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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第三話 スーツ

 そして、7日間を掛けてウエディングドレスは完成した。

 試着はもちろんリーゼロッテである。


「わあ……! 素敵!!」

「憧れちゃいます……!」

「いいなあ……!!」

 純白のドレスに身を包んだリーゼロッテは、侍女たちから絶賛されていた。


「アキラさん、どうして白なんですか?」

 普通、結婚式の際に着るドレスはもっと華やかなものが多い、とミチアは言った。

「うーん、俺もよくは知らないんだけど、『白』というのは何にも染まっていないわけだから、『これからあなたの色に染まります』『あなたの色に染めてください』なんて意味があるという説があった……気がする」

 似たような意味で、『これから相手の家風に染まる』という説もあったようだ、とアキラは答えた。

「あなた色に、ですか。なんとなくロマンチックですね」

「そうか?」

 こちらの世界でもそうした考え方に理解があるなら嬉しいかな、とアキラは思っていた。


「で、俺の所では、結婚式の途中に『お色直し』と言って、純白のドレスから色の付いたドレスに着替える風習もあったんだ」

「お色直し、ですか」

「そう。『こうして、あなた色に染まりました』という意味だろうと思うけど、出ずっぱりな新郎新婦にちょっと休憩させてあげようという意図もあるんじゃないかと思う」

「ふふ、ひそかな気遣い、ですね」

 ミチアは少し頬を染め、微笑んだ。

(何度もお色直しするのは……誰の色に染まるつもりかね、と教授が言ってたっけなあ……)

 アキラは久し振りに学生時代を思い出すのだった。


*   *   *


「……で、ハルトヴィヒさんはどうするんです?」

「忘れてるわけじゃないよ。スーツを作るだけの絹がないからどうしようかと思っているんだ」

 さすがに、スーツを1着仕立てるだけの絹の在庫はない。

「あ、でしたら麻で作ったらどうでしょう?」

 麻の繊維は硬く張りがあるので、ドレスよりもスーツに向くだろうとミチアは言ったのだ。

「麻か……いいかもな」

 麻のスーツもあったはずだ、とアキラは『携通』を検索し、画像を見つけた。

「ああ、これだ」

「わ、いいじゃないですか」

 シンプルなデザインで、新郎に似合いそうです、とミチア。

「よし、これでいこう」

「でも時間が……」

 出発まであと8日しかない。


「急いで準備するぞ」

 そういうことになった。


*   *   *


「ええと、一番大変なのは型紙作りです」

 このたび『お針子頭』となったリゼットが言った。

 型紙とはつまり設計図である。

「これができて、生地を裁断してしまえば、あとは縫い合わせるだけです」

 縫い合わせる『だけ』と言いきってしまえるリゼットが凄い……とミチアは感心している。

「最悪、王都へ行く馬車の中で縫いましょう」

 揺れる馬車の中で縫うというリゼット。

「……リゼットがそういうのならやってみよう」

 アキラとしても、他に手がなさそうだと承認した。


 が、ここで、

「既存の服から型紙を起こせば早いんじゃないかしら?」

 と、ミチアがアイデアを披露した。

「それだ!」


 ウエディングドレスは新しいデザインなので1から型紙を作らねばならなかったが、スーツは似たような服が既にある。

 それを参考にすれば時間短縮になるというわけだ。


 イメージ的に一番似ていたのは家宰や執事が着ているスーツであった。

 それを1着借り、リゼットが中心となって型紙に起こしていった。

 これは2日掛かった。

 スーツの場合、裏地とかポケットとか、細かな部品があるので思ったより大変だったのである。

 次は裁断だ。


 ドレスに使った薄い麻布あさぬのではなく、一般服地用の麻なので、なんとか在庫が間に合ったのは僥倖であった。

 裏地にはドレス用の麻布の余りを使うことにした。

 裁断が終わったのはさらに2日後だった。


*   *   *


 そしてまた、別の問題も。


「……ボタンはどうしましょうか?」

 白いスーツ用なので、やはり白いボタンが欲しい。

 が、その場合貝ボタンを使うことになるのだが、高価な貝ボタンは『蔦屋敷』では手に入らなかったのだ。

「うーん……どうしようか」

 相談を受けたアキラは悩んだ。ハルトヴィヒも一緒である。

「ハルト、金属で白くすることってできないかな?」

「金属でか……そうだなあ……」


 白という色は、太陽光に含まれる可視光線を全部反射することでできる。

 赤い光だけを反射すれば赤い色に、青い光だけを反射すれば青い色に見えるわけだ。

「銀で作って、つや消しにすればかなり白く見えると思う」

 金属中で、銀が最も反射率が高い。故に『白銀』(はくぎん、しろがね)とも呼ばれるのである。


「それが一番かな……」

 ボタンを作る程度なら、銀の在庫はある。最悪、銀貨を使うという手もあった。

「あとはくるみボタンという手もあるわよ」

「え?」

 声の主はリーゼロッテだった。

「穴あきボタンでなくていいなら、丸い板を白い布でくるんでボタンを作れるわ」

「そういう手もあるのか」

 これで2つ、案が出た。

「あとは木で作って白く塗る、くらいか……」

 どれがいいかと、リーゼロッテも加え、アキラとハルトヴィヒは検討に入った。

「やっぱり、銀ボタンがいいんじゃないかな」

「そうねえ……結婚式用だし」

「高級感も出るしな」

 そういうわけで、スーツ用のボタンはハルトヴィヒが用意することとなったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月15日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「そういう手もあるのか」 あとは牛乳からカゼイン象牙を作るとか。 携通にあれば、だけど。
[一言] >>スーツ 甲冑?ガン○ム?全身タイツなやつ? >>そして、7日間を掛けてウエディングドレスは完成した。 作業はもちろん不眠不休である。 >>「アキラさん、どうして白なんですか?」 …
[一言] 海沿いなら貝も用意できたでしょうが内陸だと動物の骨とか宝石辺りですかね? 今回は急な用意になりましたが時間あったら領地で材料に適したものを探すのもいいですね
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