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「賭けるさ」


「"影兵突撃(シャドウ・ファランクス)"!!」


「"我が光壁は眼前に立つ"!!」


 黒騎士となった王女が剣を振りかざすと同時、瘴気があふれ出し、シャドウとなって突撃してくる。

 影の群れを光壁で防ぐが、突撃は終わらない。

 王女の哄笑が響く。


「ハハハハハハハハ! どうしました勇者様!? 防ぐばかりでは何も出来ませんよ!?」


 ドドド、と防壁の向こうでシャドウ達の突撃音が響く。

 一体が防壁に阻まれても、その後ろのシャドウがさらに勢いをつけ、前のシャドウごと突撃してくる。

 そのシャドウが阻まれても、その後ろのシャドウが――

 無限の兵力。終わらない攻撃。王女の言った、勇者の置かれた詰んだ状況がそのまま再現されている。


「くそ――"我が足は虚空を歩む"!!」


 光壁を展開したまま、空中歩行の魔法を発動。シャドウ達の波を乗り越えるように、部屋の窓へと疾走する。


「南無三!」


 バシャリ、と大量の水が漏れ出るような音を立てながら、ガラス窓を突き破る。

 そのまま空中疾走を続け、距離を取る。


「逃がしません! "影蝙蝠(シャドウ・バット)"!!」


「"我が舞台に踊るは鬼火の群れ"!!」


 窓から溢れ出る蝙蝠型シャドウの群れを、無数の光球で迎撃する。


『汝よ。何を躊躇っておる?』


 迎撃に必死な俺に、顔の横の二頭身のキャスパーが問い質してくる。


『王女はシャドウロード、敵じゃ。倒さねばこちらがやられるぞ?』


「だけど、彼女は……!!」


 思い浮かぶのは彼女の笑顔。

 城に温かく迎え入れてくれた。美味しい食事を用意してくれた。俺のいた世界に興味津々で眩しそうに幻視していた。――国のことを、とても案じていた。

 その全てが演技だったのかもしれない。それでも――


「小物では相手になりませんか。ならこれならどうです?」


 窓の外に出た王女が手を掲げ、その先に瘴気が集まっていく。集まった瘴気は巨大な塊となり、やがて大きな翼を持つ竜の姿を取った。


「行きなさい! "影翼竜(シャドウ・ワイバーン)"!!」


「くっ……"我が光刃は闇を裂く"!!」


 突撃してくる影翼竜(シャドウ・ワイバーン)に対し、手から伸ばした光刃を叩きつける。

 だが、その巨大な体躯には食い込むだけで、両断には至らない。

 竜はその巨躯に刃を突き刺したまま、こちらへと突っ込んでくる――!


「しまっ――!? "我が体躯は鋼鉄の檻"――」


 巨大な影に押しつぶされるように、俺は地面へと激突した。


 ●●●


『おい、生きておるか!? 勇者殿!?』


「なんとかな……」


 地面に出来た巨大なクレーターの中心地で、俺はなんとか立ち上がる。

 激突の瞬間に唱えた身体硬化魔法が功を奏したようだ。

 周りを見れば、城兵の訓練場なのか、かなりの広さを持った広場になっている。

 見上げれば、王女がこちらにトドメを刺さんと、両手を掲げ瘴気を集めている。塊は二つ。先ほどの竜を今度を二体ぶつけようと言うのだろう。


「おいキャスパー、聞きたいことがある」


『なんじゃ? 緊急事態じゃから手短に頼む』


「――シャドウロード(・・・・・・・)()()()()()方法(・・)はあるか(・・・・)?」


『――何のつもりじゃ?』


「シャドウロードってのはシャドウコアって黒い珠のせいで"なる"モノなんだろう? ならそのシャドウコアを破壊すれば、元に戻るんじゃないか!?」


『無理じゃ』


 俺の言葉を断ち切るように、キャスパーが断言する。


『シャドウコアは宿主と一体化しておる。シャドウコアだけを破壊する等不可能じゃ』


「そんな……」


『既に物理的に一体化しておったし、王女の意識もシャドウコアの闇の意思に飲み込まれておるだろうし――いや待て』


 ふと思い立ったように、キャスパーが上空の王女を見やる。


『可能性が一つ、無くはないの』


「どういうことだ?」


『シャドウロードはシャドウコアに宿主が身も心も一体化されて生まれるモノじゃ。逆に言えば、どちらかが(・・・・・)()つになっていなければ(・・・・・・・・・・)分離(・・)できる(・・・)可能性(・・・)はある(・・・)


「コア自体は既に王女の身体と一体化していたぞ?」


『じゃから心じゃ。彼女の意思が、シャドウコアの闇の意志――人類を滅ぼすという意思と一つになっていなければ――あるいは。だがその可能性は低いぞ? 彼女自身、国民を滅ぼすと言っておったからな』


「だけど、可能性はあるんだな?」


 確かめる俺の言葉に、キャスパーは渋々といった様子で頷く。


『彼女の意思がシャドウコアの意志と違えば、拒絶反応が起こりシャドウコアは分離されるじゃろう』


「なら、俺が彼女を説得して、意志を変えさせれば――王女は元に戻るんだな?」


『可能性があるだけじゃ。それでも賭けるか?』


「賭けるさ」


 断言する。


「俺は世界を救いに来た。女の子一人救えないで何が勇者だ! "我が足は虚空を歩む"!!」


 叫び、俺は再び空中を疾走する。

 足取りは迷いなく、上空の王女へと一直線に向かう――。


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