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異世界シルクロード(Silk Lord)  作者: 秋ぎつね
第4章 発展篇
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第十九話 保存方法の検討

 昼食はアキラたちチーム全員、つまりアキラ、ミチア、ハルトヴィヒ、リーゼロッテ、そしてミューリの5人で摂ることになった。

「ふむ、つまりアキラは、一般に食べられていない植物を美味く食べる方法はないか、というのか」

 麦粥を口に運びながらハルトヴィヒが言った。

「ああ、そうなんだ。……俺のいた国では、飢饉の時にはカボチャの葉や芋の蔓まで食べたらしい」

「そ、それは悲惨ね」

 子爵家令嬢として育ったリーゼロッテには想像もできなかったらしい。


「でだ、植物が一般に食用に適さないのは、『セルロース』という物質を、人間は消化できないからなんだよな」

 『携通』から得た知識だけど、とアキラは付け加えた。

「つまりセルロースを取り除けば、食べられるようになるんじゃないか、というわけね?」

 リーゼロッテが勢い込んで言う。

「そういうことだ。……もっとも、毒草は駄目だけどな」

「それはそうね」


「それ以外で、まず考えているのはドングリ類だ」

 殻を剥くのと、アクを抜くのが大変なのだが、逆に言えばそこをどうにかできれば……というわけである。

「なるほど、僕は殻剥き器を作ればいいんだな」

「私はアク抜きの方法ね」

 ハルトヴィヒとリーゼロッテはアキラの要望を正しく理解してくれた。


「そういうことさ。……それともう一つ」

 アキラは食糧の貯蔵について考えを述べた。

「確かに、余剰分を貯蔵できればいいわけか」

「その場合、小麦でしたら小麦粉にしておいた方が場所を取りませんね」

 ミチアもアイデアを述べる。

「確かに、場所を取らないと言うことは大事だな。……そうだ、この世界で『飢饉』って、過去に何回くらい、どのくらいの期間……起きたんだろう?」

 真っ先に答えたのはミチア。

「ええと、私が知る限りでは40年ほど前に、干ばつにより南部の地方で飢饉になったと聞いたことがあります」

 次に答えたのはハルトヴィヒ。

「ゲルマンス帝国では30年くらい前に、小規模だが冷害に見舞われたな。が、翌年は豊作だったのでなんとかなったようだ」

 それにリーゼロッテが補足する。

「酷かったのは120年ほど前の大飢饉らしいわ。食料を求めてガーリア王国やイガリアス王国と戦争したらしいから」

 最後はミューリ。

「ここ20年くらいはまずまずの作柄らしいですが、小規模な不作は何年かに一度起きているようですね」

 一応、収穫量が3割以上減ったときを『不作』と定義しているらしい。

「なるほどなあ……そうした不作対策のためにも、何か手を打ちたいな」


 アキラは手元にある、ミチアが書き取ってくれた『携通』資料を眺めた。

 救荒作物が列記されている中、アキラの目を惹いたものがある。

「ユリ……か。……ミューリ、ユリの根って食べるのかな?」

「は? ユリ?」

 残念ながら『ユリ』はミューリに通じなかった。

「これだよ」

 そこでアキラは『携通』にユリの花を表示させ、ミューリに見せた。

「あ、ああ、リリウムですね。はい、食べられます」

「だったらさ、ユリ……じゃなくてリリウムを栽培して、普段は花を愛でるなり売るなりしてさ、不作のときには根を食べる、というのはどうだろう?」

「それはいいかもしれませんね。ですが、大量に栽培しないと食料には……」

 2食や3食を賄えても、1ヵ月2ヵ月は無理だろうという。

「そりゃそうか。でも、その場しのぎにはなるぞ。何よりデメリットがほとんどない」

「それはそうですね」

 ただの草地や、休耕地などをリリウム畑にすればいい、とアキラ。


「それから、ヒマワリだ」

「ああ、種から油が採れるわね」

 すかさず リーゼロッテが反応した。

「それだけではなくてさ、煎って食べられるし」

「そうなの?」

「ええ、美味しいですよ」

 答えたのはミチア。

「塩味を付けて煎ると、美味しいです」

 そのあたりは地球と同じだな、とアキラは思った。


「あとは……クルミかな」

 これに反応したのはハルトヴィヒ。

「クルミか。木に付けて磨くといい艶が出るんだよな。木材もなかなか使い道が多いぞ」


 ライフルの銃床に使われる木材はクルミ(ウォールナット)である。

 粘りがあって緻密なので使われているという。


「クルミの木も植栽すれば、材木は売れるし、実も食べられるぞ」

 ハルトヴィヒが言い、アキラも頷いた。

「それもいいな!」

 一朝一夕にはできないが、あらかじめ準備しておくことで、『こんなこともあろうかと』と言える日が来るのである。


*   *   *


 救荒作物として、インゲンマメ、ユリ、ヒマワリの栽培、そしてクルミの植栽。

 主産業にはならないかもしれないが、副業としては十分成り立つ。

 そしていざという時には食料にすることができるわけだ。

 周囲の村で栽培を奨励する価値はあると言えた。


 そして、穀物の長期保存方法の確立。


 これらが、アキラたち『チーム』の今後の目標の一つである。

 もちろん、一番の仕事は『養蚕』に他ならない。


「長期保存については、冷却、乾燥の他に、『脱酸素』を試してみたいんだ」

 アキラからの提案。

「酸素……ええと、物が燃えたり、生物が呼吸したりするのに使う元素だったっけ?」

 ハルトヴィヒが考え考え言った。

「そのとおり。だから酸素がなければカビも生えないし、微生物も増えないから腐りにくいはずなんだ」

 それと冷蔵を組み合わせれば変質もしにくいだろうとアキラは言った。

「なるほど。だけど問題は、どうやって酸素を抜くか、だな」

「そうなんだ」

 ここでまたしても『携通』の出番である。

「窒素や二酸化炭素を充填する手もあるな」

 あとは気圧を半分くらいまで下げるという手もあった。

「脱酸素剤……これ、作れるかしら?」

 魔法薬師まほうくすしでるリーゼロッテが興味深そうに言った。

 アキラは『携通』を調べてみると、簡単な情報が得られた。

「基本は鉄の粉と消臭用の活性炭の粉だから作れそうだな」

「わかった。やってみるわ」

 こうして、食糧事情改善に向けて、アキラたち『チーム』は動き出すのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は 6月22日(土)10:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 芋の弦は、ご馳走です。 煮物に最適な惣菜ですね。しかし、高知ならではな扱いもあるかも? 母が定番おかずとして、芋の弦を田舎から取り寄せてますが、近所の畑では廃棄してる印象ですね…。 蕗…
[一言] >「ああ、そうなんだ。……俺のいた国では、飢饉の時にはカボチャの葉や芋の蔓まで食べたらしい」 >「そ、それは悲惨ね」 >子爵家令嬢として育ったリーゼロッテには想像もできなかったらしい。 藁餅…
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