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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第三十七話 月明かり

 大広間に、ゆったりとした音楽が流れている。


『ご出席の皆様、ありがとうございました。これにて、アキラ・ムラタ・ド・ラマーク男爵とミチア男爵夫人の結婚披露宴を終わりたいと思います』

 司会進行役である宰相の、静かな声が響いた。

『新郎新婦が退場します。温かい拍手でお送りください』


 その言葉とともにアキラとミチアは立ち上がった。

 と同時に拍手が巻き起こる。

 流れる音楽と、温かな拍手に送られ、アキラとミチアは大広間を立ち去ったのであった。


 残った人々も、

『ご出席ありがとうございました。お気をつけてお帰りください』

 という司会進行役の声と共に立ち上がり、三々五々、立ち去っていったのである。

 なお、『折り鶴』は全員が持ち帰ってくれた様で、後片付けを手伝うミューリ、リゼット、リリア、リュシルらはほっとしていた。

「終わったわね」

「うん」

「あの2人、幸せになるといいね」

「大丈夫よ、きっと」

 そんな会話を交わしながら跡片付けをする4人であった。


*   *   *


 アキラとミチアは控室で着替えたあと、トイレへ行き、お茶を飲み、軽食を口にしていた。

 着替えは侍女たちが手伝ってくれたが、今は2人きりだ。


「あああ、疲れたなあ……」

「お疲れさまでした、アキラさん」

「うん……ミチアも疲れただろう?」

「ええ」

「この後、城内の浴室を使わせてもらえることになっているから」

「えっ……」

 その意味を察して真っ赤になるミチア。

 この期に及んでその顔が意味するところを察することができないほど、アキラは鈍くなかった。

「あ、え、ええと……その、ミチアが、嫌なら、別々に、入れば…………」

 しどろもどろになりながらもそう言い切ったアキラに、ミチアはまだ頬を染めながら答える。


「ちがうんです、嫌じゃないんです。その、いきなり言われたので……は、恥ずかしくて」

「う、うん」

 アキラもつられて真っ赤になる。

「え、ええと、そ、それじゃあ、行こうか」

「は、はい……」


 場所はわかっているので、アキラとミチアは連れ立って浴場へと向かった。

 そこには浴室勤務の侍女が2人を待っていた。

「お待ちしておりました、アキラ様、ミチア様」

「あ、はい」

「今夜は、この浴室はお2人だけのものでございます」

「そ、そうですか」

 今度は2人同時に赤くなる。


「どうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ」

「あ、ありがとう」


 通常なら着替えを手伝ったり、場合によっては背中を流したりもするらしいが、今回は入口に立ち、間違って入ってくる者がいないようにしてくれるらしい。

 なのでアキラとミチアは……。


「え、ええと、さ、先に入っているよ」

「あ、は、はい」

 手早く服を脱いだアキラは、そそくさと脱衣所を抜け出し、浴室へ向かったのだった。


「……うわあ……」

 思わず声が出てしまう。

 浴室内は真っ白な大理石がふんだんに使われているが、意図的に魔導ランプの光量が絞られているのか、やや薄暗かった。

 が、一方の壁に設けられた、やや大きめの明り取り兼湿気抜きの窓から、ちょうど満月が覗いており、その月明かりが結構明るい。


 浴槽はマーブル模様の大理石で構成された、20人は入れるほどの広さがある。


 アキラは掛け湯をし、ざっと身体を洗う。その時ミチアが、浴場に入ってきた。

「おわ」

 思わず背を向けてしまうアキラ。そんな彼に、ミチアが声を掛ける。

「ア、アキラさん、お背中、お流しします……」

「う、うん」

 黙ってミチアに背中を任せるアキラ。ミチアはタオルに石鹸を付け、優しく背中をこすった。

「痛くないですか?」

「だ、大丈夫。もっと強くてもいいよ」

「え、あ、はい」


 前は自分で洗うアキラ。

 そして洗い終わった身体をお湯で流すと、

「じゃあ、ミチアの背中を洗ってあげよう」

 と声を掛ける。

「え、ええと……あの」

「ほら、背中を向けて」

「……はい」


 ミチアは髪をアップにしているので、その細いうなじがあらわになっており、どぎまぎしながらも平静を装い、アキラは背中を流し終えた。

「痛くなかったかい」

「はい、大丈夫です。その、気持ちよかったです……」

「そ、そうか。ええと、それじゃあ、お湯に浸かろうか」

「……はい」


 もう一度身体を流したあと、2人はゆっくりと浴槽に身体を沈める。

 お湯はややぬるめで、疲れた身体をゆったりと休めるにはちょうどよかった。

 浴室の中は湯気が充満しており、薄暗さも手伝って、1メートルも離れると、互いの顔もはっきりとは見えない。

 20人は入れるような広い浴槽であるが、アキラとミチアは肩が触れ合うくらいの距離でお湯に浸かっていた。


「ああ、いい気持ちだ……」

 湯船の中で身体を伸ばすアキラ。

「疲れが取れますね」

「うん」

「……」

「…………」


 互いを意識してしまって、会話が続かない2人。

 かといって、決してそうしているのが苦痛なわけではない。ただ照れているだけである。

 そんな2人を見つめていたのは夜空に懸かる月だけであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月17日(土)10:00の予定です。


 20201011 修正

(誤)手早く服を脱いたアキラは、そそくさと脱衣所を抜け出し、浴室へ向かったのだった。

(正)手早く服を脱いだアキラは、そそくさと脱衣所を抜け出し、浴室へ向かったのだった。


 20231026 修正

(誤)「この後、場内の浴室を使わせてもらえることになっているから」

(正)「この後、城内の浴室を使わせてもらえることになっているから」

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― 新着の感想 ―
[一言] 身体の疲れは取れたかも知れませんが精神面はお風呂では回復あんまり出来てそうにないなあw
[一言] これにて、アキラ・ムラタ・ド・ラマーク男爵とミチア男爵夫人の結婚披露宴を終わりたいと思います』 ア:終わる言うな!(切れ気味) ・・・この国には「お開きにする」と言う言い回しは無いから仕方…
[一言] >>大広間に、ゆったりとした音楽が流れている。 ほーたーるの、ひーかーりー♪ >>流れる音楽と、温かな拍手に送られ、アキラとミチアは大広間を立ち去ったのであった。 その後二人を見たもの…
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