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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第二十話 あなた色に

「いや、アキラ殿、見事なものばかり、感服いたしましたぞ」

 ひととおり献上品のお披露目が終わり、ティータイムとなったその場で、宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルが手放しで絶賛した。


「ありがとうございます」

 アキラも礼を述べた、が、その言葉をそのまま鵜呑みにするほど単純ではない。

 雪眼鏡や天秤、カウンターなどはまだまだ改良すべき点があることを自覚しているし、ドレスにせよもう少し工夫できないものかと思っているのだ。

 そもそも、国王陛下の愛娘に贈られたドレスを正面切ってけなすことのできる者はこの場にはいないであろうが……。

(少しひねた考えし過ぎかな?)

 アキラは事前に、『ていよく利用されたりしないように』などという忠告をリーゼロッテからされていたのである。

 『貴族というものは少し疑ってかかるくらいで丁度いいのよ』とも。

 ゲルマンス帝国の子爵令嬢だったリーゼロッテの言うことなので、アキラも聞き流すことはできなかったのであった。


 とはいえ、

「いずれはああしたドレスが都に流行ることになるんですかな」

 とか、

「うちの娘にも着せたいですな」

 などという言葉は、聞いていて嬉しくなる。


 そこでアキラは、

「ここで1つ、お見せしたいものがあります」

 と提案したのだった。


「ほう、何ですかな?」

「アキラ殿が見せたいという……やはり絹製品でしょうな?」

「うむ、アキラ殿、許す。それを見せてくれ」

 最終的に国王からの許可が下りたので、アキラはミチア、ハルトヴィヒ、リーゼロッテらと少しだけ話し合い、国王に断って別室へと移動した。

 もちろんそこには必要なものが用意してある。


 ……ハルトヴィヒとリーゼロッテの『結婚式用衣装』である。


*   *   *


 あまり国王陛下をお待たせしては、ということで大急ぎで着替えたハルトヴィヒとリーゼロッテ。

 別室に消えてからおおよそ10分での再登場である。

 真っ白なウエディングドレス姿のリーゼロッテと、同じく上下純白の礼服を着たハルトヴィヒ。

 そしてそのインパクトは。


「まあ」

「おお、これは!」

「……素敵」

「美しいな」

「女性だけでなく、男性用もか。これはいい」


 列席者の口から賛辞が漏れた。

 アキラは説明を行う。

「これは、私の世界にある結婚式の衣装にできるだけ近づけたものです」

「ほう」

「異世界の……」


「……白は、何ものにも染まっていない色、ということで、『これからあなたの色に染めてください』とか『あなた色に染まります』という意味があると言われています」

「ロマンチックですね」

「なるほど、結婚衣装に相応しいな」

 一部アレンジして説明しているが、列席者たちにはわかりやすく、受けもよかったようだ。


「素敵ですわ!」

 一際通る声を上げたのはシャルロット王女。

「お父さま、アキラ様のお国の結婚式についてもっといろいろ伺いまして、今後の『とれんど』にしたらいかがでしょう?」

「うむ、なるほど。我が国発の流行を作り出すということだな」

「はい」


 ここに宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルも話に加わる。

「陛下、これは王女殿下の素晴らしいお考えですな。『異邦人エトランゼの風習』という箔が既に付いております。それに加え、絹という素晴らしい素材、そしてこのデザインの美しさ。流行を作り出すのに問題はないと存じます」

「うむ、そちも同じ意見か」

 国王ユーグ・ド・ガーリアは目を閉じ、しばし黙考した後、口を開いた。


「アキラ殿、ミチア、それにリーゼロッテ、ハルトヴィヒ」

「は、はい」

「はい」

「はい!」

「はい」

「まずは明後日、ハルトヴィヒとリーゼロッテの挙式を執り行なおう。出席者はこの場にいる全員と、我が妃だ」

 全員、ということは国王も参加するということである。


「は、はい、こ、光栄です!!」

「アキラ殿、この後、宰相と一緒に式の次第を練り上げてくれ。頼むぞ」

「は、はい」


 こうして急な話ではあるが、国王立ち会いの結婚式が行われることになった。

 そしてその次第はアキラの出身世界に準ずる……ということになったのである。


*    *    *


「……うああ……まいったなあ……」


 夜、与えられた自室でアキラは頭を抱えていた。

 明日、宰相との打ち合わせ用として、アキラの世界での結婚式の式次第をまとめておくことになっているのである。

 だがそれはかなりの難題でもあった。


「結婚式の次第をまとめるったって、俺は出席したことないぞ……」

 元々学生だったアキラであるから、友人の結婚式に出席、などという経験があるはずもなかった。

 かろうじてテレビドラマやニュースで目にしたことがあるくらい。あとはマンガや小説で、だ。


「アキラさん、私もお手伝いしますから」

 ミチアもそう言って慰めてくれる。

 だがアキラの『携通』には結婚式の次第などというデータは皆無。かろうじて絹製品の例としてウエディングドレスのデザインが載っていたくらいである。


「それに、ハルトヴィヒさんとリーゼロッテさんの結婚式が、国を挙げての行事になるんですもの」

「そうだよな……」

 その第1号となる2人の結婚式。アキラの責任は重大である。


「……まあ、こうして唸っていても始まらないしな……」

 覚悟を決めたアキラは、ミチアと相談しながら結婚式の進め方を試行錯誤しながらまとめ始めたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は6月13日(土)10:00の予定です。


 20200822 修正

(旧)それに加え、絹という素晴らしい素材、そしてこの見た目の美しさ。

(新)それに加え、絹という素晴らしい素材、そしてこのデザインの美しさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>ひととおり献上品のお披露目が終わり、ティータイムとなったその場で、宰相パスカル・ラウル・ド・サルトルが手放しで絶賛した。 手放した為にティーカップが膝の上に落ちて火傷しました。 >>…
[一言] 奇しくも現実ではちょうど6月ジューンブライドなわけでw 学生のうちなんか精々が親族の結婚式に出たことあるかどうかですからねえ アキラ君が知ってそうな結婚式の式次第って神父様の前で愛を誓って…
[一言] 明後日に、こっち式結婚式のコーディネートですか まぁ、あちらの世界でもお食事とかパーティ関係のプロがいるので助けてもらえると思いますが 明「お色直しとか、披露宴とか、カラオケとか、あとなん…
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