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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第7章 新生活への序章篇
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第六話 ティボーの実家

 アキラたち一行は、フォンテンブローでは2泊する。

 中1日は自由に過ごせるので、アキラが真っ先にしたことはティボーの実家を訪ねることだった。


 時刻は午前9時。ティボーによれば、朝の8時から営業しているとのことだった。

 アキラはティボーと2人で歩いていた。


「両親は驚くでしょうね」

 案内をしながらティボーが言った。

「王都で細々と営業をしながら、待ちに待った『異邦人エトランゼ』の方と巡り会って、しかもそれは同郷の方だった。さらに、うちの商品を定期的にお買い上げいただけるなんて」

「はは、こっちこそ、お米と味噌と醤油をいっぺんに手に入れられるなんて夢みたいだよ。君のご先祖様には感謝だな。大感謝だ」

「はあ……」


 そんな話をしながら大通りを歩いていく2人。

 母親の名はジゼル、父親はバジル、とティボーが教えてくれた。

 あと、シモンという兄が1人いて、大抵は郊外で畑……実は田んぼ……の監督をしているという。冬は麦畑の監督となる。

 小作人を雇うくらい、そこそこ広い耕地を持っているようだった。


「こちらです」

 大通りから角を1つ曲がり、小さな通りに入る。そして20メートルほど歩くと、そこがティボーの実家だった。

「……『エチゴヤ』……?」

「はい。ああ、やっぱり読めるんですね! 曽祖父が付けた店名なんですよ。……どういう意味なんですか?」

「どういうって……そうだなあ……」

 『越後屋、お主も悪よのう』『いえいえ、お代官様ほどでは』……などというフレーズがアキラの頭をよぎる。

(……おそらく半分はネタで付けたんだろうな……俺みたいな同郷の者が気づくと信じて……とはいえそのチョイスってどうなんだ……)


「ええとな……」

 元の世界ではベスト3に入るくらい有名な店名だよ、と、なんとか当たり障りのない答えを返したアキラなのであった。


「ただいま」

 おもむろに店のドアを開けて、ティボーは中へ入っていった。

「おや、ティボーじゃないか。どうしたんだい?」

 母親のジゼルとおぼしき人が、ティボーを見てびっくりしていた。

「ええと、話せば長くなるんだけど……まず、僕のご主人様を紹介します。アキラ・ムラタ・ド・ラマーク男爵閣下です」

「えっ!?」

 男爵と一緒に来たと聞いて、椅子から半分ずり落ちかけるティボーの母親。

「あ、か、母さん、落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかね! 貴族様がうちみたいな店にいらっしゃるなんて!!」


「ええと、俺は貴族といっても、ついこの前なったばかりの新米ですし、なによりティボーのひいおじいさんと同郷なんですよ」

「ええっ!!」

 ティボーの母親ジゼルはこの言葉に一番驚いたようだ。そして奥に向かって叫ぶ。

「ちょ、ちょっと、あんた! 出てきておくれよ!」

「何だ、どうした? ……おや、ティボーじゃないか。おかえり」

 母親は少しせっかち、父親はのんびりしているようだ。


「おかえりじゃないよ、あんた。実はねえ……」

 ジゼルはバジルに説明した。

「はい、そういうわけで『異邦人エトランゼ』のアキラ・ムラタ・ド・ラマークと申します。先日男爵位をいただきまして、息子さんを家臣に……と思っています」


 バジルもさすがにのんびり、とはいかず、若干慌てて答えた。

「そ、そりゃあもちろん、せがれがいいなら、こちらとしても否やはありませんや。アキラ様、倅をよろしくおねがいします」

「ティボー、よかったね。しっかりやんなよ。……アキラ様、息子をよろしくお願いいたします」

「こちらこそ。……それに、本日伺ったのはもう一つ目的があるんですよ」


 アキラは米、味噌、醤油を定期的に買い入れたいと切り出した。


「はあ……私どもとしては願ったり叶ったりですが」

「ええ、ええ! 先々代が『絶対に製法を絶やしてはならん』と言い残しておりましたが、一向に売れず、困っていたのですよ」

「そうでしたか。……では、売っていただけますね?」

「もちろんです。どのくらいお入用ですか?」

「そうですね……」


 アキラはあらかじめ書いてきたメモを見せた。もちろん『和紙』に書かれたものだ。

「拝見します。……ふむ、大丈夫です、ご用意できます」


 もっとも、ティボーと相談して書いたものなので、用意できて当たり前、とも言えるのだが。

 ちなみにティボーはこの後会計官としてアキラを支えていくことになる。


*   *   *


 詳しい商談を済ませた後、アキラは郊外の『田んぼ』を見学に向かった。

 とはいっても季節は早春、まだ何も植わっていないが。


「……ああ、間違いなく田んぼだなあ……」

 それでも、整備されたあぜ道や用水路、それに枯れたひつじを見て、アキラは自分の国の原風景を思い出していた。

 蛇足だがひつじとはまた稲孫とも書き、刈り取ったあとの稲からまた生えてきたひこばえ(切り株から生えてくる若芽)のことである。


「……田植えが終わった頃……は難しいか。それじゃあ刈り入れの前……来てみたいなあ……金色の稲穂の絨毯……是非見たいな」

 1人呟くアキラ。

 そこへティボーが、兄らしい男を連れてやって来た。

「アキラ様、兄のシモンです」

「シ、シモンと申します。……このたびは、うちの商品をお買い上げくださるようで、あ、ありがとうございます」

 日に焼けた体格のいい男で、華奢なティボーとは対象的である。

「こいつは、力はありませんが、頭は人並み以上なんで、ぜひ役に立ててやってください!」

 そう言いながらティボーの頭をぐりぐりと撫でる。

「ちょ、痛いよ、兄さん」

 身長も頭一つ分違う上、体格も違いすぎるので兄弟というよりは親子に見えなくもない。

「もちろんですよ」

 アキラは答えて、シモンと握手を交わしたのだった。


*   *   *


「いいご家族だな」

「……ありがとうございます」


 郊外の田んぼからフォンテンブローの町に戻りながら、アキラはティボーに、

「今日の夕方まで、実家にいていいからな」

 と告げた。

「ありがとうございます」

「これから北へ向かうし、年に何回戻れるかはわからないからな」

「はい」


 そう言いながら、労働環境はできるだけホワイトにしたいなあ……と考えるアキラなのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月28日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言]  味噌としょうゆと米の売り方も相談しておいた方がいいと思う。焦げすぎない程度に焼けば、いい香りになりそうだから、そこからかなあ?あとは、米か……おにぎりが受け入れらるか…かな?  味噌玉とか…
[一言] >>ティボーの実家 『異邦人』で発酵物を扱えて更に後から来る日本人の『異邦人』を捕まえておくことが出来る人材だっただろうと思うので国も手厚く迎え入れたであろうと予想できるので豪邸のはず! …
[一言] 先祖代々作り続けてくれたおかげでアキラ君に届いたんですなあ これまでは家の圧迫になってたかもですがこれからはバンバン恩恵が!
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