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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第十六話 献上品 一

 いよいよアキラたちの献上品についての報告になる。

 まずは目録が国王以下宰相、農林大臣、産業大臣らに配られた。


「ふむ、これが今回の献上品か。思ったよりも多いのだな」

 この1年は王都から派遣した技術者の育成がメインのため、シルク関連以外の献上品はないものと思っていた、と国王が言った。

「はい、技術者の方々への技術移管は仰るとおりです。ですが、シルク産業に関する改善をしていきますと、自然とこうした開発に行き着くのです」

「技術とはそういうものか」

「御意」


「うむ、この『温度調整アイロン』というのは?」

「はい。生地の種類によって、適した温度に変えられるアイロンです。……シルクは高温でアイロンがけを行うと傷みますので」

 ウールも同様、とアキラは説明した。

「木綿や麻は高温でも平気です。というか、低温ではシワが伸びにくいです」

「なるほどな」

 国王がそんなアイロンがけの知識を持っているはずもなく、アキラの説明を興味深く聞いていた。


「ははは、アキラの話を聞くのは楽しいな。今まで知らなかった世界が見えてくる。……そんな知識、王には不要だ、と言う者もいそうだが、余はそうは思わん」

 広い世界を見渡す目を持たねばよいまつりごとはできぬ、と言って国王ユーグ・ド・ガーリアは笑った。


*   *   *


「……それから『恒温瓶』というのは?」

「はい、中に入れた飲み物の温度が変わりにくい容器です。熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま、だいたい8時間くらいは保てます」

「ほう、旅行や遠征には便利そうだのう」

「寒いときには温かい飲み物が欲しくなりますからな」

 宰相もこの『恒温瓶』に興味を持ったようだ。

「朝、お湯を入れておけば、昼になっても冷めないということですな。ふむ……」

「冷たい水を入れておけば、長時間冷たい水を飲めるということでもありますぞ」

 産業大臣が補足する。

 どうやら『温度調整アイロン』よりも『恒温瓶』の方が受けがいいようだった。


*   *   *


「次はこちらです」

 アキラは、『友禅染』のサンプルを披露した。

「おお! これは見事だ」

 木綿友禅の見本に、国王はじめ、宰相、農林大臣、産業大臣らは目を奪われたようだ。

「手描きで描かれた図案です」

 とアキラが言うと、産業大臣が驚く。

「し、しかし、どうやってこんな綺麗な線が描けるのだ? にじんでいないではないか……」

「それが『友禅染』です。一言で言えば『にじみ止め』を併用して描いているのです」

 その説明で、産業大臣はとりあえず納得したようだ。


「その技術で私の世界の民族衣装を再現したのがこちらになります」

 衣装箱から浴衣が取り出された。それを『衣紋掛け』代わりの、大型のハンガーに掛け、お披露目となる。

「おお、美しいな」

 薄い水色の地に描かれた色とりどりの花。全体に淡い色彩が使われている中、青い花だけは濃く描かれていた。

「ううむ、美しい……これは、どんな生地にも可能なのか?」

 との産業大臣の質問に、

「はい。ですが木綿やシルクがおすすめですね」

 ウールの場合、滲み止めの効果が出にくいはず、とアキラは説明した。

「なるほどな。しかしこの青は綺麗だな」

「はい。ですが色褪せやすいのが欠点です」

「なるほど、だから濃く染めてあるのだな」

「仰るとおりです」


「この図柄もなかなかいいのう。名のある絵師が描いたのか?」

 ガーリア国王は図柄を気に入ってくれたようだった。

「いえ陛下。私の仕事仲間であるリュシルという者が描きました」

「ほう、女絵師か。見事である、と伝えておくように」

「ありがたきお言葉、必ずやリュシルに伝えます」


*   *   *


「これは『トチュウ』という木の樹液から作った『グッタペルカ』というゴムの一種です。そしてこれが……」

 アキラはグッタペルカの見本と長靴を見せた。

「ほう? 面白い素材だな。それに……長靴? ふむ、これも面白い」

 農林大臣が興味を持ったようだ。

「防水されていますので、長靴の高さより浅い水の中であれば足が濡れることはありません」

「であろうな」

「また、靴底をこれで作れば、革製の底よりも水に強く、滑りにくくなります」

「うむ、これはいい。鋲を打たずともよいのなら軽くなるし、生産性も上がる。湿地帯の行軍でも使えるし、何より足音が静かであろうな」

 宰相は兵の靴をこれで作った場合の利点を想像しているようだ。

 アキラは欠点も包み隠さず説明する。

「天然素材ですので、供給量に限りがあるのが欠点でしょうか」

「……うむ、なるほど。だがそれなら、その『トチュウ』の木を増やせばよい」

「それは仰るとおりです。……付け加えさせていただけますと、『トチュウ』の木の葉は健康茶にもなります」

「ほほう、なるほど」

 それを聞いた農林大臣は、『いいことを聞いた』と言って笑ったのである。


*   *   *


 次にアキラが説明をしたのは……。

「これは『虫除けスプレー』です」

「何?」

「アルコールにミントを混ぜたもので、アブ、ダニ、蚊、ブユなどの虫が寄り付きにくくなります」

「ほほう……」

 宰相は、これも軍事目的に応用できそうだと目を光らせた。

「野営時には便利そうだな」

「はい。ですがミントの香りがきついので、犬にも嫌われるかもしれません。逆に匂いを嗅ぎつけられるかも」

「なるほど、そういうリスクもあるのだな。だが興味深い」


*   *   *


 それからも献上品のお披露目は続く。

「これは『精密天秤』です。絹糸は軽いので、正確に量を測るため開発しました」

「ふむ、薬を計る時にもよさそうだ」


 アキラの報告はまだまだ続いていく。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は5月16日(土)10:00の予定です。


 20200603 修正

(旧)

「これは雪眼鏡です。雪が積もった中、晴天時には目をやられてしまいますがこれを掛けていれば避けられます」

「ほうほう、さすが『異邦人エトランゼ』ですなあ……」


(新)

 ダブっていたので削除します。

 

 ※次の話で雪眼鏡について詳しくやりますので……

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― 新着の感想 ―
[一言] >>「ふむ、これが今回の献上品か。思ったよりも多いのだな」 途中の村々で拐ってきた若い娘さんや肉体労働用に騙して集めた若い男たちの目録とその時に襲った村の財産とかの目録ですね。 >>です…
[一言] アイロンがけは説明を聞きに来ている重鎮の方達は自分ではやらないでしょうからねえ 自分の分野で取り入れられる物に興味がいってしまうのも無理はないですね
[一言] 見慣れたものであれば、多少珍しくても目録で済むだろうけど、全くの新製品ばかり まして技術や概念が新しければーそりゃ説明も必要となりますわな ジ「説明抜きで『そう言うもの』って贈られると、技…
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