第二十八話 王妃殿下の采配
アキラとミチアが案内されたのは、いつもと違う食堂……というより広間であった。
そこには大きくて豪華なテーブルが用意され、その向こう端には国王ユーグ・ド・ガーリアがおり、その隣にはアキラが初めて見る女性が座っていた。
少し離れて数名の近衛騎士が立っているのが見える。
「アキラ・ムラタ、参りました」
「ミチア・イミングス・ド・フォーレ、まかりこしましてございます」
2人が挨拶すると、国王もそれに答える。
「よく来てくれた、『シルクマスター』アキラ・ムラタ殿、そしてミチア・ド・フォーレよ。……まずは紹介しよう。これは、我が妻である」
「アドリエンヌ・ド・ガーリアです。よろしくね」
「よろしくおねがいいたします」
アキラとミチアは深々と頭を下げた。
「よい。今は公式の場ではない。顔をあげよ」
「は、ありがとうございます」
国王からの許しが出たので下げた頭を上げるアキラとミチア。
そしてはっきりと王妃様の顔を見ることができた。
王妃様は、シャルロット王女そっくりのやや暗めの金髪に青緑色の目をした女性であった。
「呼び出して済まなかったな。実は、妻が不在の時に異世界式の結婚式を行ってしまったことを責められていたのだよ」
「いやですわ、陛下。責めてなどおりませんでしょうに。ただ、わたくしもその式に参列したかったですわ、と申し上げただけです」
「そうだったかな?」
「そうですわよ」
そんな国王夫妻の様子を見て、アキラとミチアは仲がいいのだな、とほっこりする。
「アキラさん、今回もいろいろと献上してくださったようで、わたくしからもお礼申しますわ」
「い、いえ」
「特にシャルロットのドレス、素晴らしいものでした」
「恐縮です」
「1日も早く、『絹産業』が軌道に乗ることを願っています」
「ありがとうございます」
そんな話の後、食事が運ばれてきた。
「今夜は、いろいろとお話を聞かせていただきながら食事がしたいと思いましたのよ」
「は、はあ」
そこへ、国王からの言葉が挟まる。
「済まぬな。妻は言いだしたら聞かないのでな」
「あら陛下、あとで覚えてらっしゃいませね」
「う、うむ」
どうやら私生活では王妃様のほうがやや優勢らしいな、と察したアキラとミチアであった。
* * *
それからも、食事をしながら話が弾んだ。
といっても、王妃様の質問にアキラが答える、というパターンがほとんどであったが。
おかげで、食べた気がしなかったアキラとミチアであった。
「ああ、楽しいひと時でした」
「……満足したか、アドよ」
「はい、陛下」
食後のお茶を飲みながら、満足そうに王妃様は微笑んだ。
「アキラ殿とミチアさんの結婚式は、いつ行いますの?」
いきなりそう尋ねられたアキラはお茶を吹き出しそうになった。
「い、いえ、まだ決まっておりませんが」
「あら、それはいけませんわね。……ねえ、ミチアさん?」
「は、はい」
ここで王妃様はにこりと笑った。
「では、ここで日取りを決めてしまいましょう。そうですね、いろいろ準備もありますから7日後ということではどうかしら、陛下?」
「うむ、余としては問題ないぞ。それでいこう」
「決まりですわね」
「…………」
「……」
なんと、この場でアキラとミチアの結婚式の日取りが決まってしまったのである。
元々、漠然とではあるが今年中に挙式するつもりではあったが、少々急なことに、アキラとミチアは面食らった。
「念のために聞きますけれど、お二人共、お嫌ではないわよね?」
「は、はい」
「……はい」
「そう。それならよかったわ」
王妃様は嬉しそうに微笑んだのである。
* * *
「……」
「…………」
部屋に戻ったアキラとミチアは無言のままであった。
あっという間に決まった結婚式に、まだ認識が追いついていないようだ。
それでもアキラは、
「ミチア、順番が逆になってしまったけれど、俺と……その、けっ、結婚……してくれないか」
と、言うべきことを口にしたのである。
そしてミチアも、
「は……はい。どうぞよろしくお願いいたします」
と、真っ赤になりながらも答えたのであった。
そんなミチアが愛しくて、アキラはそっと抱きしめる。
ミチアは身体の力を抜き、アキラにもたれかかった。
「……幸せになろう、ミチア」
「……はい、アキラさん」
アキラの腕の中で、ミチアは小さな声で呟くように言ったのである。
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次回更新は8月8日(土)10:00の予定です。
20200801 修正
(誤)アキラとミチアは深々を頭を下げた。
(正)アキラとミチアは深々と頭を下げた。