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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第二十九話 学ぶ時間

 さて、王妃殿下の肝いりで、アキラとミチアの結婚式が決まったわけだが。


「アキラ殿、聞いたぞ! 王妃殿下(おん)自ら2人の結婚式を執り行うと宣言なさったそうではないか!」

 翌朝早々に、フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵がアキラの部屋にやってきて、興奮気味にまくし立てていた。


「王妃殿下はブリタニー王国のスチュワート家から嫁いでこられたことは知っておるか?」

「はい。先日までは里帰りをしていらっしゃった、そのご実家ですよね?」

「そうだ。ブリタニー王国は狭い海峡を隔てた海の向こうにある国でな。過去、戦争をしたこともあるが、今は友好国となっている」

 その架け橋になっているのが王妃殿下だ、と前侯爵は説明した。


「そして、一人娘だった王妃殿下は、今でも生みの親であるブリタニー国王陛下に愛されておられるのだ」

「は、はあ」

「……」

 まだまだ現代日本の感覚が抜けないアキラには、そうした王室同士の関係性がわかったようでわからないところがある。

「つまりだな、王妃殿下に気に入られるということは、ブリタニー王国とも繋がりができるということなのだ! 大袈裟な言い方をすれば、アキラ殿のバックにブリタニー王国も付いてくれる、ということだぞ!」

 一気にまくしたてる前侯爵。

 アキラとしても前侯爵のこんな様子は初めて見るので驚きだった。

 ミチアも言葉をなくして前侯爵をただ見つめているだけ。


*   *   *


「……ふう、すまん。少し興奮してしまったようだ」

 落ちついたのち、ミチアがお茶を入れてくれたので、アキラと前侯爵は一息入れていた。

「いえ、ちょっとびっくりしましたが、背景がよくわかりました。でも……」

「どうした?」


 だが落ち着いて考えてみると、少しわからないことも出てくる、とアキラは思っていた。

 その疑問をこの機会に、前侯爵にぶつけてみる。

「ええとそれでは、どうしてハルトヴィヒとリーゼロッテの結婚式を、王妃殿下がいらっしゃらない時に行ったのですか?」

「うむ、知らぬのも無理はないか……。それはだな、ブリタニー王国とゲルマンス帝国は仲が悪いからだ」

「そうだったんですか」

 いわゆる冷戦状態ということかな、とアキラは想像してみた。


「それで、今は帰化したとはいえ、帝国出身の2人の結婚式は、王妃殿下不在の時に行ったのだよ」

「そうだったんですか」

「すまんな。薄々くらいは察しているかと思ったのだが。……ミチアも知らなかったか?」

「……不勉強ですみません」

「申し訳ございません、大旦那様」

 前侯爵に、アキラとミチアは頭を下げた。


「もう少し政治も勉強します」

 アキラがそう言うと、フィルマン前侯爵はにやりと笑って言った。

「ふむ、そうだな。いずれ貴族に列せられるのだろうからな」

「え、ええ!?」


「何を驚いている。前にも言ったろう? アキラ殿は『異邦人エトランゼ』。既に貴族待遇ではないか。その上、今回の献上品を見れば、絹産業の今後になくてはならない人物だと誰もが感じるだろう。そんなアキラ殿を貴族に列することに、皆納得するだろうよ」

「そういうものですか?」

「そういうものだ」


*   *   *


 前侯爵が部屋を出ていくと、アキラはぐったりしてソファにもたれかかっていた。

「……なんか疲れた」

 前侯爵に話を聞いただけなのに、とアキラはぼやく。

 だが同時に、ミチアの家を再興するなら好都合だ、という思いがあることも事実。

「ミチア、まだまだ学ぶべきことは多いな」

「はい、アキラさん」

 ミチアもまた、貴族の奥方としては未熟過ぎる、と自覚をしていたのだった。


「王城にいる間に、少し勉強したほうがいいかもな」

「そうですね……」

 政治的なことを学ぶなら、ここ以上にふさわしい場所などそうそうないだろう。


 ということで、アキラとミチアはフィルマン前侯爵に相談し、臨時の家庭教師を探してもらうことにしたのだった。


 そしてそれはすぐに叶えられる。


「アキラ様、ミチアさん、短い間ですけどよろしくお願いいたしますわね」

「は、はい、こちらこそ」

「よ、よろしくお願いいたします」

「あらあら、もう少し肩の力を抜いてくださってよろしいのに」

「そうはおっしゃいましても……」

「殿下の前ですので……」


 そう、家庭教師の名乗りを上げたのはシャルロット・ド・ガーリア王女殿下だったのだ。


「母からも言われております。アキラ様に国内外のことを教えて差し上げなさい、と」

「は、はあ……ああの、国家機密みたいなものは……」

「うふふ、ご安心なさってください。そのようなものはお教えしませんから」

「……お願いします」


 王族のみが知る国家機密のようなものをポロッと口にされた挙げ句、秘密を漏らされては困ると王城に軟禁もしくは幽閉されるなんてまっぴら御免、なアキラである。

「これから5日間、お2人の結婚式の前日まで、1日2時間ほどですが教師役をやらせていただきますわ」


 そういうわけで、シャルロット王女殿下が2人の家庭教師役として世界情勢を中心に貴族界のことを教えることになったのであった。


 初日は基本的な国家間の関係についてであった。

 ガーリア王国のことさえあまり知らなかったアキラにとって、この授業はありがたいものになったのである。


 そして、シャルロット王女にとっても、

「アキラ様、『異世界』……いえ、アキラ様の世界では、こういう時にどうするんですの?」

 ……というように、自身の知識欲を満たすこともできるので、いわゆるWINーWINの関係なのであった。


*   *   *


 勉強会は午前中で終了した。

「……ふう、なんとなく疲れた」

「……私もです」


 王女殿下が教師役なので、やはり気疲れは免れないのだった。

 それでも、貴重な情報を学ぶことができるので、この時間はアキラとミチアにとっても有意義なひとときなのである。


 そしてその日の午後、ハルトヴィヒとリーゼロッテが帰ってくる……。

 お読みいただきありがとうございます。


 お知らせ:8月15日(土)はお盆休みをいただきたく。<(_ _)>

      次回更新は8月22日(土)10:00です。


 20200808 修正

(誤)それはだな、ブリタニー王国とゲルマンス帝国は仲が悪いからだ

(正)それはだな、ブリタニー王国とゲルマンス帝国は仲が悪いからだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、王妃殿下不在の時に結婚式って後で怒られるなーと思ってたんですがそんな理由があったんですねえ ソレはソレとして理由は納得していても異世界式結婚式を自分がいない時に行われたのはやっぱ…
[一言] >>翌朝早々に、フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵がアキラの部屋にやってきて、興奮気味にまくし立てていた。 二人がイチャイチャしている所にノックもなしにいきなり部屋に飛び込んできました…
[一言] まぁ元々、異世界人なんてタンポポの種並にフワフワした存在ですからね しっかり根を張らせたいなら、それに足る地面(地盤)と養分を与えるのが一番で ジ「一方的に搾取するのは論外だが、異世界人だ…
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