第十五話 謁見、そして
味噌と醤油を手に入れた翌日。
いよいよアキラたちは国王との謁見である。
「え、ええと、おかしくないかな?」
「はい、大丈夫ですよ、アキラさん。……わ、私はどうですか?」
「ミチアはいつもどおり綺麗だよ」
「……もう! そんなことを聞いているんじゃないですよ! ……でも……ありがとうございます」
緊張をほぐす目的もあり、そんな戯れをしながら身支度を整えていくアキラとミチア。
「あはは、君たちは変わらないなあ」
「いいわね、お2人さん」
「あ」
「え、えっと」
そんな様子を、とっくに支度を終えたハルトヴィヒとリーゼロッテに見られていたことに気づき、顔を赤らめた2人だった。
今日ガーリア王国国王ユーグ・ド・ガーリアと謁見するのは、フィルマン前侯爵、アキラ、ミチア、ハルトヴィヒ、リーゼロッテの5人である。
「……やっぱり緊張するな」
「そりゃなあ……」
「しっ、もう扉前よ」
アキラとハルトヴィヒが小声で愚痴をささやきながら第2謁見室へと歩いていた。が、リーゼロッテに窘められる。
いつの間にか第2謁見室前に到着していた。
謁見するのは5人と書いたが、ここにはもう2人、アキラたち一行とは別の組織に所属する者がいる。
王城勤務の兵士と侍女である。
兵士はアキラたち一行の案内兼護衛、侍女は献上品の一部を入れた箱を運んでいた。
「フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵とその御一行だ」
第2謁見室前を守る兵士に、アキラたちを案内してきた兵士が告げると、
「伺っております。陛下がお待ちです。どうぞお通りください」
と、扉を開けてくれたのである。
* * *
第2謁見室はこぢんまりとした部屋であった。広さは高校の教室くらい。
天井は高く、壁にはタぺストリーが掛けられている。
床は臙脂色の絨毯が敷き詰められていた。
執務室ほど堅苦しくはなく、また大広間ほどきらびやかではない。
正面は1段高くなっており、そこに国王が座っている玉座があった。両脇には近衛騎士が立っている。
国王の背後、奥の壁にはガーリア王国の国旗である『四色旗』が掲げられている。
この『四色旗』は、長方形の旗をさらに小さな長方形(田の字)に4分割し、左上から右回りに赤、白、青、黄の4色に色分けした旗である。
赤は情熱、白は平等、青は博愛、黄色は知恵を表すという。
「陛下にはご機嫌麗しく。ここに、フィルマン・アレオン・ド・ルミエ以下5名、罷り越してございます」
一行を代表して、最も地位が高いフィルマン前侯爵が口上を述べた。
「うむ。よくぞまいった。ご苦労であったな」
「ありがたきお言葉」
「元気そうだな、『シルクマスター』アキラよ。まずは、技術者たちの教育、ご苦労であった」
「ありがたきお言葉」
アキラも国王から直々に言葉をもらったのである。
その後も、定型句のようなやり取りがしばし続けられ、謁見の挨拶は終了した。
* * *
謁見という堅苦しい時間のあとは、会談という形での報告会となる。
場所は第2謁見室の隣にある執務室だ。
ちなみに第1謁見室は執務室の反対側の隣りにある。
執務室にある大型テーブルに着いたメンバーはというと、ガーリア国王、宰相、農林大臣、産業大臣。そしてフィルマン前侯爵、アキラ、ミチア、ハルトヴィヒ、リーゼロッテとなる。
「ふむ、まずは事務的な話からとするか。……宰相、頼む」
「はっ、陛下。……ハルトヴィヒ・アイヒベルガーとリーゼロッテ・フォン・ゾンネンタールだな」
「はい。ハルトヴィヒと申します」
「リーゼロッテですわ」
「お2人はゲルマンス帝国出身で、我がガーリア王国に帰化したい、ということで間違いないですな?」
「はい」
「間違いありませんわ」
「そして後見人はフィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵でよろしいな?」
「間違いない」
ここで宰相は手元の書類に目を落とし、今度はアキラに確認を行った。
「お2人は『シルクマスター』アキラ・ムラタ殿のお仲間として多大な貢献をした。……間違いありませんな?」
「はい間違いありません。2人はかけがえのない仲間です」
「よろしい」
宰相は頷いた。
「陛下、書類も整っております。後見人及び同僚からの裏付けもとれました。お二方を我が国の臣民として迎え入れるのに問題はございません」
「そうか。よきにはからえ」
国王はそう言って書類に署名をした。
「はっ、ありがとうございます。……ハルトヴィヒ・アイヒベルガー、それにリーゼロッテ・フォン・ゾンネンタール。2人は今このときより我がガーリア王国国民である」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます……」
ハルトヴィヒとリーゼロッテは立ち上がり、まず国王に、そして宰相、農林大臣、産業大臣、フィルマン前侯爵、アキラ、そしてミチアに向かって頭を下げたのだった。
* * *
「さて、一番の懸念事項はこれで終わったな」
国王が言うと、
「では陛下、続いては……」
宰相は再び手元の紙にちらと目を落としてから続けて、
「『シルクマスター』アキラ・ムラタ殿と、ミチア元ド・フォーレ家令嬢との婚約および結婚の許可、ですな」
と国王に奏上した。
「ふむ、何か問題はあるか?」
国王からの質問に、宰相は即答する。
「いえ、何もございません」
「うむ。であろうな。よろしい、許可する。ただし1つ、条件がある」
そう言って国王はアキラとミチアをじろりと睨んだ。
「条件、ですか?」
「そ、それは……?」
国王はニヤリと笑うと、
「『シルクマスター』アキラ・ムラタ。……我が国の娘を娶るからには、幸せにするのだぞ? そしてミチア・ド・フォーレよ、『シルクマスター』によく仕え、支え、そして我が国に貢献せよ」
「あ、はい」
「は……はい!」
いきなりの言葉に間の抜けた返事をしてしまったアキラとミチアであったが、国王の顔が笑っているのを見て、その言葉の裏に秘められた祝福を感じ取り、
「ありがとうございます」
「御心のままに」
立ち上がり、改めて国王に頭を下げたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は5月9日(土)10:00の予定です。
20200502 修正
(誤)……わ、私はそうですか?」
(正)……わ、私はどうですか?」
(旧)後見人及び同僚からの裏もとれました。
(新)後見人及び同僚からの裏付けもとれました。
(旧)国王はそう言って書類に印璽を押した。
(新)国王はそう言って書類に署名をした。
(誤)アキラも公王から直々に言葉をもらったのである。
(正)アキラも国王から直々に言葉をもらったのである。
(誤)天井は高く、壁にはタベストリーが掛けられている。
(正)天井は高く、壁にはタペストリーが掛けられている。