第十話 雪祭り
『雪祭り』の賞品を何にするかでアキラたちは相談を続けていた。
「無難なところでワインとかお菓子とかだろうな」
ハルトヴィヒが提案する。
「絹のハンカチ……とかじゃだめでしょうか?」
ミチアが言うが、それはリーゼロッテに否定された。
「それはまだやめておいた方がいいわ。まず、参加するのが村人だから、絹のハンカチもらっても使い道がないでしょう」
「あ、それはそうですね」
村人主体の祭りなのだから、それに即した賞品がいい、とリーゼロッテは言った。
「そうするとワインはいいよな」
アキラもそれは認めている。
「お菓子は……日持ちしないと難しいかな?」
「そうねえ……クッキーあたりならいいかもしれないけど」
リーゼロッテは、だけどクッキーを賞品にするのはどうかしら、と言って苦笑いを浮かべた。
「そうすると、本数で調節するか」
「今回はそれがいいかもね」
1位3本、2位2本、3位は1本、とすることになる。
「もう少し前から計画していれば、品質や銘柄で差別化できたんでしょうけどね」
「まあ、それは来年以降の課題だな」
さすがに今から準備は出来ないもんなあ、とアキラは苦笑したのである。
* * *
その話を聞いた前侯爵は豪快に笑った。
「ははは、面白いな。……それなら今回は、私も賞品を出させてもらおう」
そういう話になって、ブランデーを1本、寄付してくれたのだ。
実際、賞品のワインは全部前侯爵が用意しようかと言ってくれたのだが、アキラが断ったのだった。
それで、特別賞にでもしてくれと、ブランデーを1本出してくれた、というわけだ。
「これは『審査員賞』にでもしよう」
そういうことになった。
* * *
さて、滞りなく時は流れて、雪祭り当日の朝となった。
祭りの通達から準備は、セヴランをはじめとし家宰・執事たちが進めてくれたので、アキラの負担は軽かった。
雪も1度降り、量・質共に文句なしのコンディション。
天気は快晴とはいかなかったが、雲の間から青空が覗いており、まずまずの天気だ。
「おお、みんな頑張ったなあ」
会場であるブリゾン村の広場には、大小様々、30ほどの雪像が立ち並んでいた。
実は、アキラは少し風邪を引いて2日ほど外出を控えていたため、会場の準備に全くのノータッチだったのだ。
それで初めて会場を目にし、盛況ぶりに驚いていたのである。
広場の中心には、ハルトヴィヒが作った雪祭りのシンボル、『雪の女王』像が立っていた。
『雪の女王』は、伝説にある冬の精霊ということで、ハルトヴィヒは2日掛けて作ったのだそうだ。
「なかなか出来のいいのもあるな」
ハルトヴィヒの像に刺激を受けたのか、気合いの入っている像もちらほら見受けられた。
微笑ましいのは、コンテスト参加ではない、子供が作った雪だるまのような雪像が幾つか混じっていること。
稚拙ながらも微笑ましい雪像だな、とアキラは思ったのである。
アキラとリーゼロッテが審査員、ハルトヴィヒは審査員長。
3人は像の間をゆっくり歩きながら採点をしていった。
採点は難しい。最初に見たものに付けた点数が、後になると適切だったかどうか、自信がなくなることもある。
そういう場合は、逆順に見直していけばいい。
小さな広場なので、アキラは3度巡って採点を行ったのである。
* * *
「さあみなさん、どんどん食べてください!」
「おー!」
正午、広場の隅では大鍋に野菜と肉のスープが作られ、無償で配られていた。
アキラのイメージは『芋煮会』なのだが、サトイモが見つからないので『ジャガイモ』のスープになっている。
そこに燻製肉を入れれば、出汁も取れて一石二鳥。
さらにニンジンやタマネギも入れてコトコト煮込んでいるので、スープというよりシチューのようになっている。
材料費と薪代はアキラが出しており、煮込んでいるのはミチアやミューリといった侍女たちだ。
気温は氷点を3〜4度上回っている程度なので、温かいスープが嬉しいとみえ、貰ったものたちはニコニコ顔である。
(味噌があればよかったのにな……)
アキラの感想としては、塩味の豚汁だった。
それでもベーコンのような燻製肉からいいうま味が出ており、なかなかの味に仕上がっていた。
(たくさん作ると料理って美味しくなるっていうけど、どうしてだろうな……)
などと思いながら、アキラは温かいスープを味わっていた。
「笑顔が溢れるお祭りっていいですね」
スープを配るミチアやミューリも、人々の笑顔を見て嬉しそうだった。
* * *
日が傾いて、気温も氷点下一歩手前まで下がってきた頃、雪像の審査結果が発表される。
集まった村人の前で、アキラが名前を読み上げていく。
「3位、『牡鹿』、製作者、タウノ」
牡鹿の雪像を作ったタウノという村人が3位だった。
彼にはワイン1本が贈られる。集まった村人からは拍手と歓声が贈られた。
「2位、『猪の親子』、製作者、クスター」
2位は親子の猪像を作ったクスター。ワイン2本が賞品だ。
「審査員賞、『雪の女王、習作』。製作者、ヴァルロ」
1位の前に審査員賞を発表。
ハルトヴィヒが作った『雪の女王』にできる限り似せて作ったもので、実際のところあまり似てはいなかったが、熱意をかって審査員賞となった。
こちらは前侯爵寄付のブランデー1本だ。
そして1位は。
「1位、『勇者』。製作者、カールロ」
伝説の勇者の像を作ったカールロが優勝した。
アキラからワイン3本を受け取ると、大きな拍手と歓声が贈られたのだった。
* * *
そして日没を迎えると、雪像の周囲には篝火や魔法道具による明かりが灯され、幻想的な風景になる。
「……いいですね、こういうの。……少し寒いですけど」
アキラと肩を寄せ合いながらミチアが言った。
「うん。村人たちも喜んでいるし、やってよかったよ」
「本当ですね」
それから2人はかまくらに入る。
中にはロウソクの明かりが灯され、小さな手あぶりも入れてあるので外よりも寒くない。
「……ほんと、餅が作れたらなあ」
オリザ……『稲』があるらしいのだが、まだ手に入っていないので作れないのだった。
「ふふ、でもアキラさんなら、いつか作ってしまうでしょうね。そうしたら食べてみたいですね」
「その時は、真っ先にミチアに食べてもらうよ」
「約束ですよ?」
「うん」
その夜は風も弱く、昇ってきた月明かりもあって、夜遅くまで楽しそうな笑い声が響いていたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月23日(土)10:00の予定です。
20191117 修正
(誤)解錠であるブリゾン村の広場には、大小様々、30ほどの雪像が立ち並んでいた。
(正)会場であるブリゾン村の広場には、大小様々、30ほどの雪像が立ち並んでいた。
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(旧)気温は氷点下を3〜4度上回っている程度なので、温かいスープが嬉しいとみえ、
(新)気温は氷点を3〜4度上回っている程度なので、温かいスープが嬉しいとみえ、
(旧)日が傾いて、気温も氷点下一歩手前まで下がってきた頃
(新)日が傾いて、気温も氷点一歩手前まで下がってきた頃