「これからもよろしくお願いしますね?」
「勇者様! これ食っていってくれよ!」
「勇者様! これも!!」
全てが終わって。
すっかり平和が戻り、喧騒が戻った街の通りを、俺はラピスラズリ王女と共に歩いていた。
周りの人からひっきりなしにあれやこれやと勧められるのに、王女はふふ、と軽い笑みを浮かべる。
「相変わらずですね、勇者様。さすがこの国を救ってくれたヒーローです」
「うむ! 美味い! 店主! これをおかわりじゃ!」
王女が明るい笑顔を浮かべる横で、人間大となったキャスパーが俺に勧められたモノを片っ端から食べている。
むっちゃむっちゃと肉串なんかを頬張る姿は、愛嬌があると言えなくもない。
「王女様も、一つ如何ですか?」
そんなことを言いながら、肉串を一つ王女に差し出す。
飴色のタレに漬けこまれた良い焼き色の肉串を前に、王女は少し考えてから、
「じゃあ、頂きます」
と言って少しずつ食べ始めた。
●●●
結局今回の事件は「謎のシャドウロードが襲来、石化の呪いを国中にかけた。そのシャドウロードを勇者レイが倒した」ということで治まりがついた。
シャドウロードの正体が王女自身であったことは、俺とキャスパー、そして王女自身しか知らない。
わざわざ明かすことも無いだろう、と俺が言ったのだ。
『ですが、私は――許されないことをしました』
『シャドウコアに誘惑されて、でしょう? なら、いいじゃないですか。それでも貴女が自分自身を許せないというのなら――自分で、償っていくしかない。そう思いますよ』
●●●
「あー食った食った! 我は満足じゃ~」
町の広場のベンチにて、キャスパー、俺、王女の順に座る。
腹が満ちて満足したのか、キャスパーは猫耳を揺らして船をこいでいる。
「勇者様は、これからどうなされるんですか?」
ふと、王女がそんなことを言ってきた。
「シャドウは去りました。なら、勇者様がここに留まる理由は――」
「ずっといますよ、ラピスラズリ王女。貴女を護るって、約束しましたからね」
「なら――勇者様。"王女様"は禁止です」
王女様は、少しいたずらっぽく微笑みながら言った。
「一緒にいるのに、そんな他人行儀な呼び方、嫌です」
「えーと、じゃあ――ラピス、様?」
「様はいりませんよ、勇者様」
そう言われては何も言えない。
「じゃあ――ラピス。こちらからも一つお願いがある」
「何でしょう?」
「同じことさ。"勇者様"は禁止だ」
まぁ、と口を開けたラピスは、分かりましたと言って、
「では――レイ君。これからもよろしくお願いしますね?」
と、花咲くような笑顔で告げた。
まるで、今日の青空のように、底抜けに明るい笑顔で――
●●●
「シャドウ・バジリスクは消滅したか。まぁいい――我が手駒は一つでは無い。
全ては"邪影神"様のために――」




