第二十三話 結婚式 参
ハルトヴィヒとリーゼロッテの結婚披露宴は今がたけなわであった。
「おめでとう」
「おめでとう、お二人さん」
「ガーリアへようこそ」
列席者が代わる代わる2人の前に進み出て、祝辞を述べていく。
中には、『お祝い』を贈るものもいた。
現物ではなく目録を置いていく形だ。
その一番手が国王陛下、ユーグ・ド・ガーリアであったわけだ。
宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルは祝い金1万フロン(約100万円)。
農林大臣ブリアック・リュノー・ド・メゾン、産業大臣、ジャン・ポール・ド・マジノらはそれぞれ祝い金5000フロン(約50万円)。
魔法技術大臣、ジェルマン・デュペーは小さいが地・水・火・風の『精霊石』をくれた。
ここで補足しておくと、『精霊石』というのはその属性の魔法のエネルギーを秘めた石である。
例えば火の精霊石は『発熱』という特性があるので、湯沸かし、調理はもちろん、一瞬に高温にすることで爆発させることもできる。
取り扱い注意な危険物だが、魔法技師であるハルトヴィヒと魔法薬師であるリーゼロッテなら問題なく使いこなせるだろうという判断からの贈り物であった。
その他、次官、秘書クラスになるとさすがに贈り物はなく、祝いの言葉や飲み物を注いだりする程度であった。
そんな中、アキラはと言うと、ミチアと共にお祝いを述べていた。
「おめでとう、ハルトヴィヒ・ラグランジュ、リーゼロッテ・ラグランジュ」
「おめでとうございます、ハルトヴィヒさん、リーゼロッテさん」
アキラは、この場ではいつもの略称ではなくフルネームで呼んだし、ミチアもいつもより他人行儀な言い方をした。
「ありがとう、アキラ」
「ありがとね、ミチア」
「俺たちからのお祝いはこれだよ」
アキラが差し出したのは本。
内容は、アキラが厳選した『異邦人』としての知識……主に『科学』についての内容が書かれている。
「ミチアに協力してもらって作ったんだ」
中身はすべて手書き。つまり世界に1冊しかない参考書というわけである。
「ありがとう、大事にするよ」
「役に立てさせてもらうわ!」
ハルトヴィヒもリーゼロッテも大喜びであった。
* * *
「列席者の皆様からのお祝いも一段落したので、新郎新婦からの一言をいただきたいと思います」
司会役に戻ったアキラがそう言うと、打ち合わせどおり2人は席から立ち上がった。
「ハルトヴィヒ……ラグランジュでございます。この度は、わたくしと妻リーゼロッテの結婚式および結婚披露宴へのご出席、まことにありがとうございます」
まずはハルトヴィヒが口を開いた。
「帰化して、晴れてガーリア王国国民となりました。チームリーダーである『異邦人』のアキラ卿と共に、国に貢献できるよう努力する所存であります」
かなり堅い言葉であるが、列席者の大半が王国の重鎮たちであるのだから仕方がない。
続いてリーゼロッテが挨拶を行う。
「リーゼロッテ・ラグランジュです。皆様に祝福され、晴れてハルトヴィヒと夫婦になることができました。さらにはガーリア王国に帰化を認められ、国王陛下自ら姓を授与していただきましたこと、心より御礼申し上げます。これからはガーリア王国国民として、国の発展のため微力を尽くす所存です」
2人の挨拶が終わると拍手が湧いた。
(ケーキ入刀とかキャンドルサービスとかしたかったなあ)
司会を務めるアキラは2人の挨拶を聞きながらそんなことを思っていたのだった。
* * *
新郎新婦の挨拶が終わると、しばらくは食事タイムである。
ハルトヴィヒとリーゼロッテも、一時退出し、用を足したり軽食を摂ったりする。酒やジュースは注がれるたび飲んでいたが、食事はまだなのだ。
時間にしておよそ15分。
その間にアキラも食事を摂ることにする。
「アキラさん、取っておきましたよ」
「ああ、ありがとう」
『蔦屋敷』の侍女で、アキラの『チーム』メンバーであるリゼットがアキラに食事を差し出した。
立食パーティ形式なので、自分で好きなものを好きなだけ食べられるのだが、その分人気メニューは減るのも早いのだった。
「お、これを取っておいてくれたんだ」
トレイに載った人気デザートの1つである『メロン』。アキラの大好物でもある。
だが高級食材なので『蔦屋敷』の方までは、まず出回らない。
それを、リゼットが確保してくれていたのであった。
コッペパンやシチューは定番なので十分な量が用意されていた。が、パンに付けるバターやジャムが底をつきそうであった。
だがそれもまた、リゼットが取り置きしておいてくれたのだった。
「急いで食べないとな」
司会進行役という重責にアキラも慣れていないため実はもうだいぶ前から空腹だったにもかかわらず、食事の時間が取れずにこの時間になってしまったのであった。
* * *
大急ぎの食事を終えたアキラは、再び司会進行役に戻る。
ほぼ同時にハルトヴィヒとリーゼロッテも戻ってくる。
用を済ませ、軽食を口に入れた2人は、先程よりも顔色がよくなっていた。
「それではここで、新郎新婦の同僚であるリュシル、リリア、リゼット、ミューリ、ミチアの5人が歌を披露いたします!」
会場がざわついた。パーティーで歌を披露するという試みは珍しいのだ。
アキラはさらに追加説明を行う。
「ちなみに歌の題名は『カナブンのサンバ』。私の世界で結婚披露宴に友人が歌う歌の定番です」
今度はほう、という声が漏れた。
そして新郎新婦の前に進み出た5人。
それに合わせてアキラは手拍子を行った。
「みなさんもよろしければ手拍子をお願いいたします」
これは全く新しい試みだったので、列席者たちは戸惑いながら、だが厚意をもって手拍子を行い始めた。
そして5人の歌が始まる。
「あなたとわたしが……」
初めて聞く『異邦人』の国の歌に聞き耳を立てつつも、皆手拍子だけは最後まで続けてくれたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は7月4日(土)10:00の予定です。
20200627 修正
(旧)「ちなみに歌の題名は『かぶ○むしのサンバ』
(新)「ちなみに歌の題名は『カナブンのサンバ』
『かぶ○むしのサンバ』というのもあるようなので orz
20200822 修正
(誤)司会進行役という重責にアキラも慣れていないため実はもうだいぶ前から空腹だったにも関わらず、食事の時間がとれず、この時間になってしまったのであった。
(正)司会進行役という重責にアキラも慣れていないため実はもうだいぶ前から空腹だったにもかかわらず、食事の時間が取れずにこの時間になってしまったのであった。