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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第5章 地域振興篇
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第十話 雪祭り

 『雪祭り』の賞品を何にするかでアキラたちは相談を続けていた。

「無難なところでワインとかお菓子とかだろうな」

 ハルトヴィヒが提案する。

「絹のハンカチ……とかじゃだめでしょうか?」

 ミチアが言うが、それはリーゼロッテに否定された。

「それはまだやめておいた方がいいわ。まず、参加するのが村人だから、絹のハンカチもらっても使い道がないでしょう」

「あ、それはそうですね」

 村人主体の祭りなのだから、それに即した賞品がいい、とリーゼロッテは言った。

「そうするとワインはいいよな」

 アキラもそれは認めている。

「お菓子は……日持ちしないと難しいかな?」

「そうねえ……クッキーあたりならいいかもしれないけど」

 リーゼロッテは、だけどクッキーを賞品にするのはどうかしら、と言って苦笑いを浮かべた。


「そうすると、本数で調節するか」

「今回はそれがいいかもね」

 1位3本、2位2本、3位は1本、とすることになる。

「もう少し前から計画していれば、品質や銘柄で差別化できたんでしょうけどね」

「まあ、それは来年以降の課題だな」

 さすがに今から準備は出来ないもんなあ、とアキラは苦笑したのである。


*   *   *


 その話を聞いた前侯爵は豪快に笑った。

「ははは、面白いな。……それなら今回は、私も賞品を出させてもらおう」

 そういう話になって、ブランデーを1本、寄付してくれたのだ。


 実際、賞品のワインは全部前侯爵が用意しようかと言ってくれたのだが、アキラが断ったのだった。

 それで、特別賞にでもしてくれと、ブランデーを1本出してくれた、というわけだ。

「これは『審査員賞』にでもしよう」

 そういうことになった。


*   *   *


 さて、滞りなく時は流れて、雪祭り当日の朝となった。

 祭りの通達から準備は、セヴランをはじめとし家宰・執事たちが進めてくれたので、アキラの負担は軽かった。

 雪も1度降り、量・質共に文句なしのコンディション。

 天気は快晴とはいかなかったが、雲の間から青空が覗いており、まずまずの天気だ。


「おお、みんな頑張ったなあ」

 会場であるブリゾン村の広場には、大小様々、30ほどの雪像が立ち並んでいた。

 実は、アキラは少し風邪を引いて2日ほど外出を控えていたため、会場の準備に全くのノータッチだったのだ。

 それで初めて会場を目にし、盛況ぶりに驚いていたのである。


 広場の中心には、ハルトヴィヒが作った雪祭りのシンボル、『雪の女王』像が立っていた。

 『雪の女王』は、伝説にある冬の精霊ということで、ハルトヴィヒは2日掛けて作ったのだそうだ。

「なかなか出来のいいのもあるな」

 ハルトヴィヒの像に刺激を受けたのか、気合いの入っている像もちらほら見受けられた。

 微笑ましいのは、コンテスト参加ではない、子供が作った雪だるまのような雪像が幾つか混じっていること。

 稚拙ながらも微笑ましい雪像だな、とアキラは思ったのである。


 アキラとリーゼロッテが審査員、ハルトヴィヒは審査員長。

 3人は像の間をゆっくり歩きながら採点をしていった。

 

 採点は難しい。最初に見たものに付けた点数が、後になると適切だったかどうか、自信がなくなることもある。

 そういう場合は、逆順に見直していけばいい。

 小さな広場なので、アキラは3度巡って採点を行ったのである。


*   *   *


「さあみなさん、どんどん食べてください!」

「おー!」

 正午、広場の隅では大鍋に野菜と肉のスープが作られ、無償で配られていた。

 アキラのイメージは『芋煮会』なのだが、サトイモが見つからないので『ジャガイモ』のスープになっている。

 そこに燻製肉を入れれば、出汁も取れて一石二鳥。

 さらにニンジンやタマネギも入れてコトコト煮込んでいるので、スープというよりシチューのようになっている。

 材料費と薪代はアキラが出しており、煮込んでいるのはミチアやミューリといった侍女たちだ。

 気温は氷点を3〜4度上回っている程度なので、温かいスープが嬉しいとみえ、貰ったものたちはニコニコ顔である。

(味噌があればよかったのにな……)

