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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
145/425

第五話 真相と婚約

 以前、ミチアの素性を3章第七話で『ミチア・イミングス・ド・フォーレ』としていたことを、設定メモに残していなかったためにすっかり忘れ、前回のミチアの出自になってしまいました。

 今回、それは実は虚偽であったとし、その理由付けをしています……。

 一息ついた後、アキラは口を開いた。

「閣下、1つ質問よろしいでしょうか?」

「うん? 何だね?」

「確か以前、ミチアは元子爵家の令嬢だと仰っていませんでしたっけ?」

 昨年王都へ行った際、モントーバンの町を発った後、馬車の中で聞いた、とアキラは言う。

「『ミチア・イミングス・ド・フォーレ』という名だと伺いましたが……」

「大旦那様、それ……」

 ミチアも驚いて声を出した。

「うむ……それについては謝らねばならんな。すまん、アキラ殿。このとおりだ」

 フィルマン前侯爵はアキラとミチアに頭を下げた。

「閣下!?」

「……あの話はな、半ば嘘なのだ」

「嘘……半ば?」

 アキラは怪訝そうな顔をしながら尋ねた。

「うむ……セヴラン、済まぬが儂らだけにしてくれるか? そして呼ぶまでは誰もこの部屋に近づけないようにせよ」

「はい、大旦那様。承りました」

 お辞儀をしてセヴランは部屋を出て行く。それを確かめて、前侯爵はゆっくりと説明を始めた。


「ド・フォーレという家があったのは事実だし、先々代がだらしのない男で、領地経営が壊滅的に下手だったのも事実だ」

「……」

「当時の国王陛下が非常にお怒りになって、ド・フォーレの家が取り潰されたのも実際にあったことだ」

「その先々代の妻が儂の従妹だったというのも本当だ」

 残念そうに前侯爵は説明した。

「その息子夫婦を儂のところで養っていた、というのも本当だ。2人とも流行病で相次いで亡くなった、ということもな」

「はあ」

「残念ながら、2人には子がなかった」

「そうだったんですか」


 ここで前侯爵は一息ついて、再び声をひそめて話し始めた。

「一旦話は逸れるが、ド・ラマーク家が取り潰されたのは……謀反の容疑を掛けられたからなのだよ」

「謀反、ですか……」

 アキラにも、王国での謀反が何を意味するかの想像は付いた。

「うむ。……謀反の場合、その罪は家族にも及ぶ。辛うじてミチアは処刑を免れたが、他の者たちは皆……」

 言葉を濁す前侯爵。

 アキラもミチアの顔を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていたので、その肩をそっと抱いてやったのである。


「……そういうわけだ。わかってもらえたか?」

 前侯爵の言葉にアキラは頷いた。

「わかりました。真実とはいえ、おいそれと他人に話していい内容ではありませんね」

「そういうことなのだ。ゆえに表向きミチアはド・フォーレの血を引くことになっているが、実際はド・ラマーク家の人間なのだよ。このことを知っているのは儂と、今の陛下くらいだ」

 この説明でアキラはだいたい納得できたのだが、1点疑問が生じた。

「……でしたら、ド・ラマークを名乗るのは危険ではないのですか?」

 表向きはド・フォーレという家になっているなら、先程前侯爵が言った、『アキラ・ムラタ・ド・ラマーク男爵』ではなく『アキラ・ムラタ・ド・フォーレ男爵』になるのが自然なのではないか、とアキラは言ったわけだ。

「その疑問はもっともだ。だが、領地、というかその土地が『ラマーク地方』として知られているのだよ。故にそこを領地としたなら『ド・ラマーク』を名乗ることになる」

「そういうことですか」

 これでアキラもようやく全てのことに納得がいったのである。


「……アキラ、さん……」

 ミチアが消え入りそうな小さな声でアキラを呼んだ。

「うん?」

「……その、本当のことを知って、私のこと、嫌いになったのでは、ありませんか……?」

「何で?」

 きょとんとした顔で聞き返すアキラ。

「え?」

 その返答に、ミチアは張り詰めていた気が抜けた。

「ミチアの本当の家族のことを知っただけのことじゃないか。確かに、他人に聞かせていい内容じゃないけど」

「アキラさん……」

「俺だって『異邦人エトランゼ』だから、ほいほい出自を触れ回ったりできないしな」

「……」

「ミチアはミチアだ。……最初に出会ったときから、俺は……」

「あー、こほん」

 そこで前侯爵がわざとらしく咳払いをした。

「あ……」

「し、失礼しました!」

 焦るアキラとミチア。

 前侯爵は笑ってそんな2人に、

「慌ただしいが今夜、2人が婚約した祝いの宴を開こう」

 と告げた。

「ええ……?」

 渋い顔をするアキラ。

 だが、

「これは、貴族としても必要なことだ。王都からの技術者もいるから、立会人には困らないしのう」

 と前侯爵に言われてしまえば、アキラも反論できない。

 が、

明後日あさって出発なのですから、あまり派手なことは……」

 と、ようやく一言だけ述べることができたのであった。


*   *   *


「それでは、アキラ殿とミチアの婚約を祝って、乾杯!」

 フィルマン前侯爵の音頭で乾杯が行われた。

「かんぱーい!」

「乾杯!」

「婚約おめでとう、アキラ、ミチア!」

「アキラ、おめでとう」

「ミチア、よかったわね」

「アキラさん、ミチアをよろしくね!」

「ミチア、アキラさんに幸せにしてもらうのよ」

「とにかくめでたい」

 アキラとミチアは『蔦屋敷』の面々に取り囲まれていた。

 そしてハルトヴィヒとリーゼロッテも肩を並べている。

「……同時に式を挙げられるといいのにね」

 とリーゼロッテが言うが、

「ドレスとスーツがないから無理だよな……」

 と、アキラ。

 だがリーゼロッテは、

「最初にドレスを着る栄誉はミチアに譲るわ」

 と言った。

「絹を作るため、アキラと一緒にずっと苦労してきたんだから」

「そうだよな」

 ハルトヴィヒも賛成する。

「まずアキラとミチア。そして僕とリーゼの順番だな」

「そうよねえ」

「ハルト、リーゼ……」

 アキラは2人の気遣いに感謝したのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月29日(土)10:00の予定です。


 20200222 修正

(誤)「うむ……それについては謝らねばならんな。すめん、アキラ殿。このとおりだ」

(正)「うむ……それについては謝らねばならんな。すまん、アキラ殿。このとおりだ」


 20231010 修正

(旧)

「そういうことなのだ。ゆえに表向きミチアはド・フォーレの血を引くことになっているが、実際はド・ラマーク家の人間なのだよ」

(新)

「そういうことなのだ。ゆえに表向きミチアはド・フォーレの血を引くことになっているが、実際はド・ラマーク家の人間なのだよ。このことを知っているのは儂と、今の陛下くらいだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほどそういう展開できましたか(^.^) ありがとうございましたm(_ _)m
[一言] 貴族の婚約の宴という事は、それはそれは盛大にやるわけですよ 楽団とか雑技団とか呼んだり、異世界からジン一向が現れたり ジ「お呼ばれしてみた」こいつ、お祝いのゴーレムね ゴ『オレサマ オマエ…
[良い点] > 謀反の場合、その罪は家族にも及ぶ。辛うじてミチアは処刑を免れたが、他の者たちは皆… 現実の史実でも実際にありそうですね。 記録は全部抹消されるでしょうから調べようがありませんが。 そ…
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