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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第十二話 王城到着、そして

 王都の北の守り、『北の剣(エペドノール)砦』。

「1年ぶりに見たけど、やっぱりごついなあ」

 高さ15メートルの巨大な砦本体と、左右に伸びる高さ7メートルの城壁。

 そそり立つ岩壁にも似たその威容は、見る者を圧倒する。

 王都方面へ行こうという旅人の列も、前回と同じ眺めである。

 そして前侯爵という地位にあるフィルマンがいるため、ほぼフリーパスで砦を通過することができたのも昨年と同じであった。


「ああ、お茶の木だ」

 砦の内側に植えられているお茶の木。

 産業の一つであるとともに、敵の足止めにもなるという植え込みである。

 が。

「あれ? 桑の木じゃないですか?」

 ミチアが遠くを指差した。アキラもそちらを眺めやると、間違いなく桑の木である。

「桑の葉もお茶になるから、少し植えたんでしょうか?」

 と、ミチア。

「ああ、そうかもな。……前回、そういう説明したような気もする」


 健康茶として桑の葉茶は優れた効果がある。

 ノンカフェインなので、就寝前に飲んでも目が冴えて眠れなくなることもない。

 カルシウム他、栄養素も豊富だが、葉を食べるわけではなくお茶なのでそちらはどこまで期待できるか、アキラにはなんとも言えなかったが。

 他にも、糖尿病の予防効果やダイエット効果もあるというので、美食を重ね、肥満や健康が気になる貴族にも向いている。

 ただし薬ではないので、劇的な改善効果は……というと首を傾げざるを得ないところなのが残念であった。


 なのでアキラたちは、『蔦屋敷』でこの桑の葉茶を純粋にお茶として楽しんでいるのだった。


 そして果樹園、杭の残る草原を抜ければ王都の城壁である。

「この杭は攻城兵器の妨害のため、でしたね」

「そうだったな」

 アキラとミチアは昨年のことを思い出しながら馬車に揺られていた。


「やっぱり凄いなあ」

 そして到着した、王都の城壁前で、その高さに圧倒されたのも昨年と同じ。

 また、騎士の一隊が迎えに出てきてくれたのも同じであった。


 そういうわけで、アキラたちは何ごともなく王都に入ったのであった。


*   *   *


 中央通りを進んでいくと『勝利の門』が見えた。

「あれって、対ゲルマンス帝国戦で勝利した記念に造られたものだったよな」

 アキラが確認するように言うと、ミチアは頷いた。

「はい、200年ほど前のことだそうですよ」

 道脇に植えられているスイセンの花の香りが鼻をくすぐるのも昨年と同じであった。


「変わったところ、変わらないところがあるんだなあ」

「それはそうですよ。『蔦屋敷』だってそうですもの」

「だな」

 その時、馬車が大きくがたんと揺れ、ミチアとアキラは折り重なるように馬車の壁に押し付けられた。

「だ、大丈夫か?」

「は、はい」

 意図せぬ密着に頬を染めるミチア。

 アキラは揺れから守るようにミチアの肩にそっと手を回した。

「ありがとうございます。……でも、一番変わったのは、私たちの関係……ですね」

「うん、そうだよな」

 ミチアの言葉に、少し照れながら頷くアキラであった。


 そして王城が近づいてくる。

 騎士隊に先導されて、誰何されることもなく進んでいくのも去年と同じだな、とアキラは感慨深いものがあった。

「去年はまだまだこの世界のことを何も知らなかったなあ……今だってよく知っているとは言えないけどさ」

 などという独り言を漏らすと、

「でも、アキラさんはこの1年間でいろいろなことを成し遂げましたよ」

 とミチアがフォローしてくれた。

「うん……少しはこの世界の役に立てたかな?」

「ええ、きっと。アキラさんが頑張ってらしたことは、みんなが知っています、……そして、誰よりも、私が」

「……ありがとう」


 アキラたちの馬車を担当した御者は壮年のベテランであったので、初々しい二人の会話を微笑ましい顔で聞いていたようである。


*   *   *


 これまた昨年と同じ迎賓館の一室に落ち着いたアキラとミチアは、荷物のチェックを行っていた。

「今年は発明品はほとんどないものな」

 昨年は磁石コンパスやらハンドクリームやらリップクリームやら温度計やらエアコンやら和紙やらガリ版やら……。

 アキラの世界にある文明の利器をこちらの技術で再現したものも多く持ってきていたが、今年はそうではない。

「メインは絹製品だものな」

 シャルロット王女殿下に献上するシルクのドレスがメインである。

「あとでミューリたちと打ち合わせもしないとな」

 謁見のスケジュールやタイミングは前侯爵にお任せしている。

「こっちはこっちでベストを尽くさないとな」

 万が一にも、ハルトヴィヒとリーゼロッテの帰化が認められないなんてことになったら一大事である。

「ふふ、そうですよね」

 そしてもちろんアキラとミチアの婚約の報告もある。アキラにとってはこちらの方が照れくさい分難物かもしれなかった。


「それ以上に大事なのが、技術者の方たちですよ」

 ミチアがフォローした。

「アキラさんという『異邦人エトランゼ』の持つ知識を、この世界にしっかりと根付かせる。そのために派遣された方たちですもの」

「ああ、そうだったよな」

 必要な技術を、1年掛けて学んでくれた彼ら。今度はそれを王都で広めてもらわねばならないのだ。

 アキラの持つ知識も、役に立てる機会がなければ宝の持ち腐れである。

 そういった意味でも、このガーリア王国はアキラの希望を上手く取り入れてくれていた。つまりWINーWINの関係である。


 とそんな時、ドアがノックされた。ミチアが応対してくれる。

「アキラ、ちょっといいか?」

 来客はハルトヴィヒであった。

「ああ、もちろん」

 ハルトヴィヒを招き入れたアキラ。ミチアはすかさずお茶を淹れ始めた。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう。……うん、いい香りだ」

 王城内の迎賓館に常備されている茶葉は最高級の紅茶である。

 それを一口飲んでから、ハルトヴィヒは口を開いた。

「道中色々と考えていたんだ。そしてこの王都に来て、面白いものを見つけた。だから是非、アキラの意見を聞きたいんだ」

「うん、何だろう?」

「実はな……」

「へえ……?」

 ハルトヴィヒが語ったその内容に、少なからず驚いたアキラであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月18日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「え〜壁〜とっても殴りやすい壁〜礼子が殴っても一回だけ耐える壁だよ〜」 おや、壁屋さん、一発殴らせてくんな 明「いや、そこまでイチャついてないし!」 帝「あの後、馬車がギシギシいったんでし…
[一言] いやー、発明品こそないもののシルクのドレスを献上に来てますからね ひと目で分かる物のほうがインパクトは大きそうですよね
[一言] >>そして前侯爵という地位にあるフィルマンがいるため、ほぼフリーパスで砦を通過することができたのも昨年と同じであった。 ほぼなのは旅人の列を跳ね飛ばした時に減速したからなのである。 >>…
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