 アキラの感想としては、塩味の豚汁だった。

 それでもベーコンのような燻製肉からいいうま味が出ており、なかなかの味に仕上がっていた。

(たくさん作ると料理って美味しくなるっていうけど、どうしてだろうな……)

 などと思いながら、アキラは温かいスープを味わっていた。


「笑顔が溢れるお祭りっていいですね」

 スープを配るミチアやミューリも、人々の笑顔を見て嬉しそうだった。


*   *   *


 日が傾いて、気温も氷点下一歩手前まで下がってきた頃、雪像の審査結果が発表される。

 集まった村人の前で、アキラが名前を読み上げていく。

「3位、『牡鹿おじか』、製作者、タウノ」

 牡鹿の雪像を作ったタウノという村人が3位だった。

 彼にはワイン1本が贈られる。集まった村人からは拍手と歓声が贈られた。


「2位、『猪の親子』、製作者、クスター」

 2位は親子の猪像を作ったクスター。ワイン2本が賞品だ。

「審査員賞、『雪の女王、習作』。製作者、ヴァルロ」

 1位の前に審査員賞を発表。

 ハルトヴィヒが作った『雪の女王』にできる限り似せて作ったもので、実際のところあまり似てはいなかったが、熱意をかって審査員賞となった。

 こちらは前侯爵寄付のブランデー1本だ。

 そして1位は。

「1位、『勇者』。製作者、カールロ」

 伝説の勇者の像を作ったカールロが優勝した。

 アキラからワイン3本を受け取ると、大きな拍手と歓声が贈られたのだった。


*   *   *


 そして日没を迎えると、雪像の周囲には篝火や魔法道具による明かりが灯され、幻想的な風景になる。

「……いいですね、こういうの。……少し寒いですけど」

 アキラと肩を寄せ合いながらミチアが言った。

「うん。村人たちも喜んでいるし、やってよかったよ」

「本当ですね」

 それから2人はかまくらに入る。

 中にはロウソクの明かりが灯され、小さな手あぶりも入れてあるので外よりも寒くない。

「……ほんと、餅が作れたらなあ」

 オリザ……『稲』があるらしいのだが、まだ手に入っていないので作れないのだった。

「ふふ、でもアキラさんなら、いつか作ってしまうでしょうね。そうしたら食べてみたいですね」

「その時は、真っ先にミチアに食べてもらうよ」

「約束ですよ?」

「うん」


 その夜は風も弱く、昇ってきた月明かりもあって、夜遅くまで楽しそうな笑い声が響いていたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月23日(土)10:00の予定です。


 20191117 修正

(誤)解錠であるブリゾン村の広場には、大小様々、30ほどの雪像が立ち並んでいた。

(正)会場であるブリゾン村の広場には、大小様々、30ほどの雪像が立ち並んでいた。

 orz


(旧)気温は氷点下を3〜4度上回っている程度なので、温かいスープが嬉しいとみえ、

(新)気温は氷点を3〜4度上回っている程度なので、温かいスープが嬉しいとみえ、

(旧)日が傾いて、気温も氷点下一歩手前まで下がってきた頃

(新)日が傾いて、気温も氷点一歩手前まで下がってきた頃

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れさまです!  そして1位は。 「1位、『偉大なる魔法工学師』。製作者、カールロ」  伝説の魔法工学師の像を作ったカールロが優勝した。  アキラからワイン3本を受け取ると、大きな拍…
[一言] >>『雪祭り』の賞品を何にするかでアキラたちは相談を続けていた。 「無難なところで金だろうな」 >>まず、参加するのが村人だから、絹のハンカチもらっても使い道がないでしょう 汗でも拭く…
[一言] 更新お疲れ様です。 雪だるま、で思い出したのですが、日本の雪だるまと欧米の「スノーマン」は結構違うんですよね。 雪だるまは「達磨さん」が元なので本来は一段のものだったそうで、江戸時代に現在…
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