「――うまい」
●「――うまい」
「このようなモノしか用意できず、申し訳ありません」
「いえ、ありがとうございます」
ここはジェムレイス王国王城のとある広間。
長い食卓の一方にはラピスラズリ王女。
もう一方には俺と等身大になったキャスパーの二人が座っている。
「肉の腸詰を焼いたのと、簡単なサラダ。後はパンにマッシュポテトじゃな。中々美味そうではないか」
この使い魔もモノを食べるらしい。猫耳を揺らしながらよだれを垂らさんばかりの表情で用意された料理を見つめている。
「料理長も石化の呪いを受けておりまして……このような簡単なモノしか。勇者様には申し訳ありませんが」
「いえいえ、わざわざ用意してもらっただけでもありがたいです」
そう言いながら、フォークを取る。
腹が減っては戦が出来ぬ――というのはこの世界でも変わらないらしい。
『汝よ。神の加護を受けているとは言えそれはそれ。腹が減ったら動けぬしそのままにすれば死ぬからの?
飯はちゃんと食べて夜はちゃんと寝るのじゃぞ?』
そんな忠告をキャスパーから受けていた。
ふと窓の外、ジェムレイス王国の城下町の風景を見る。
ゲームや小説の中に出てきそうな中世的な街並みが、ジェムレイス王城の周りに広がっている。
ジェムレイス王国は鉱山のふもとにある小国らしい。
鉱山と、王城と、その城下町。これがジェムレイス王国の全てだ。
鉱山からは質の良い宝石が取れ、それを元手に城下町は賑わっていたらしい。
そう、らしいだ。
ラピスラズリ王女からそう話は聞いたが、実際に見えるのは人通りも少ない、寂れた城下町のソレだ。
それも当然。
国民全てが石化の呪いを受け、現在進行形で石となりつつあるのだ。
日常を過ごすなんて、無理だ。
「私が負けなければ、こんなことにはならなかったんですが……」
ラピスラズリ王女が、右手のみを動かしながら不便そうに水を飲む。
彼女もまた石化の呪いを受けた人間だ。
"宝石姫のラピスラズリ"。
魔力を持つ宝石を武器に戦う勇者であり、この国を守っていたらしい。
しかし先日、あのシャドウロード黒騎士との戦いに敗れてしまった。
何とか事態を収束させようとしていた所に、俺が来るという連絡を受けたらしい。
『この世界には神の言葉を託宣として受け、伝える予言者が何人かおってな。
汝が来るのも分かっておったわけじゃ』
とはキャスパーの弁。神様が本当にいて、その言葉を伝える人がいるなんて、元の世界では考えられないことだ。
「――うまい」
いろいろ考えながら口に入れたソーセージに、思わずそんな言葉が出た。
異世界で、何もかもが違う世界なのに、食事のおいしさは変わらない。
そんなことに何故だかほっとしたような感覚を覚える。
「それは良かったです」
ラピスラズリ王女がテーブルの向こうで微笑んでいる。
顔が赤くなるのを感じながら、それをごまかすように、俺は料理を口の中に詰め込むことにした。




