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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第5章 地域振興篇
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第十四話 分銅作り

 天秤ばかりの精度は、1つには腕木の軽さ、もう1つは分銅の正確さによるところが大きい。

「ふんふん、分銅の重さが変動するのは、錆びるからか!」

「正確には『酸化』、『硫化』だけどね」

 アキラはハルトヴィヒに、いろいろと参考になりそうなことを説明していた。


 金属が空気中の酸素と化合するのが酸化である。酸化した金属は、通常『さび』という名称で呼ばれる。

 鉄が常温の空気中で酸化すると酸化鉄(より正確には酸化鉄(III))。これは『赤錆』と呼ばれる。

 銀や銅は、酸素の他、硫黄分とも化合しやすく、それぞれ硫化銀、硫化銅となる。

 硫黄の温泉で銀の指輪が黒くなるのはこれだ。


 とにかくそういうわけで、元々の金属に酸素がくっつけば、その分重くなるのは自明の理。

「つまり、錆びない金属で分銅を作ればいいわけだな!」

 そういう考えに基づき、地球ではかつての『キログラム原器』はプラチナ90パーセント、イリジウム10パーセントからなる合金 で作られていた。


「よし、まずは正確な分銅作りからだな!」

 そもそも、天秤というのは、『比較』するものである。

 つまり、基準となるものの精度で、測定の正確さが決まると言っていい。

 ゆえに、正確な分銅が必要不可欠なのである。

 ハルトヴィヒは張り切って作業を開始した。


*   *   *


「0.1グラム……ねえ……」

 そもそも、『キログラム原器』すらないわけで、どうやって分銅を校正するのか、という問題に回帰する。

「純水1ミリリットルが1グラムだったな」

 これは過去の『異邦人エトランゼ』がもたらした知識であった。


 そこへ、ハルトヴィヒが作業を開始したので『離れ』に戻っていたアキラが再びやってきた。

「ハルト、こういうものがあるんだが……」

 アキラが差し出したのは1円玉9枚と5円玉1枚、10円玉7枚、50円玉2枚、100円玉6枚、500円玉2枚。

「面白い硬貨だな……あ、もしかしてアキラの世界の硬貨か?」

「そうなんだ」

 アキラがこっちの世界に迷い込んだ際、財布に入っていたお金である。


「1円玉が1グラム、5円玉が3.75グラム。10円玉が4.5グラム、50円玉が4グラム。100円玉が4.8グラムで、500円玉が7グラムなんだ」

 うろ覚えではなく、『携通』で確認したので間違いなかった。

「ほほう! そりゃいいな!」

「ただ、1円玉はアルミニウムだからほとんど酸化していないとはいえ、他の硬貨は大なり小なり酸化しているだろうから、重さが狂っているかもしれないぞ」

「それを考慮して分銅を作るか……」


 50円玉(4グラム)と10円玉(4.5グラム)を使うことで0.5グラムの分銅を作れる。

 100円玉(4.8グラム)と10円玉(4.5グラム)で0.3グラムの分銅を作れる。

 0.3グラムの分銅と0.5グラムの分銅とで0.2グラムの分銅を作れる。

 0.3グラムの分銅と0.2グラムの分銅とで0.1グラムの分銅を作れるわけだ。

 0.1、0.2、0.3グラムの分銅があれば、0.4から0.9グラムまでの分銅が作れる。

 ここまでくれば、もう分銅の問題はない。


「うん、このやり方で何とかできそうだぞ!」

 ハルトヴィヒは、ようやく完成までの道筋を見出すことができた。

「まずは正確な天秤だな……」

 精密な分銅を作るには、精密な秤が必要になる。

 こちらは、アキラが要求するような、最大値100グラムである必要はない。

「まず0.1グラムの分銅を作るか。それには1グラムが量れる天秤でいいかな?」

 1グラムが量れるなら、その10分の1である0.1グラムもかなり正確に量れるだろうという考えだ。

 小さく、しかも軽い天秤を、ハルトヴィヒは半日掛けて作り上げたのである。


*   *   *


 次はいよいよ分銅作りである。

「100グラムまで量れればいいなら、金を使うかな……」

 金は常温ではほとんど酸化などの化学反応を起こさない、安定した金属である。

 ゆえにハルトヴィヒが分銅に使おうと考えたわけだ。ただし高価である。


 余談だが、意外にも金はヨードチンキ(ヨウ素をエタノールに溶かした溶液)に溶ける。(正確にはコロイド状になる)

