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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第二話 仮縫い

 シャルロット・ド・ガーリア王女殿下に贈るドレスとは別に、ウェディングドレスの見本を作ることにしたアキラたち。

「あと半月しかないから急がないと」

 そう、王都パリュへ出発するのは半月後の予定なのである。

 派手なものにしないなら、絹のストックはなんとか間に合う。

「Aライン……っていうのかな? よくわからないが」

 腰の高い位置からスカートを広げる感じにしたいなとアキラは考えていた。

「フリルは間に合わないよなあ」

 おまけに服地を多めに使うことになる。

 今回はシンプルなものにしないわけにはいかなかった。

 デザイン的には肩と腕が出ていて、胸から下を重点的に飾るイメージだ。

 絵のうまいリュシルと、縫い物が得意なリゼットにも一緒に考えてもらう。


「問題は、このふわーっと広がったスカートですね」

「ああ、そうそう。これ、全部絹で作ると大変じゃないかしら?」

 リュシルの意見にリゼットが賛成する。

「いっそ、一番内側と一番外側だけを絹にして、中は麻を使ったらどうかしらね?」

「あ、リゼット、それいいかもしれないわ」

 リゼットの意見にミチアが賛成した。

「『芯』っていう考えもあるし、全体の形を整えるには硬くて張りのある生地を使いたいからね……うん、できそう」

 リゼットは自分の考えを口にし、何とかなりそうだと自分の言葉に頷いていた。


 そんなこんなで、デザインと生地の使い方が決まったのは夜。

 翌日から裁断、そして仕立てに取り掛かることになる。

 アキラはほとんど口を出すことができなかった。

(まあ、女物の服だし……)

 それでも、計画ができあがっていく様子を傍で見ているのは楽しかった。

「あ、アキラさん、こういう話にまとまりました」

 ミチアが議事録的なメモを見せてくれた。

「うん、いいと思う。明日から頑張ろう」

「はい!」


*   *   *


 アキラの宣言通り、翌朝からウエディングドレスの製作が始まった。

 まずは採寸からだ。

「上から87、58、89ですね」

「な、なんか恥ずかしいわ……」

 恥ずかしがるリーゼロッテ。

 採寸は女性スタッフだけできゃあきゃあ言いながら行われている。

「ミチアは……ふんふん、上から84、55、87……と」

「こ、声に出さなくていいからっ!」


 今回作るドレスは、多少の調整で多くの女性が着られるように考えられている。

 それで、身近な女性全員が着られるように、と採寸を行っているのだ。

「ミューリはB81W52H85……ちょっと小さいわね……」

「小さいのはわかってるからっ!」

 ミューリの名誉のために付け加えておくと、彼女は身長151センチ、体重40キロと、『蔦屋敷』の女性たちの中で最も小柄なのである。

 ちなみに一番大柄なのはリーゼロッテで162センチ、49キロだ。

 シャルロット・ド・ガーリア王女は154センチくらい、と目算されていた。


 次は型紙作り。

 これは厚手の『和紙』を用いて行われた。

 基本的な形状は『携通』にもあったし、既に存在するドレスを参考にすることもできるので、寸法さえ間違わなければ問題ない。

 採寸、型紙までで1日を要した。


*   *   *


「どうだね、間に合いそうかな?」

 夕食後、『蔦屋敷』の主、フィルマン・アレオン・ド・ルミエ前侯爵がアキラに進捗状況を尋ねてきた。

「はい、皆頑張ってくれていますので、大丈夫そうです」

「そうか、ならよい。期待しているぞ」

「はい」


*   *   *


 翌日は型紙に合わせて裁断、そして縫製である。

 ここで問題が発生。

「麻の生地がまだ届かないんですが」

 ……となると大慌てになるのだろうが、アキラたちは慣れたもので、

「まず絹の方を全部裁断しておいてくれ。麻は俺が確認しに行ってくる」

 作業の順序を入れ替えたり、できるところから進めておくなどし、停滞しないよう工夫している。


*   *   *


「麻が届いたぞ。道が雪解けでぬかるんでいたため遅れたようだ」

「ああ、よかった」

 そして再開される裁断、縫製……。


「3分の1くらいはできたかしら?」

「うーん、まだ4分の1くらいじゃない?」

 裁断から始めたので、縫製の方はそれほど進まなかったようだ。

「それでも十分さ。この分なら明後日あさってにはできあがるだろう」

 日数には余裕があるから無理はしないでくれ、とアキラはスタッフに声を掛けた。

「ありがとうございます」

 ミチアが代表して礼を口にした。

 こういう時、『間に合わせてくれよ』とか『遅れないように』などという言葉が真っ先に出てくる上司は嫌われる……らしい。

 スタッフにもよるが、プレッシャーのない環境で働いた方がよりよい成果を出せる者が多いのだから。

 もっとも、甘やかしすぎてダレてしまうのは論外である。


*   *   *


「これを私が着るの?」

「試しにね。……あ、そっと着てね。まだ仮縫いだし、まち針も刺さっているから」

 縫製が仮縫いまで進んだので、最初に着る予定のリーゼロッテに着てみてもらうと、

「うわあ、素敵!!」

 とてもよく似合っているのだった。

 入浴、洗髪、保湿クリームなどを使っているリーゼロッテは髪も肌も綺麗なので、純白のドレスがよく映えるのだ。

「ブロンドの髪がよく合いますねえ」

 基本、無彩色である白は、他の色に干渉しないのだ。

 金髪碧眼、そしてこの時代の女性としては高身長なリーゼロッテが着た純白のドレスは。とても華やかに見えたのだった。


「……見たいけど我慢だな」

「ああ。今入ったら袋だたきにされるぞ」

 アキラとハルトヴィヒは部屋の外で2人、苦笑いの顔を見合わせたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月8日(土)10:00の予定です。


 20200201 修正

(誤)「麻の生地がまだ届かないんですが」」

(正)「麻の生地がまだ届かないんですが」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  身分のある方のドレスなら、余裕を持ってから縫われているものが用意されているはずで、アキラ側が王女に作ることを伝えて無いなら横入り予定のドレスなんですよね?  確実にコンシールファスナーは…
[一言] そっか、贈り物のドレスとウエディングドレスじゃ、デザインも色も違いますよね ただ、ウエディングドレスで結婚式挙げちゃったら、それが流行って需要がマシマシになる気がします ジ「つまり貴族やお…
[一言] そういえばミシンもないのか…おら早く作るんだよ(ムチャぶり)
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