「貴方の手を、貸していただけないでしょうか」
主人公登場。
●「貴方の手を、貸していただけないでしょうか」
昨日と同じ今日。今日と同じ明日。
細かな違いはあれど、日々はほとんど変わることなく過ぎていく。
その瞬間が来るまで、大多数の人間がそうであるように――俺はなんとなく、そう考えていた。
俺――一条レイはごく普通の高校生だ。
ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の少年時代を過ごし、ごく普通の高校生活を送り――そして、ごく普通の大人になっていくのだろうと、そう思っていた。
だが――
『――助けてください』
「何だ――?」
放課後の委員会活動終え、いつものようにと歩いていた帰り道。
その途中で、突然それは始まった。
何かが聞こえたと思ったら、突然目の前が光でいっぱいになる。
視界は白い光に塗りつぶされ、聞こえるものは謎の声だけになり、いつしか足元の感覚さえなくなっている。
『一条レイ……貴方が必要なのです……』
「何だ……誰なんだ一体!」
『私はこの世界とは別の世界"クロスワール"の神ジェネシス。貴方の魂に語り掛けています』
クロスワール? ジェネシス?
聞き覚えの無い言葉だ。そもそも神?
疑問符ばかり浮かぶが、紙を名乗る声はそれを無視するように話を進めていく。
『私の世界"クロスワール"は今、危機の最中のあります。シャドウという魔物によって侵略されているのです。
一条レイ、貴方には勇者として我が世界に来ていただき――シャドウと戦い、世界を救って欲しいのです』
「世界を救えって……ただの高校生に何言ってんだ!?」
『ただの高校生ではありません。貴方には素質がある。勇者として、世界を救うに足る素質が』
「そう言われても、俺には魔物?なんかと戦うような力は無いぜ?」
『力は私が与えます。大切なのは貴方の素質。貴方の心。貴方の魂なのです。貴方が貴方であること、それこそ私の世界に必要なことなのです』
よく分からない。自分の心、自分の魂、自分が自分であること。そんなことに、世界に必要とされるような要素があるのだろうか?
ただ――
『お願いです。私の世界のために――貴方の手を、貸していただけないでしょうか』
この異世界の神様とやらが、必死であること。とても困っていること。それだけは分かった。
それだけ分かれば、充分だ。
「分かった」
短く、言い切る。
助けを求められた。なら、それに応える。
それが一条レイの、17年間生きてきて培ったモノだった。
『――ありがとうございます』
神の感謝の声が聞こえ、同時に光が溢れて――
――一条レイ>存在情報変換:〇〇 > クロスワール:変換中……
――一条レイ>神の加護付与:千の魔法:付与中……完了。
――一条レイ>クロスワール一般情報付与:付与中……完了。
――一条レイ>魔法戦闘技能付与:付与中……完了。
――一条レイ>補助精霊<キャスパー>付与:付与中……完了。
――一条レイ >存在情報変換:〇〇 > クロスワール:完了。
『ようこそ、クロスワールへ――』




