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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第十八話 献上品 三

 そして最後は真打ち、献上のドレスである。

 国王も『待ちかねた』という雰囲気を醸し出している。

 アキラたちも満を持して、のお披露目である。


「それでは、シャルロット王女殿下に献上いたしますドレスです」

 アキラの言葉に合わせ、隣の控室からトルソーに着せたドレスが運ばれてきた。


 ちなみにトルソーとはイタリア語で、人間の胴体部分のことを指す。

 つまり頭と手足が付いていないマネキン人形と思ってもらえればいい。


「おお!」

「これは素晴らしい!」

 全体的に、王家の色である紫系統でまとめてある。

 一番面積を占める胴体とスカート部分は薄い紫、スカートの裾は白のレース。さらに共布ともぎれで作られた花があしらわれている。

 腰のベルト部分は濃い紫で、肘までの袖口も白のレースで縁取られていた。

 襟元は下品にならないよう程々に開いており、健康的な色気を醸し出せるようになっていた。


「ええと、紹介いたします。お針子頭のリゼットです」

 アキラは、トルソーを運んできたリゼットを紹介する。謁見はアキラ、ミチア、ハルトヴィヒ、リーゼロッテ、そして前侯爵の5人だったが、献上品のお披露目は別である。

 というか、この機会に拝謁させたいとフィルマン前侯爵は思っていたので、お針子頭のリゼットにトルソーを運ばせたのであった。

 そのリゼットは無言でお辞儀をした。緊張しているらしく、顔色が少し青ざめている。


「このドレスは仮縫い状態でございます。王女殿下のお身体にぴったり合わせるため、スカートの裾丈、ウエスト、それに袖丈を調整してから最終的に献上いたしたいと思っております」

 ミチアが説明した。

「そして、そのためにお針子頭を同道致しました次第です」


 国王は満足げに頷いた。

「うむ、その方らの気遣い、嬉しく思う。そしてリゼットと申したか、大儀である。我が娘のため、励んでくれ」

「あ、ありぎゃたきおことば……!」

 緊張して上ずったリゼットは噛んでしまったが、そんな彼女を国王以下、微笑ましげに見つめていたのである。


*   *   *


 ドレスのお披露目が終わった時点で一旦休憩となった。


 女性陣の控室では、ミチア、リュシル、ミューリ、リゼット、リリアらが寛いでいた。

「ふえええ、緊張したあ……」

 リゼットはソファにぐったりもたれながら息を吐き出した。

 ただの村娘だった彼女が、王都まで連れてこられた上、国王に拝謁し、直接言葉を掛けられたのだから無理もない。

 事前に前侯爵からそうしたことを聞かされてはいたが、やはり慣れないことは緊張するものだ。


「ふふ、リゼットはこれからが本番ですね」

 ミチアが笑う。

「うん……。王女殿下に着ていただいて、たけを詰めたり伸ばしたり……」

「どのくらいで完成するかしら?」

「仮縫いが終わっていれば2日でできるわね」

「……やっぱりリゼット、さすがよ」

 あっさり言ったリゼットに、デザイナーとして同行したリュシルが感心した声を上げた。

「あたしが縫ったらその倍は掛かると思うわ」

「リュシーはデザインとか絵が得意じゃない」

 言い返すリゼット。

「リュシーも他人事じゃないと思うわ。陛下は友禅の柄にいたく感心してらしたから」

 お呼びがかかるかも、とミチアが言うとリュシルは、

「うええ……平民にそれはきついわ……」

 と、心底嫌そうな顔をした。


「でも大旦那様だって、前侯爵というご身分ですからね。普通はあたしたちみたいに気やすくお話できない方よねえ」

 リリアが言う。

「確かにね。でも大旦那様って気さくな方だし、威張ったりしないし、身分を振りかざしたりしないし……」

「いいご主人さまよね」

「うんうん」

「『蔦屋敷』で働けてよかったと思うよね」

「ほんとほんと」


 女性陣の控室は賑やかであった。


*   *   *


 一方、ハルトヴィヒとリーゼロッテは、2人で1つの控室を使わせてもらっていた。

「なんかあっさり決まったな」

「いいのかしら、っていう気になるわね」

 子爵令嬢であるリーゼロッテは、一度だけゲルマンス帝国皇帝を、遠くからであるが城の中で見たことがあった。

 その時の皇帝の印象は、気難しく冷酷な印象だった。


「……この国でなら、幸せになれるかしらね」

 しんみりした雰囲気のリーゼロッテの隣りに座ったハルトヴィヒは、

「なれるさ。いや、してみせるよ」

 と言ってその肩を抱いた。

 リーゼロッテはそんなハルトヴィヒに応え、

「ふふ、ハル、幸せになろうね」

 と言ってハルトヴィヒに身体をもたせかけたのである。


*   *   *


 そして前侯爵とアキラの控室では。


「まずまず成功だったな。アキラ殿、ご苦労だった」

「やっぱり緊張しますね」

「それはそうだろう。だが、今日の陛下はことにご機嫌だったな」

 フィルマン前侯爵はそう言って微笑んだ。

「シャルロット王女殿下のドレスがお気に召したようで何よりだ」

「……それですが、昼食後、殿下にお見せするのですよね?」

「うむ、そうなるな」

「お気に召せばいいのですが」


 男が見たドレスの好みと、女性側……というより、着る本人からの感想が一番気になっているアキラである。


「それは大丈夫だ……と儂が保証しよう」

「はあ……」

 失礼ではあるが、年配の男性である前侯爵の保証ではいささか不安なアキラなのであった……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は5月30日(土)10:00の予定です。


 20200529 修正

(誤)肘までの袖口にも白のレースで縁取られていた。

(正)肘までの袖口も白のレースで縁取られていた。


 20200822 修正

(旧)「仮縫いが終わっていれば2日ね」

(新)「仮縫いが終わっていれば2日でできるわね」

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― 新着の感想 ―
[一言] アキラ君が来なければリゼットの生涯でこんな経験起こり得なかったでしょうからねえ
[一言] >>そして最後は真打ち、献上のドレスである。 >>国王も『待ちかねた』という雰囲気を醸し出している。 >>「それでは、シャルロット王女殿下に献上いたしますドレスです」 国王「え?」余のじゃ…
[一言] なるほど、ドレス着る前に手直ししないといけませんね 実際に着れるようにドレスを直すようですが、いっそ姫さまをドレスに合わせるとか ジ「無茶言うなよ」ドレスに合わせるって 礼「でも、貴族の女…
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