「“我が光刃は闇を裂く”」
●「“我が光刃は闇を裂く”」
『――随分派手な登場だのう!』
「誰だお前」
助けを求める声が聞こえた――と思ったら、気づいたらこんなことになっていた。
眼前に真っ黒な鎧兜に身を固めた騎士っぽいの。
背後には助けを求めた少年。
周りには遠巻きにこちらを見ている雑多な人々。
そして――自分の顔の横に、手のひらに乗るサイズの二頭身猫耳幼女がいた。
――猫耳幼女?
『我はキャスパー。この世界クロスワールに不慣れな汝のために神が遣わした使い魔よ。汝のサポート役じゃな』
それはまた随分と親切な。太っ腹な神様もいたものである。
『さて――レイよ。まず状況説明じゃが――目の前のアレが敵じゃ』
キャスパーが目の前の黒騎士を睨みながら、そう断言する。
『あの黒い瘴気を撒き散らすモノこそシャドウ。人類の敵じゃ』
「シャドウ……」
敵。倒すべきモノ。そう認識し、自分もまた黒騎士を見やる。
「勇者。まさか本当に来るとはな……いいだろう。まずはその実力を確かめてやろう!」
黒騎士が叫ぶ。瞬間、黒騎士から黒い瘴気が吹き出し――それらが黒いヒトガタとなって眼前に立ち並ぶ。数は――十体以上!
『シャドウには位がある。今生み出されたのは一番下のただのシャドウ。対してあの黒騎士のように、シャドウを率いるシャドウをシャドウロードと呼ぶ』
キャスパーの解説を聞き流しながら、俺は黒いヒトガタ達――シャドウの軍勢を見やる。
彼らはゆっくりと、だがこちらを包囲するかのように近づいてくる。
背後には少年。逃げ道は無い。
「おいキャスパー! 敵のことはいいから戦い方を教えてくれ!」
『せっかちじゃなー。ただのシャドウ程度、そう焦ることも無いと言うに』
「いいから!」
『しょうがないのう。良いか? お主には千の魔法という神の加護が与えられておる。ざっくり言うと千の魔法が使えるようになっておるわけじゃ』
魔法。それも千も。それは凄そうだが。
「それはどうやって使うんだ!?」
『本来、魔法というのは使用するのに色々とややこしい手順が必要となる。術式の構築、魔力の準備、エトセトラエトセトラ……』
ジリジリとシャドウ達が包囲を狭めてくる。黒いヒトガタはこちらに手を伸ばし、今にも掴みかかって来そうだ。
「おい――ッ!」
『まぁその辺のややこしい手順はサポート役たる我が引き受ける。汝がするのは使いたい魔法を決めて、気合を入れて呪文を叫ぶ、これだけじゃ』
今の状況ならこの魔法かのう? キャスパーがそういうと、脳内にとあるイメージと呪文が浮かぶ。
これが魔法? 半信半疑ながらも、気合を入れて俺は右手を前に出し叫んだ。
「“我が光刃は闇を裂く”!!」
言葉と共に、右手から光が刃となって放たれ、シャドウを貫いた。
右手を薙ぐように左右に振ると、光刃が後を追い、全てのシャドウを斬り裂いた。
『初めてにしては上出来じゃな』
「ほう。さすがは勇者、ただのシャドウごとき物の数ではないということか」
「そりゃどうも。次はお前だ! “我が光刃は闇を裂く”!!」
再度魔法発動。右手から放たれた光刃が黒騎士を襲う。
黒騎士は迎え撃つように、瘴気を纏った左手で光刃を受け止める。
光爆。
光と空気が炸裂する。
「やったか!?」
『それはフラグじゃぞ』
破裂した光と空気の乱舞が治まる。そこに立つのは――
「くくく……なかなか、やるではないか」
砕けた左腕を抑える黒騎士の姿だった。
奴はしかし、震えるように笑いながらこちらに告げる。
「面白い。面白いぞ勇者よ。この国が滅びるまで後三日。それまで楽しませてもらうとしよう! せいぜい足掻いてみせるがいい!!」
捨て台詞を置いて、黒騎士の姿が霞んでいく。
待て、と言葉にするよりも前に、黒騎士は姿を消した。
「くそ……逃したか」




