで歩くことなんて当分できそうもないからなあ」 多分競歩ぐらいの速歩きになりますね。 >>人の多い場所では、はぐれないよう自然と腕を組む2人。…
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