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「"我が猟犬は敵を追い立てる"」

●「"我が猟犬は敵を追い立てる"」


 次の日の朝。

 夜明け特有の冷たい空気に支配されたジェムレイス王国。その中央、ジェムレイス城のさらにその上。

 この国全てを見渡せる空中に、俺はいる。


「"我が足は虚空を歩む"」


 空中歩行の呪文でやってきたここ(・・)からは、朝焼けに照らされるジェムレイス王国の全てがよく見える。

 しんとした空気の中、何も動くことの無い街並み。とても静かだ。


『さて、これから王国全土の石化呪いの解呪儀式の準備に入るとしよう。ちと時間が掛かるから待っておいてくれ。

 ――警戒は怠るでないぞ?』


 二頭身状態になって顔の横に浮かぶ猫耳幼女、キャスパーはそう言って何やら準備を始める。

 手の動きや視線の動き、ちょっとした言葉に反応して魔法陣が展開、グルグルと俺の周りを回り始める。


「黒騎士は来るかな」


ここ(・・)ならば分かるじゃろ。ジェムレイス王国のどこにいてもここ(・・)なら気づく』


 王国全土が見渡せるということは、王国全土から見つけることが出来るということだ。

 そんな所で大っぴらに石化呪いの解呪をしようとしているのだ。妨害は必ず来るだろう。


『むしろ来ない方が問題じゃな。ジェムレイス王国を諦めて別の国に行くなんてことになったら面倒じゃ』


「おい、そうなったら困るぞ」


『まぁそれはあるまい。どうもこの石化の呪い、この土地にある魔力を利用するタイプの術式のようじゃ。

 別天地で再び用意するとなるとかなり時間が掛かる。

 ――これはこれでどうも妙な感じなのじゃがな』


 ごちゃごちゃと準備をしながら、キャスパーが訝しげに眉をひそめる。


「妙?」


『この呪い、すぐに展開出来るような術式ではない。それこそ月単位で国全体に手を加える必要があるような術式じゃ。

 黒騎士が突如襲撃して展開したにしては、手が込みすぎておる……』


「? それはどういう――」


「! 勇者殿、後ろじゃ!!」


 疑問の声を断ち切るように、キャスパーの声が響く。

 その声に導かれるように、後ろに向けて魔法を放つ。


「"我が光壁は眼前に立つ"!!」


 眼前に光で出来た防壁が発生する。

 瞬間という時間を持って生まれた壁に、ギンという音を立てて黒い槍が突き立つ。


「来たか……!」


 防壁の向こうに、黒い瘴気を撒き散らして空中を疾走する影が見える。

 影――黒騎士は瘴気から黒いヒトガタ――シャドウを生み出し、疾走の勢いのままこちらへと突撃させてくる。


「問答無用かよ……!

 "我が光刃は闇を裂く"!!」


 突っ込んでくるシャドウを光刃で両断、返す刃で黒騎士を狙う。

 黒騎士は大きくカーブを描くように曲がり回避。その勢いのまま疾走し、俺の背後へと回る。

 俺はそれを視線で追いながら、別の魔術を準備(イメージ)


「"我が舞台に踊るは鬼火の群れ"!!」


 呪文発声。魔法起動。視界の中に無数の光球が生まれ、それぞれ複雑な機動を描きながら黒騎士へと向かっていく。

 黒騎士は無数の光球の攻撃に対し、瘴気を自身に纏うように膜状に展開。無数の点の攻撃に対して面で防御する。

 光球が命中。炸裂し、光が爆発する。瘴気の膜はそれに引き剥がされるように霧散していく。しかし、光の向こうでは黒騎士の姿は健在だ。光球は全て防がれたらしい。

 だが、それはこちらの作戦通りだ。

 光球の炸裂で視界を防ぎ、防御を引き剥がした。今なら攻撃が通る!


「"我が猟犬は敵を追い立てる"!!」


 黒騎士に向けた右手から、黒い猟犬が現れる。弾丸のように虚空をひた走り、黒騎士へと真っ直ぐに向かっていく。


「!?」


 無防備な黒騎士が気づいた時には、猟犬は既に眼前だ。猟犬は突撃の勢いのまま大口を開け、その首元に牙を突き立てる。


「くっ! ……がァ……ッ!!」


 黒騎士は苦痛の声を上げ、猟犬を振り払おうとする。しかし深く牙を突き立てた猟犬は易々と話されることは無い。


猟犬(そいつ)の牙からはそうは逃げられねぇよ……!」


 追撃の魔法を放とうとする。しかし、それを遮るようにキャスパーが声を上げた。


『いかん! 勇者殿、防御を!!』


「!? "我が光壁は眼前に立つ"――」


 キャスパーの判断に従い防壁を張る。と、その向こうで黒騎士が急にうずくまる。まき散らしていた瘴気も黒騎士へとまとまっていく。

 まとまってまとまって、まるで風船が膨らむように瘴気が圧を増していき――


 轟、と瘴気が炸裂した。


「自爆……!?」


『そのようじゃな……』


 爆風と共に瘴気が霧散し、辺りに散っていく。

 戦闘の余波と、最後の自爆がトドメとなったのか、キャスパーが準備していた石化の解呪魔法の準備魔法陣もまた霧散していく。


『目的は達成したから逃亡した、というわけじゃな』


 黒騎士の姿は既に消えている。だが――


「逃がしはしない……!」


 黒騎士へと放った猟犬の、深く食い込んだ牙。

 それこそがこの(・・・・・・・)戦闘(・・)における(・・・・)最大(・・)()目的(・・)

 食い込んだ牙は例え黒騎士の存在に深く食い込み、探知機の役割を果たす。

 つまり――


「牙を追跡すれば、黒騎士の居場所が分かる……!」


『次が最後の決戦じゃな。気合を入れよ、勇者殿!!』


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