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「俺が勇者だ」

 ●「俺が勇者だ」


『ジェムレイス王国に勇者来る。そう託宣が下されました』


 その連絡が来たのは、ジェムレイス王国がシャドウの軍勢に襲われてから二日後のことだった。

 国民すべてが石化に怯える中、それはわずかな希望だった。

 それからさらに二日後。

 その希望をあざ笑うかのように再び黒騎士がシャドウを率いて現れた。


「ご機嫌ようジェムレイスの民草よ。大人しく石となって滅びれば良いモノを……下らない希望に縋り付いているようだな?」


 ジェムレイス王国の城下町広場。勇者の降臨を待ちわび、祈る人々で満ちたそこに、黒騎士は現れた。


「貴様たちに残された時間は、今日を入れて後三日。例え勇者が来ても貴様らの滅びは確定しているのだぞ?」


 黒騎士が兜の下であざ笑う。


「この国の勇者"宝石姫(ほうせき)のラピスラズリ"は既に我に敗北した。例え新たな勇者が来ようと我に勝てるはずもない。

 貴様らの運命は変わらない。石となって滅びる定めなのだ」


「そんなこと、無い!」


 それは小さな、しかし確かな声だった。

 黒騎士に怯え、広場の誰もが黙ってうずくまる中、一人の少年が立ち上がり、声を上げた。


「勇者様は来るんだ! そして――」


 少年の声は震えている。

 粗末な服装から見える右手は既に石化している。右足も動かないのか引きずるようにーーしかし立ち向かうように、黒騎士に向かって一歩踏みしめ、叫ぶ。


「お前なんかやっつけてくれる!!」


「哀れ」


 一人叫ぶ少年の前に黒騎士が立ち、その首元をひねり上げる。


「救いは無い。希望は無い。お前にあるのは石くれになって死ぬ未来だけだ」


「あ――あ、あああッ!」


 黒騎士からドス黒い瘴気が放たれる。

 瘴気は瞬く間に少年を包み込み、その身体を蝕んでいく。

 少年の左手が、左足が、全身が石となっていく。


「勇者、様――」


 もはや生身は顔だけとなった少年が呆然と呟く。涙に濡れた瞳が虚空を見る。

 救いは無いのか。希望は無いのか。石となって死ぬしか無いのか。


『待て――ッ!!!』


 ――否。

 救いはある。希望はある。

 今この瞬間、勇者(すくい)は現れた。


「これは……!?」


 天より光が舞い降りる。光は落雷の速度で黒騎士に落ち、その身体を吹き飛ばした。

 光はそのまま少年の眼前に浮かび、一つの形を為す。

 白い長衣(ローブ)に見を包んだ、黒髪の青年。

 彼は少年を護るように前に立ちながら、宣言した。


「もう大丈夫だ。俺はレイ。イチジョウ・レイ――俺が勇者だ!」

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