「貴女が世界を守るために戦うのなら」
「自暴自棄の突撃ですか? 無駄です――潰されなさい! "双影翼竜"!!」
「"我が舞台に踊るは鬼火の群れ"!!」
空中を疾走する俺に対し、王女は二体の影翼竜をぶつけてくる。
牙をむき出しにして襲い来る影翼竜に対し、俺は無数の光球の乱舞を叩きつける。
「くっ――その程度の攻撃では、影翼竜は倒せませんよ!?」
影翼竜に命中し、炸裂する光の乱舞に目を細めながら、王女が断言する。
その言葉通り、影翼竜本体はさほど傷つくことなく突撃し続ける。
それでいい。
光球の目的は目くらまし。本命は――
「"我が光輪は敵を阻む"!!」
「何!?」
王女の背後に回った俺が、魔法を放つ。
驚愕の表情を浮かべる王女を、無数の光の輪が縛り上げ、拘束する。
これこそが狙い!
「王女様!」
彼女にぶつかる勢い迫り、叫ぶ。
「貴女は勇者だったんでしょう!? この国を守るために、一生懸命戦っていた! その貴女が、こんなこと望んでいるハズが無い!!」
「な、何を――!?」
「勇者と呼ばれ、国民にも慕われていたんです! 貴女が"良い勇者"だったなんて、分かりますよ!!」
細かい説得の方法なんて思いつかない。ただ、思うことを叩きつけていく。
「貴女は、シャドウとの戦いに疲れただけです。ただそれだけなんです! "あっち"の世界に行くとか、国民を石にするとか――そんなこと、考えてもいなかったはずだ!」
「そんなことありません! 私は、貴方の世界に行って……!」
「なら何で! 人々を石にするのに一週間なんて時間をかけたんですか!」
「それは、シャドウとして人々の恐怖を煽るために……」
「それだけじゃない。貴女は迷っていたんだ。本当にこれで良いのかって。だから俺が来た時――こう言ったんでしょう? 『きっとこの国は救われます』って!」
「それ、は――」
「昨日の夜『この国を、必ず救ってください』と言ったのも、自分を止めて欲しかったからでしょう!? それが本心でしょう!?」
矢継ぎ早に突き立てる言葉。その言葉に、王女は言葉を失い、口を噤んでしまう。
言いたいことは言った。後は、彼女の心に賭けるしかない。
「私、は――」
虚ろな表情で、王女が口を開く。
「疲れたのは本当です。本当に疲れてしまったんです。シャドウとの戦いは終わらない。いつ死ぬかも分からない。怖くても、逃げることなんて出来ない……」
ポロポロと涙を流しながら、王女が叫ぶ。
「私はどうすれば良かったんですか? どうすれば、救われたんですか……!?」
俺は、静かに彼女を抱きしめた。
「疲れたのなら、休めばいいんです。弱音なら俺が聞きます。休んでいる間は、俺が代わりに戦います」
「勇者、様――」
「貴女が世界を守るために戦うのなら。俺が貴女を護ります」
ビシリ、と空間そのものが歪むような音が鳴った。
「あ、ああ、ああああああ!!」
「王女様!?」
突然苦悶の声を上げる王女。その彼女の胸元から、ズルリと黒い珠が抜け出てくる。
『今更何のつもりだ、"宝石姫"のラピスラズリ! 今更辞める等……何という恥知らずか!』
ノイズ交じりの声が、黒い珠――シャドウコアから響いてくる。
『よくもやってくれたな、新たな勇者よ。まぁいい――規定量に達していないが、それなりのチカラは集まった。かくなるうえは、我が直接集めるとしよう……!!』
「!? 王女様!」
シャドウコアを中心に瘴気が渦を巻いて集まっていく。
危険を感じ、俺は王女を抱き、距離を取る。
『巨影獣変!!!』
シャドウコアの叫びと共に、それが出現する。
城を見下ろすほどに巨大な体躯。影が固まったかのような真っ黒な鱗に包まれた魔物。
『我が名はシャドウ・バジリスク!! さぁ――蹂躙してやろう!!』
抑えきれぬ喜悦を含んだ声で――魔獣が叫んだ。




