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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第7章 新生活への序章篇
178/425

第一話 新たな生活のはじまり

 ガーリア王国王城に朝が来た。

 離宮にある貴賓室。

 そこがアキラとミチアに貸し与えられた部屋である。


「おはようございます、アキラさん」

「おはよう、ミチア」


 午前7時、やや早めの時刻ではあるが、普段から早寝早起きの習慣ができている2人は目を覚ましていた。

 備え付けの洗面所で顔を洗い、口をすすぐ。


「今日1日はのんびり……だったっけ」

「はい。明後日にはもうお屋敷へ帰らなければなりませんから」

「そうだったな」


 ワーカホリック気味の2人には貴重な1日である。

「この機会に、普段できなかったことをしようと思う」

「はい」

「それにはミチアの協力が必要なんだ」

「はい、何でも仰ってください」

「ありがとう」


 その時、ほとんど同時に2人お腹が鳴った。

「……まずは朝食を食べよう」

「……はい」


 部屋に備え付けられているハンドベルを鳴らすと、専任の侍女が入ってきて、朝食の準備に取り掛かった。

 まずテーブルの上に真っ白なテーブルクロスを掛け、ナイフ、フォーク、スプーンなどの食器を並べていく。

 それが済むと、朝食をワゴンに載せた侍女がやって来る。

 2人掛かりで朝食がテーブルに並べられていった。


「おお、美味そうだ」

 献立は、焼きたてのパン、目玉焼き、ソーセージ、コーンクリームスープ、野菜サラダ。

 飲み物は温かいミルク。


「いただきます」

「……いただきます」

 アキラとミチアは差し向かいで朝食を平らげていく。

「……ああ、スープが美味い」

「温かいミルクがお腹にしみわたります」


 昨日は満足な食事を摂れなかったので、ことほか味わい深かった。

 2人はゆっくりのんびりと朝食を平らげたのであった。


*   *   *


 朝食後、食器類が下げられ、2人水入らずの食後のティータイムとなる。

「アキラさん、それで、何をお手伝いすればいいのですか?」

「うん、手に入れた味噌と醤油を使った料理だよ。……といっても、肝心のお米はもう食べてしまったから、たいしたものはできないだろうけどな。……ああ、こうと知っていたらお米を取っておくんだった」

 アキラとしては夢にまで見た和食の素材である。王都にいる間に味わって見たかったのだ。


「まずは味噌汁だな」

 味噌汁と吸い物ならできるだろうとアキラは思っていた。

 両方いっぺんにというわけにもいかないので、まずは味噌汁に挑戦である。


「できれば他の人たちにも味わってもらいたいから……ここは豚汁にするか」

 ちなみにアキラは『ぶたじる』と呼ぶ派である。


「素材は何を?」

「ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、それに豚バラ肉だな」

 今回は、シチュー的な具でいこうとアキラは考えた。

 ゴボウやサトイモ、ダイコンを入れることもあるが、その3つはまだ目にしていなかった。


「出汁は……カツオブシはないし、魚の干物をうまく使ってみるかな……」

 カツオブシの代わりに煮干しを使うこともあるので、その応用として魚の干物を使ってみようとアキラは考えたのだ。


*   *   *


「アキラさん、食材を貰ってきました」

「お、ありがとう」

 離宮の厨房を借りた2人は、手分けして豚汁作りを始めた。


 アキラは、魚の干物を鍋に入れ、熱湯を注いで短時間煮る。

 あまり長時間煮ると魚臭くなってしまうからだ。

「これでどうだろう?」

 できた出汁を味見してみるアキラ。

「うーん、正直ちょっと違う気がするけど……不味くはないからいいか」


「アキラさん、こちらを見てください」

「どれどれ」

 ミチアにはニンジンとジャガイモを煮てもらっていたのである。

 この2つはなかなか火が通らず、柔らかく煮るには時間が掛かるので、先に煮ておくと他の食材を煮すぎなくて済むのである。


 ニンジンとジャガイモを串で刺してみたアキラは、程よく柔らかくなっているのを確かめた。

「オッケー、これでいいよ」

 そこへ出汁を加え、タマネギを入れて煮る。少ししたらバラ肉も入れ、アクを取りつつ、最後に味噌を入れて味を付ける。

 あまり煮立たせると味噌の香りが飛ぶので、弱火で煮込むのがコツだ。


「……と、これが俺の『豚汁』の作り方だ」

「覚えました」


 豚汁のレシピは千差万別、人によって、家庭によって作り方が少しずつ異なる。

 これは村田家のレシピである。それをミチアも覚えたという。

 そうして家庭の味が子孫に伝えられていくのだ。


「さて、味見だ」

 お椀がないので小鉢に入れる。

 まずはアキラが一口。


「うん、まあまあ美味しい」

 正直、日本で食べていた味と少し違うが、それは致し方ない。

 第一に、味噌の味が違うのが大きい。


 『手前味噌』というように味噌も、各家庭で作っていた時代があるほど、製法・製法過程・材料・配合比などで味が変わってくるのだ。

 その点では、今回手に入れた味噌は、アキラが食べ慣れた味噌にまあまあ味が近い方ではあったのは幸運である。

 そしてミチアも味わった感想は。


「……あ……美味しいです。なんと言いますか、優しい味です」

「それはよかった」

 ミチアが気に入ってくれてホッとしたアキラである。

 食の好み、というのは夫婦仲を保つために重要な要素なのだから……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月24日(土)10:00の予定です。


 お知らせ:本日10月17日(土)早朝から18日(日)昼過ぎまで不在となります。

      その間レスできませんのでご了承ください。


 20201018 修正

(誤)ニンジンとジャガイモを竹串で刺してみたアキラは

(正)ニンジンとジャガイモを串で刺してみたアキラは


 20210430 修正

(誤)

「うん、手に入れた味噌と醤油を使った料理だよ。……といっても、肝心のお米がないから、たいしたものはできないだろうけどな」

(正)

「うん、手に入れた味噌と醤油を使った料理だよ。……といっても、肝心のお米はもう食べてしまったから、たいしたものはできないだろうけどな。……ああ、こうと知っていたらお米を取っておくんだった」


 前の章でハルトヴィヒたちのお土産で2キロ手に入れていました……orz

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです [気になる点] 「うん、手に入れた味噌と醤油を使った料理だよ。……といっても、肝心のお米がないから、たいしたものはできないだろうけどな」 6章30話でお土産に貰ったからある…
[一言] ゴロー「アキラさん、そういうのは俺の担当なんですけど……」 アキラ「食べたかったんだから仕方ない」 ゴロー「でも竹串があるってすごいですね。ガーリアに竹が生息していて加工技術まであるなんて」…
[一言] >>新たな生活のはじまり 結婚生活に不安を感じ、突発的に夜中に王宮を抜け出し出奔して顔と名前を変え帝国領にたどり着いたアキラの新たな冒険が始まる! >>そこがアキラとミチアに貸し与えられ…
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