「大人しく滅びを受け入れよ」
プロローグです。主人公未登場。
●プロローグ
ここはクロスワールと呼ばれる世界。
この世界は「シャドウ」という闇の軍勢の侵攻を受けていた。
●「大人しく滅びを受け入れよ」
「はぁぁぁッ!!」
裂帛の気合と共に、剣閃が走る。
刹那の間を置いて、少女の周りの黒い影が倒れていく。
ここはジェムレイスと呼ばれる王国の王城、その中心と言える王の広間である。
本来なら王が玉座に座り、家臣がそれに従う光景が広がっているはずの場所。
しかし、今は戦場だった。
黒い影――シャドウと呼ばれる魔物がひしめき合う中、二つの人影が相対している。
一人は少女。鎧を纏い、剣を振るっている。鎧にも剣にも、宝石が散りばめられており、全身が光り輝いている。
一人は正体不明の騎士。影がそのまま形を取ったかのような漆黒の鎧兜に身を包んでいる。
「――この国はもう終わりだ、宝石の勇者ラピスラズリ・ジェムレイスよ」
漆黒の騎士がノイズ交じりの声で語る。
「我が魔力は既にこの国を覆った。この国の民は一人残らず石となり滅びる。それが運命だ」
「そうはさせません!」
否定の言葉と共に、ラピスラズリと呼ばれた少女が斬りかかる。
振りかぶった剣に光が宿り、あふれ出す。漏れ出る光を浴びただけで周りのシャドウ達が消えていく。
しかし――
「無駄だ」
漆黒の騎士はそれを物ともせずに剣で受け止める。
騎士から黒いオーラが放たれ、少女の剣も、光も、少女自身も飲み込んでいく。
「くっ!? そんな、宝石の加護が……!?」
「貴様の力は我には通用しない。宝石の輝きなど、闇の中では消えるのみだ」
「そんな……ああっ」
ガシャリと音を立てて倒れ伏す少女。
その手に持つ剣も、身を包む鎧も、それに散りばめられた宝石も、全てただの石くれとなって砕け散る。
それどころか――
「私の、左手が――」
少女の左手。それが陶器のように、つるつるとした硬質なモノになっている。
「言ったはずだ。この国の民は一人残らず石となる。貴様も例外では無い。
今は左手だけだが、その石化は徐々に広がる。一週間も立てば貴様は石像になり果てるだろう」
黒騎士はそう言い放ち、少女に背を向ける。
「終わりだ。大人しく滅びを受け入れよ」
「待ちなさい……!」
少女の静止の声は、しかし届くことは無かった。
背を向けた黒騎士は陽炎のように消え、回りにいた彼の配下であるシャドウもまた消え去った。
後に残ったのはボロボロになった少女が一人。
これ以上ないほどに「敗北」だった。
「くっ……!」
少女は、動かない左手を――石となった左手を悔し気に睨みつける。
残された時間は後一週間。
一週間で――少女も、このジェムレイス王国も、滅びてしまうのだ。
希望は――無い。
――まだ。




