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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第三十六話 二人の結婚式 参

 アキラとミチアの結婚式、披露宴もたけなわ。

 司会進行役である宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルの声が響いた。

『皆様、これよりしばしの間、ダンスタイムとなります』


「……とうとう、か……」

「……とうとう、ですね……」

 2人の口から、諦めにも似た呟きが漏れた。

 実は式次第の立案時、アキラは消極的に反対していたのだが、宰相から王侯貴族の宴にダンスは欠かせないと言われ、押し切られたのである。


 楽団が、まずは明るいがゆったりした音楽を奏で始める。

 披露宴に出席した貴族たちは心得たもので、パートナーを誘って立ち上がった。

 最初の相手はほとんどが妻、婚約者、妹など、縁の深い相手である。


 そして当然……。


「……行こう、ミチア」

「はい、アキラさん」

 宴の主賓であるアキラとミチアが、踊らなければ始まらないのだ。

 おお、という声が上がる。

 アキラは、ともすれば緊張で震え出しそうな脚を、根性……というよりもミチアの顔だけを見ることで忘れようと努力しつつ、音楽に合わせてステップを踏み始めた。

 出だしこそややぎこちなかったが、ミチアの緊張も解けてくると、2人の息はピッタリと合う。


「ほう……」

「初々しいですな」

 そんな声もちらほら聞こえてくる。

 いくらかたどたどしいステップだったが、それがかえって社交界デビューする新貴族らしさを醸し出していて、出席者たちの好感を呼んだようだ。


 音楽が半ばくらいになると、踊っている人数もだんだん増えてきて、アキラたちの姿もその中に埋没してしまう。

 その分リラックスできたアキラとミチアは、ようやく練習どおりに身体を動かすことができるようになったのだった。

 そのノリで2曲めの、ややテンポの早い曲も無難にこなす。

 そして3曲め、打って変わって静かなスローテンポの曲を踊る頃には、上級とはいえないものの、初心者の域は完全に脱したステップとなっていたのだった。


 アキラとミチアはその3曲でダンスを終え、席に戻る。

 出席者たちはまだまだこれから、相手を変えてのダンスに興じることになるが、新郎新婦が相手を変えて、というわけにはいかないので2人はこれで終わりである。

 同時に、このダンスの間に少し食事をするように、という時間でもある。


「アキラさん、ミチア、はい、これ」

「リュシー、ありがとう」

 リュシーが果実水を差し出してくれた。

 2人とも、口の中がカラカラだったので、有り難くそれを飲み干す。


「おめでとう、アキラさん、ミチア」

「2人とも、おめでとうね」

「ありがとう」

 そしてこの時間を利用して、2人の仲間……リュシル・リリア・リゼット・ミューリらは給仕をしながらお祝いの言葉を述べていった。

 平民である彼女らが2人と親しく会話ができる時間はこのときだけ。

 

「しっかし、賑やかな結婚式ねー……めったに開かれないでしょ、こういうの」

「アキラさんもいよいよ貴族様かー」

「……もう気楽に話し掛けられなくなっちゃうわねえ」

「アキラ様、ミチア様、本日はご結婚おめでとうございます。……なんてねー」

 だがアキラは、

「いや、俺としてはこれまで通りに接してもらいたいな」

 と、本音を漏らした。


「ありがと。でも、そういうわけにはいかないわよね」

「アキラさんがよくても、周りが黙っていないでしょ」


 しかしミチアが折衷案を出す。

「なら、私たちだけの時は、今までどおりに、っていうことにしてくれればいいわ。ね、アキラさん」

「うん、そうだな。皆なら、そいう使い分け、できるだろ?」

 そう言うと4人は嬉しそうに微笑んだ。

「……うん、ありがとう。アキラさん、ミチア。嬉しいわ」

「やっぱりアキラさんもミチアも変わらないわね」

「そりゃな。マンジュウの餡が辛くなるわけないからな」


 と、ここでアキラは、愛読していた小説の中で主人公が昔なじみに放ったセリフを真似してみた。

 だが。

「あはっ、なにそれ?」

「マンジュウって何よ?」

 ……と、思ったのと違う反応が返ってきてしまったのだった。


 そのうちに、ダンスの時間も終わり近くなり、ふと目を遠くへやったミチアが、

「あ、ハルトヴィヒさんとリーゼロッテさんも踊ってますよ」

 と、2人に気が付いた。


「へえ、やっぱりサマになってるなあ」

「練習していましたしね」

 リーゼロッテはともかく、ハルトヴィヒはアキラよりはマシでとはいうものの、素人の域を出ないレベルだった。

 それが、並み居る貴族のカップルに混じって堂々としたステップを披露していたのだ。


「……式が終わったら、蔦屋敷へ帰ることになるんですね」

「……うん。そしてド・ラマーク領の視察、そして引っ越しだな」


 新婚旅行は、日程的に難しいので、後日行うことになっている。

 その代わり、帰りの道中は馬車や泊まる部屋など、極力2人きりで過ごすことになっているのだ。


 ド・ラマーク領は、今のところフィルマン前侯爵が代官を派遣して治めてくれている。

 領主となったアキラは自分に統治できるかなあ、と今から胃が痛くなる思いなのであった。

 それを察したミチアは、

「大丈夫ですよ。その辺は大旦那様がうまく取り計らってくださいますよ」

 と言って慰めた。

「もちろん私もお手伝いいたしますし」

「ありがとう。……頼りにしてるよ」

「ふふ、任せてください」


 そうこうするうち、音楽は鳴り止み、ダンスタイムは終わりを告げた。

 司会進行役の声が響く。

『お疲れさまでした。冷たいお飲み物も用意させております。喉を潤し、宴をお楽しみください』

 披露宴もいよいよ終盤である。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月10日(土)10:00の予定です。


 20201003 修正

(誤)「あ、ハルトヴィヒさんとローゼロッテさんも踊ってますよ」

(正)「あ、ハルトヴィヒさんとリーゼロッテさんも踊ってますよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] >>アキラとミチアの結婚式、披露宴もたけなわ。 参加者全員が酔っ払っちゃって阿鼻叫喚の地獄絵図が…… >>宰相から王侯貴族の宴にダンスは欠かせないと言われ、押し切られたのである。 和洋…
[一言] 縁はあろうと貴族メインな式典ですからねー 付き合いでいうと平民メンバーのほうが長いんですがそこは仕方ないですな
[一言] やっぱりエトランゼって事で、こっちの踊りも披露するんですよね? ほら「踊る阿呆に見る阿呆♪」って聞こえてきましたよ? エ「同じく阿呆なら踊らにゃ損損」ちゃんかちゃんかちゃんかちゃんか♪ 礼…
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