90話 苦労人は幸せ者
よろしくお願いします。
あっという間の一週間であった。というか、ほぼベッドで寛いでた記憶しかないのだが.....
あとはたまのクレプー作りと、帝王の散歩に付き合うくらいだ。1つ変わったことと言えば.....
「えー!フィルス様、もうお帰りになるのですか?!うう~.....もっと、一緒に居たかったです」
「すみません、《リリア》様。また、何処かでお会いしましょう」
「じゃあ!その時にクレプーの作り方を教えてくださいませ!」
「その時までにちゃんと、基礎的な物は作れるようになっておいてくださいね?」
リリア・ダジリア。国王の娘であり、12歳にして大人並みの頭脳を持つ天才だ。そんな天才さんは甘いものに目がなく、フィルスの作るクレプーが特にお気に入りなのだ。そんなこんなで作ってあげている内に仲良くなり、別れを惜しまれている。
「すっかり好かれちゃったねぇー。やっぱり、フィルスの社交力は凄まじいねぇ。青龍様の次は一国の王女かあ。是非ともご教授願いたいものだよねぇ」
「.....それは本音ですかね?」
「勿論、勿論ー。本音以外の何物でもないよぉ」
〈スゴいまったりした口調だから分からないんだよなぁ。ハーリスはさ〉
少し眠いのか目を擦りながらフィルスの社交力を褒める帝王だが、それが本音かどうかは誰にも分からない。
朝早くだというのに、国王やその家族、数々の衛兵やメイドも揃いに揃って見送りをしてくれた。
「では、達者でな。帝王も怠けておらず、国の復興に努めるのだぞ?」
「そんなの当然ですよぉ。国の為ですからねー」
〈ほ、ホントに説得力がないな.....まぁ、大丈夫なんだろうけどさ〉
帝王の言葉に呆れた眼差しを送るのはフィルスだけではないようだ。
しばらく他愛のない話で盛り上がっていると日が昇り始めた。
それは眩しく、王都に朝の始まりを伝える。
そんな朝日に目を細めていたが、そろそろ出発しようということになり、別れを惜しみながらも馬車へと乗り込んだ。
「フィルス様ー!また今度会ったときのこと忘れないでくださいねー!!」
「分かってますよ!また、何処かでお会いしましょう!!」
馬車は走りだし、遠ざかるリリアの叫び声にフィルスも答えて大きく手を振る。
ノンシーが少し膨れていたのは何故だろうか?
【なんかさー。最近は天界が慌ただしくて.....もう、大変なんだよねぇ】
「天界が?どうしてまた」
一週間の間、ほぼ天界へ赴いていたサティウスはかなりお疲れのようでフィルスの頭の上で寛いでいる。そんなサティウスが愚痴でも吐くように呟いた台詞にフィルスは首を傾げながらおうむ返しで問いかける。
【んー。そりゃあ、チキュウの神様がフィルスの様子をちょこちょこ見に来たり、最近はカースト様の脱出も頻繁になったからねぇ】
「.....」
〈か、カースト様!?なんでそんなに部下を困らせるような真似を?!〉
[いやー。ワシは暇じゃからなー.....神界も天界も飽きた!]
〈.....今は何を?〉
[溜まりに溜まった書類の山を処理しておるところよ]
〈何処が暇なんですか!!?サボってただけじゃないですかそれ!そ、それから、地球の創造神様も頻繁にいらしてるようですが.....〉
[そりゃあ、愛する我が子が心配なのじゃろう。その気持ちは分かるのじゃがな──あっ!喋ってたら書き間違えが.....]
〈.....お仕事お忙しいようなので、話しかけるの止めますね。ってか、話しかけてきたのはカースト様なのですが......〉
[まぁ、ワシも忙しいときは忙しいというのを知ってほしくてな。ではな。またクレプーでもご馳走になりに行くとするわい]
一方的な予定を教えてそこからの呼び掛けにカーストは答えなかったので、フィルスも諦めてため息を吐く。
「はぁ.....サティウスも大変だね」
【ははっ、フィルス程ではないさぁ】
互いの苦労を知ってため息を吐きながら労うフィルスとサティウス。そんな二人を微笑ましそうに見つめる帝王達を乗せた馬車は唐突に止まり、魔物と遭遇したことを知らされる。
「疲れは取れてないけど、やりますかー!」
【だねっ!】
「無理はダメだよ?私もいるんだからっ!」
【.....無理は......禁物】
戦闘体勢に入るフィルスと仲間達。
口角を少し上げるフィルスの合図で魔物の群れへと突っ込んでいった。
少しの疲労と、仲間の居る膨大な幸せを噛み締めながら──
ありがとうございました。
な、なな、なんと!?90話突破致しました(*≧∀≦*)
区切りの良い終わり方も出来ましたので、次回から急展開させていきます!お楽しみにっ!




