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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
167/425

第二十七話 店じまい

 繁華街の食堂で昼食を食べたアキラとミチアは、その後も町めぐりを楽しんでいた。

 そうしながら王城へと近づいていくわけだ。


 王城へと続く中央通りに出ると、ものすごい人だかりができていた。

「なんだろう?」

「なんでしょう?」

 そこでそばにいた人に聞いてみると、

「なんだ、知らないでここに来ているのかい? 王妃様がお帰りになったんだよ。今馬車が通り過ぎたところさ」

 という答えが返ってきた。

 なるほど、彼方には馬車と護衛の騎士たちの姿が小さく見えていた。


「王妃様が、か……」

 そういえば、現王妃、アドリエンヌ・ド・ガーリア様は実家に里帰りをしていたって言っていたなあ……とアキラは思い出した。

 そしてもう1つ、ちょっとしたことにも気が付く。


「なあミチア、王妃様って敬称はどうなっているんだ? 陛下? 殿下?」

 いずれ、きっとお目にかかることになるだろうなあという予感がするアキラであった。

「ええと、我が国では殿下です、王妃殿下、とお呼びします」

「そっか」


 地球では、国によっては女王ではなく王妃にも『陛下』を使う国もあるが、おおむね『殿下』のようである、と、アキラは後に『携通』を通じて知ることになる。


*   *   *


「だんだん王城に近づいていくな」

「ええ、そういうルートを取ってますからね」


 王都に住んでいたことのあるミチアなので、ルート選定は大丈夫なのだ。ただ、その頃に比べて町並みや商店のたたずまいなどは変わっているので、詳しいガイドはできないが。

「あの店って、この辺だっけ?」

「あの店? ……もしかして『味噌 醤油』のお店ですか?」

「あ、そうそう」

「それでしたら2つ先の角を曲がれば……」


 思った以上に近かったので、ちょっと寄ってみることにするアキラ。

「あの時はあんまりゆっくりできなかったからな」

 『田島新介』という『異邦人エトランゼ』について、もう少し聞いてみたいと思っていたんだ、とアキラは言った。

「そのお気持ち、わかります」


 そんな話をしながら目的の店への角を曲がると……。

「あれ?」

 『味噌 醤油』の看板が出ていなかった。

「場所を間違えたかな?」

「いえ、ここで間違いありません」

 ミチアはたたたっ、と道の先まで駆けていき、何やら確認するとまた小走りに戻ってきた。


「間違いなく、ここです、そしてあそこがあの店でした」

 その場所は空き家になっていた。

「え……じゃあ……」

「はい。お店を畳んだみたいですね」

「うーん……」

 出会った時の覇気のない店員の顔をアキラは思い出した。

「店を畳める日を待ち望んでいたみたいだったからな……」

 曽祖父の遺言を果たし解放されて、店じまいしたのだろうな、とアキラは想像する。

(まあ、本人がそれでいいなら……いいかな。よしとするか……)

 アキラは一つため息をつくと、

「仕方ないよ、ミチア。……行こう」

 と、ミチアに声をかけたのであった。


「……」

 歩きながらも、残念そうにしかめられているアキラの横顔に、ミチアは声を掛けた。

「あっ、あのっ、アキラさん、気を落とさないでください!」

「ああ、うん……」

「店を畳んだからと言っても、消えてしまったわけじゃないでしょうから、捜せばきっとどこかにいますよ」

「うん……」


 だが、アキラの顔は冴えない。

 それは、過去の『異邦人エトランゼ』の話が聞けなくなっただけでなく、継続して味噌・醤油を手に入れられなくなったことも加わっていたからだ。

 そんなアキラを元気づけようと、ミチアはいきなりその腕をアキラの右腕に絡ませた。

「え?」

「……少し、寒くなってきましたね」

 春とはいえ、午後になって風が出てきたので少し肌寒く感じるようになってきていたのは確かである。

 だがアキラもミチアもきっちりと着込んでいたので、やや涼しく感じることはあっても、寒いとまでは感じていないはずであった。


「……そうだな。帰ろうか」

「はい」

 だがさすがに鈍いアキラでも、ミチアの気遣いに気づけないほど鈍感ではなく、気を取り直すと王城へ戻るべく、少し足を早めたのであった。


*   *   *


「ふう、少し疲れた」

 湯浴みをし、自室でアキラはくつろいでいた。

 もちろん、ミチアも一緒である。湯浴みは別々だったが。念の為。


「すみません、私のわがままであちこち連れ回してしまって」

 などと言うミチアにアキラは、そうじゃない、と告げた。

「疲れたと言ったってこれは心地いい疲れだし、何よりミチアと一緒に王都巡りができたんだから楽しかったよ」

「アキラ……さん……」

「ミチアは楽しくなかったのか?」

「いえ、楽しかった……です」

「だろう? ならいいんだ。俺としてもミチアが楽しかったなら嬉しい」

「ありがとう……ございます」

「いや、礼を言うのは俺の方さ」


 そんな時、ドアがノックされた。ミチアが慌てて対応する。

「はい、何でしょうか?」


 ノックをしたのは城の侍女だった。


「失礼いたします。今宵は少し早めに夕食といたしますことをお伝えに上がりました」

「はい、わかりました。それで、もうすぐなのでしょうか?」

「20分後にお迎えに上がります。お支度をお済ませください」

「そうですか、承りました」


 そこでアキラとミチアは急いで正装に着替え、身なりを整えた。

 そしてきっかり20分後、先程の侍女が迎えにやって来たのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月1日(日)10:00の予定です。


 20200725 修正

(誤)「ええ、そういルートを取ってますからね」

(正)「ええ、そういうルートを取ってますからね」

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、役目から開放されたのを心底喜んでましたからねえ しかしこんなに早く店じまいしてしまうと名前を聞きそびれたのが祟りますね
[一言] >>店じまい 店姉、店妹、合わせて店姉妹(じまい)!! >>王城へと続く中央通りに出ると、ものすごい人だかりができていた。 ……クーデターかな? >>「なんだ、知らないでここに来てい…
[一言] むぅ、一緒に風呂と書こうとしたら、先回りされてしまった……やるな作者様 でも、その後「昨夜はお楽しみでしたね」なドッタンバッタンしたんでしょ? エ「詳しくは、映像をどうぞ」隠し撮り。 明「…
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