 なので、ヨードチンキに金めっき部品を漬け込むことで金を回収できるのだ。


 閑話休題。

 専用の天秤ばかりということで、ハルトヴィヒは金で分銅を作ることにした。

 これで分銅の質量変化は最小に抑えられる。


「うーん……精度を上げるなら……」

 ハルトヴィヒは、自分の経験・知識に加え、アキラが持つ知識、そして『携通』の情報を全て合わせて考えていった。

「やっぱりこれでいくか」


 精度を上げていく際のポピュラーな手段の1つとして、たくさん作って比較し、平均を取る方法がある。

 ハルトヴィヒはこれを行うことにしたのである。


 まず0.1グラムの分銅を100個作る。根気のいる仕事だが、彼はこういう作業にあまりまない性格をしている。

 丸1日掛けて、金の薄板で100個の分銅を作り上げた。

 どうやったかというと、1円玉5枚、つまり5グラムと100円玉1枚つまり4.8グラムを使い、0.2グラムの金粉を量り取る。

 それを天秤で2つに均等に分ければ0.1グラムの金粉が2組できる。それを溶かせば0.1グラムの金塊となる。

 これを50回繰り返して0.1グラムの金塊100個が完成。

 そのままでは扱いにくいのでそれをハンマーで叩いて平たく伸ばせばできあがり。

 このとき、1円玉と100円玉の組み合わせもランダムに変えていくことで、より平均的な測定になっているはずだ。


 100個を互いに比較して重い順に並べていく。これもまた根気のいる作業だ。

 こうして、100個の分銅を重さ順に並べていけば、『正規分布』という名の、データ分布が出来上がる。

 理論どおりなら、平均値付近が最も数が多く、そこから外れていくに従って数が減ることになる。

 実際には、100個ではサンプル数が十分ではないが、それでも軽い方から重い方へ並べていくと、1、3、7、14、38、17、7、4、5、3、1となった。

 3とか7という集団は、今の精密天秤では差を付けられなかったものだ。


「この38個ある分銅は0.1グラムとしていいだろうな」

 そして、その前後、軽い物14個、重い物17個。軽い・重いという誤差すなわちプラスとマイナスの誤差は同じ程度とすれば、打ち消しあうはずだ。

 つまりこれらの集団から1個ずつ取り出して1つにすれば0.2グラムとなる。

 これが14個できた。

 この14個を軽さ順に並べたところ、1、2、6、4、1となった。

 真ん中の6個は0.2グラムの分銅として利用する。

 その前後、2個と4個、1個と1個は組み合わせて0.4グラムの分銅3個とした。

 この0.4グラムの分銅を、0.1グラムの分銅4個と比較したところ、いい感じに釣り合ったので、

「よし、考えは正しかったな」

 と、満足したハルトヴィヒである。


 ここまでできれば、作業はぐっと楽になる。

 0.1+0.2で0.3グラム。0.2+0.2、または0.1×4で0.4グラムができる。

 0.5グラムを作る組み合わせは0.1×5、0.2+0.3、0.1+0.2+0.2……など、何通りもある。

 こうしてハルトヴィヒは精密な分銅を作っていったのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は12月21日(土)10:00の予定です。


 20230603 修正

(誤)

 作り方は簡単。精密天秤(量れる最大値が10グラム)を使い、9枚の1円玉を分銅にして金粉1グラムを量る。

 金は酸化しにくいから、それを溶かして固めれば、1グラムの金塊が出来上がる。

 扱いにくいのでそれをハンマーで叩いて平たく伸ばせばできあがり。

 1円玉と同じ重さの分銅を11枚作る。8枚分、8回繰り返し、そして9枚目の1円玉から12枚の分銅を作れば100個となる。


 そして今度はそれらの重さを比較して重い順に並べていく。これもまた根気のいる作業だ。

(正)

 どうやったかというと、1円玉5枚、つまり5グラムと100円玉1枚つまり4.8グラムを使い、0.2グラムの金粉を量り取る。

 それを天秤で2つに均等に分ければ0.1グラムの金粉が2組できる。それを溶かせば0.1グラムの金塊となる。

 これを50回繰り返して0.1グラムの金塊100個が完成。

 そのままでは扱いにくいので扱いにくいのでそれをハンマーで叩いて平たく伸ばせばできあがり。

 このとき、1円玉と100円玉の組み合わせもランダムに変えていくことで、より平均的な測定になっているはずだ。


 100個を互いに比較して重い順に並べていく。これもまた根気のいる作業だ。


 1gと0.1gがごっちゃになっていました……

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[気になる点] >まず0.1グラムの分銅を100個作る。根気のいる仕事だが、彼はこういう作業にあまり倦まない性格をしている。  丸1日掛けて、金の薄板で100個の分銅を作り上げた。  作り方は簡単。精…
[気になる点] >1円玉と同じ重さの分銅を11枚作る。8枚分、8回繰り返し、そして9枚目の1円玉から12枚の分銅を作れば100個となる。 この文章が判り難かった。 1gと同じ重さの何かを11個で、そ…
[一言] 一円玉 採用ありがとうございます。 一円玉を使った天秤は誠文堂新光社新広社から出ていた野中しげきち先生の著作にありました。全長三十センチでバランスを取り、センチ刻みで刻みを入れ一応0.1グラ…
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