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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第6章 再びの王都篇
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第一話 準備いろいろ

 庭の木に積もった雪が音を立てて落ちた。

 春の日差しに凍った雪が溶け始め、庇には大小・長短さまざまなつららが下がったが、それも南風に吹かれて溶けていく。


 『蔦屋敷』では春の訪れを目前にして、慌ただしい日々が始まっていた。王都へ向かうための準備である。


「ああもう、2度目だっていうのに慣れないなあ」

 ぼやきながらリストをチェックしていくアキラ。

「ふふ、それはそうですよ。1年に1度くらいでは、忘れた頃に準備……となっているんですから、慣れるどころではないでしょう」

 傍らでは衣類の準備をしているミチアが笑っている。

「まあ、なあ……おまけに今回は王女様のドレスも持っていくから荷物が多いこと多いこと」

「その分、馬車の数も増えましたからね」

「それに今回はハルトとリーゼも同行するっていうんだからな」


 アキラの友人であり同僚のハルトヴィヒとリーゼロッテは、元々このガーリア王国の人間ではなく、隣のゲルマンス帝国出身だった。

 それが、今回は同行する。

 目的は『帰化』だという。

「あのお2人も、すっかり馴染まれましたものね」

「そうだな」

「これもアキラさんの人徳ですよ」

「……それはない」

 ミチアの言葉をばっさりと切って捨てるアキラ。

「……居心地がいいから、というのは認めるけど」

 『異邦人エトランゼ』の知識が物珍しい、ということもあるんだろうしとアキラが言うと、

「それも含めてアキラさんという『人』なんですから」

 とミチアが言った。

「ええと、ありがとう?」

 疑問形で礼を言ったアキラに、ミチアはくすっと笑って応じた。

「それで、どうですか? リストのチェックは」

「うん、終わった。これでいいと思う」

 チェック済みのリストの束をミチアに手渡すアキラ。

「わかりました。これで手配しておきます」

「うん。俺はちょっとハルトたちの様子を見てくる」


*   *   *


 ハルトヴィヒとリーゼロッテもまた、荷造りで忙しかった。

「リーゼ、よかったのか?」

 ハルトヴィヒが少し心配そうに尋ねた。

「僕の家は平民だからいいが、君は子爵家令嬢じゃないか」

 それを聞いたリーゼロッテはふふっと笑った。

「そうは言っても、私は6女だから」

「君の家は兄弟姉妹が多かったっけな」

「ええ。兄が4人、弟が1人、それから姉が5人」

「子沢山だなあ」

「貴族ってそういう家が多いわよ。正妻の他に第二、第三夫人にお妾さん、果てはお手つきの侍女」

「僕はごめんだね」

 そんなハルトヴィヒのセリフを聞いたリーゼロッテは再びふふっと笑い、

「ハルは奥さん1人でいいの?」

 と悪戯っぽい表情で言う。それに対しハルトヴィヒは少しぶっきらぼうに答えた。

「ああ。僕は嫁さんは1人で十分さ、それ以上の甲斐性はないよ」

「……そんなハル、好きよ」

「……リーゼ……」

 2人の距離が近づき……

 ……そこに、

「ハルト、荷造りは進んでるか?」

 と言いながらアキラがやって来た。

 ぱっと飛び退く2人。

「あたっ」

 そしてハルトヴィヒは下がった拍子に、床に置いた箱にかかとをぶつけてしまった。

「大丈夫か?」

「あ、ああ」

 心配するアキラに頷いてみせるハルトヴィヒ。


「こっちの荷造りはほぼ終わったよ。アキラと違って僕たちは客扱いだしな」

 まだ帰化していない2人はゲルマンス帝国民であるから、ぞんざいな扱いはできないのだ。

「でも、向こうで式を挙げるんだろう?」

「え?」

「えっ?」

 アキラの発言に驚くハルトヴィヒとリーゼロッテ。

「な、なんで……」

「どどどうしてアキラが知っているのよ!?」

「いや、ミューリからこの前聞いたが……」

「……あの子……」

「ああ、口止めしていなかったしなあ……」


 実は先日、挙式を王都で挙げるか、それともこちらへ戻ってきて挙げるかを相談していたとき、偶然通りかかったミューリに聞かれてしまったのだった。

「あれ? だけど、こっちで挙げるか向こうで挙げるかまではミューリに話していなかったぞ?」

 その時はミューリに、


「こちらには教会がありませんから、村人と同じ形式になりますよ」

 と言われたのである。

 それに対してハルトヴィヒは、一生に一度のことであるし、リーゼロッテの気持ちを考えると王都パリュで、きちんと挙式したほうがいいだろうなと考えていたのだった。

 考えはしたけれど、誰にも話してはいない。リーゼロッテを除いて。

 

「それくらいちょっと考えればわかるさ。リーゼのことを考えて、正式な式を挙げようと考えただろう?」

 と、アキラ。

「……うん、まあ、そうなんだが」

 アキラにしても、自分がミチアと、と考えると、同じようなことを思うだろうなあと想像したわけである。

 そして人知れず赤面してしまい、

「そ、それじゃあ、俺は行くから」

 という言葉を残してハルトヴィヒの工房からそそくさと出て行ったのだった。


*   *   *


「……挙式か……」

 リーゼロッテにも、シルクのウェディングドレスを着せてあげたいものだとアキラは考えていた。

 とはいえ、今のところ絹はまだ量が少なく、何着も作れそうもない。

 そこで、

「そうだ、レンタル……いや、モデルになってもらおう」

 と思いつく。

 つまり、シルクのウェディングドレスの試着モデルになってもらい、ドレスはその後手直しをして見本とする……。

 こういう策を思いついたアキラなのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月1日(土)10:00の予定です。


 お知らせ:1月25日(土)早朝から26日(日)昼過ぎにかけて帰省してまいります。

      その間レスできませんのでご了承いただきますようお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>庭の木に積もった雪が音を立てて落ちた。 ドサドサ!\ギャー!/\大変だ!誰か埋まったぞ!/ >>庇には大小・長短さまざまなつららが下がったが トストス!\ギャー!/\大変だ!誰かに…
[一言] おー、2人が帰化するんですか この国に骨を埋めると決心してくれたんですねー これからも良き仲間であってほしいです
[一言] うーん、明くんはこの辺に気が回るんですねぇ……いや自分の事も進めたほうがいいよ? ついでだから、ミチアさんの分も作っちゃいましょう エ「それはダメ」たぶん、お腹が大きくなってからだから、着…
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