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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第5章 地域振興篇
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第二話 軽馬車

 リーゼロッテに任せた、赤い麦わらの色落ち防止は意外と早く一応の解決を見た。

「染めたあと、蝋を染み込ませるのよ」

「なるほど!」

 そうすることで水がしみ込まないようになるため、色落ちもしない、というわけである。

 全部のわらの吸水性がなくなったら機能的にまずいが、1割にも満たない赤い色のわらだけなら問題なさそうだと、アキラはその案を即採用した。

「他の色にも応用できるよな」

 カラフルな色をアクセントとして使う際に、蝋を染み込ませる方法は使えるとアキラは判断し、黄色や緑のわらも同じ処理をすることにしたのである。


 そしてさらにリーゼロッテは、

「ねえ、カラフルな麦わらを折ったり編んだりして綺麗な織物を作って、それを箱の蓋にあしらったらどうかしら?」

「うーん、面白いかもな」

 蓋だけでもそうした加飾かしょくをすれば、素朴な美しさが出そうだ、とアキラは感心し、そちらも進めることにしたのである。


*   *   *


「そうですね、そうした木工技術があるのはゴルド村でしょうか」

 家宰のセヴランに相談すると、そんな答えが返ってきた。

 ゴルド村は『蔦屋敷』の東にある村で、アキラの配下であるゴドノフ・イワノフ兄弟の出身村である。

 さっそくアキラは2人に聞いてみることにした。


「え? 木工職人っすか?」

「そうだ。箱なんかの小物を作るのがうまい人がいいな」

「なら、従兄のアザロフがいいんじゃないかと思いやす」

 ゴドノフとイワノフは少し相談しあったあと、そう返答してきた。

「アザロフは箱とか椅子とか、大きくてもテーブルくらいのものを作る木工職人なんでがす」

「なるほど、指物師か」

 アキラはちょうどいいかもしれないな、と思い、そのアザロフと話をしてみることに決めた。


 単なる木工なら家宰のセヴランに相談してもいいのだが、将来的にこの地方の産物にしようと考えているので、できる限り地元の力でやっていきたいのだ。

「こちらに呼びつけますかい?」

 とゴドノフが言ったのだがアキラは、

「いや、一度こっちから出向いてみたい」

 と言った。

 そんな、旦那が自ら……とゴドノフは言うが、アキラとしては近隣の村の様子を見聞したいという思いもあったのである。


 それでその日の午後、ゴドノフに案内をさせ、出掛けることにしたのである。


*   *   *


「アキラさん、私も付いていきます」

 と主張したミチアを連れ、ゴドノフを案内人とし、アキラはゴルド村へと出掛けた。

 道には雪が積もり始めているので、軽馬車を借りる。御者はゴドノフだ。


 軽馬車とは、このあたりの呼び名で、1頭立ての馬車のことである。

 簡単な幌が付いていて、小雨くらいならしのげる。

 荷物なら200キロくらいまで、人間なら3人までを乗せられる。


 その軽馬車で、アキラたち3人はゴルド村へと向かったのだ。

 距離はおよそ8キロ。馬車の速度は時速6キロほど、1時間半で着ける計算だ。

 途中には崖などの危険な箇所もないので、話がスムーズにいけば日没前に帰宅できるはずであった。


 ガラガラと軽快な音で馬車は進んでいく。

 昼下がりなので、気温はそれほど低くなく、疎林の木々からは凍った雪が溶けて雫を垂らしていた。

 天気は薄曇り、雪の反射も眩しくないのでありがたい、

「なんだか、のんびりするな……」

 荷台に毛布を敷き、そこに座っているアキラは、誰に言うともなく呟いた。

「ふふ、アキラさんって、いつも何かしら考えたり動いたりしていますものね。それこそ休みなしに」

「そうかな? ……そうかも」

 最初の頃はじっとしていると異世界に来た不安に押し潰されそうだったから、働くことで余計な考えを頭から追い出そうとしていたのかもしれないが、今は……。

 と考えてみると、アキラは苦笑を禁じ得なくなる。

 確かに、週休2日制とは縁遠い世界であるが、明かり事情により残業はない。

 もっとも、アキラとその仲間が自主的に(喜々として)夜更けまで作業に没頭するということはあるが。


「もう少しだけ、休暇を楽しんでください、アキラさん」

「そうだな……」

 幌の先に広がる冬の青空を見上げながら、アキラはぼんやりと答えた。

 不意にミチアは、そんなアキラがどこかに行ってしまいそうで、思わず手を握ったのだった。


*   *   *


 特に問題もなく午後2時、軽馬車はゴルド村に到着した。

「ここが俺の家でがんす」

 ゴドノフはそう言って、ドアを開けた。

「おっあ、帰ったで」

「おんや、ゴドノフ、今日はどうした? 屋敷を首になったかや」

「やめてくれってば。今日はアキラの旦那をお連れしたんだからよ」

「なんと!? おめぇ、そったらことなら早く言え。外は寒かろ、入ってもらえ」

「おうよ。……旦那、奥様、どんぞ」

 などというやり取りのあと、アキラとミチアを招き入れるゴドノフ。

(お、奥様……)

 と頬を染めるミチア。そこにアキラが、

「おいおい、『まだ』奥様じゃないよ」

 と言ったものだから、

(ま……『まだ』? まだ、ということは、つまり……)

 と、1人もじもじするミチアを、

「ほら、ドアを開けっ放しじゃ中が寒いだろうから」

 と、その手を掴んで中へ引っ張り込んだアキラであった。


「ああ、暖かい」

 毛布を纏っていても、やはり外は寒く、家の中の暖かさはほっとさせてくれる。

 そして勧められた椅子がありがたい。馬車に乗り続けて、いい加減尻が痛くなっていたから。


「なんにもないでがんすが」

 と言いながらゴドノフの母親はアキラとミチアに、お湯で薄めた蜂蜜を勧めてきた。

「甘くて美味しいですね」

 一口飲んだアキラは感想を述べる。

 そしておそらくこれは日常の飲み物じゃなく、大事なお客にしか出さないものではないかと想像したのである。

(何も手土産持ってこなかったな……)

 と、後悔したアキラであった。


「それでおっあ、アキラの旦那は、アザロフに会いてえんだと」

「ほう、そうか。今日は家にいるはずだ。呼んでうか?」

「いや、仕事場も見てもらいたいから、これから案内して行ってくる」

「そうかね」


 と、まあ、そういうわけで、蜂蜜湯を飲み終えたアキラとミチアはゴドノフの案内で、その従兄のアザロフの家へと向かうのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月28日(土)10:00の予定です。


 20190921 修正

(誤)と、公開したアキラであった。

(正)と、後悔したアキラであった。

 orz

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