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71話 犠牲上で生きるは人間

 よろしくお願いします。

 〈.....遅い。直ぐにでも町を完成させたいのに城壁に2ヶ月以上かかる.....?ふざけるな!私はそんなに待てんぞ?!.....仕方あるまい。人手を増やすか.....〉


 サクリがそう思ったとき悪魔が再び降り立った....真っ黒な裸で目を赤く光らせサクリを誘惑した。


 『賊達を使うんだ。使い捨てで良いから何時間でも働かせられる....ここは帝国。力こそが物を言う。帝王に頼めばいくらでも貸してくれる.....一石二鳥だ。悪は減り町は完成に近づく.....』


 賊──村や町を襲い金品を奪う極悪非道な者達の事だ。時には魔物退治をしたりはするのだが、その存在は武力で治める帝王の邪魔でしかない。つまりそんな賊に何をしても許される.....捕まった賊は主に処刑。だが、たまに奴隷の首輪を付けられ貴族に飼われたり、土木作業に使われたりしている。そんな賊を殺めても罪には問われないがあまり気持ちのいいものでもないし、建築に賊を使うことは殆どない。人が住む建物に賊等を使えば、怨念や呪い等を信じるこの世界の者は寄り付かないのだ。それは町も同じ。

 だが、黙っていればどうという事はない。それに使うのは城壁だけ。支障はないだろう.....その時はそう思っていた。

 案の定、帝王に頭を下げると牢獄にいる賊を数十人使わせてくれる事となった。帝王からしてみれば処分しなくてはならない賊を譲ってくれと頼まれたのだ。願ってもいない話である。

 だが、狡猾なサクリは周辺の賊退治にと兵を数人借り、近くの賊も捕まえて城壁造りに加えさせた。


 〈まだ足りない.....これでは1ヶ月はかかってしまう。賊は休みを与えず働かせることにしよう.....〉


 すると賊達は案の定、次々と倒れ出し最後には一人も居なくなり賊は皆、帰らぬ者となった。

 別にそれを悲しんだ者など人っ子一人居なかった。それが当たり前だし、サクリだって悲しいというより作業員が減って残念だ、と対岸の火事だった。

 こうして数週間という早さで城壁を完成させ、町作りに取りかかった。建物は均等で鮮やかなものにし、山から水を引いて町にまで流して、草花を植え美しくしていった.....これにはかなり時間をかけたが、ゆっくりでも建物を建てていく度に人が増えることが嬉しかった。だが、町にとって迷惑なのは賊だけではなかった.....冒険者は町で朝から晩まで飲みまくり、暴言や暴力を町人に振るった。


 『そんな奴ら町に入れなきゃいい。追い出せ。それが──町長の責務だろ?』


 悪魔はまたサクリの耳元で囁いてきた。抗える気がしない──いや。抗おうとはせず、ただ悪魔の.....欲望の言うままに動いた。男性も女性も町の出入りを厳重にし、住みたいと言う者は過去の経歴までもを徹底的に調べさせた。やはりと言うべきか.....殆どの男性は過去に強盗、殺人未遂、殺人等の大罪や小規模な罪と幅広く犯しており、追放を余儀なくされた。するとどうしても女性ばかりが行き交う町へと変貌して男性2割女性8割程になってしまったのだ。


 〈大木.....あれも要らないな。木材にしてしまおう。〉


 近くにあった大木は樹齢100年は過ぎているのではないだろうか?美しく、そして大きい。

 だが、サクリにとっては建設の邪魔でしかなく、呆気なくその100年生きた大木の命は刈り取られた。大きな岩.....あれも邪魔だと取り除き破壊した。こうして数十年かけて町を完成させ、今もその道中。

 やはり歳のせいだろうか?今更になって賊を使い捨ての駒にしてしまったこと、貴族を騙し、資金を増やしたこと.....今ではどれもこれもが悔やみきれず、負い目を感じ、貴族で町長という身分でありながら建設の手伝いをしていた。

 端から見れば、凄い町長。人に頼らず自分でこなそうとする老人.....


 「違うんです.....全部が全部、私のためで、私のせいなのです.....!欲望に身を任せた自分が許せなくて.....周りが向ける尊敬の眼差しが痛くて....だから──「凄いですねっ!自分の行為を罪だと思えるなんて」っ!?」


 〈カースト様....何処が大罪ですか?ただ、人を騙したりこき使っただけじゃないですか〉


 [そうじゃが?ワシが言いたかったのはその者がどれだけ住み良い町を自分が作ったのか理解しておらぬ事がなかなかに罪深いと思ったまでじゃ。人は、犠牲の上で生きる存在。お主も分かっておるじゃろ?]


 〈.....はい。〉


 犠牲の上で生きる.....耳の痛い話だ。

 フィルスは犠牲の上で生きるために生きてきたのではない。犠牲となって世界を救うために生きてきたのだ。だが、キーリスや他の冒険者を救うことが出来なかった自分には痛いほど『犠牲』というものの重たさが分かる。

 だから、サクリの行ったことは強ち間違いとは言えないし、ごく普通のことですらある。それを悔やみ、償おうともがくその時間は苦しく、無駄と言える.....この町の人々の笑顔をフィルスは見たから、余計にサクリの考えに呆れる。


 「.....確かに、町長にとってそれは大罪なのかも知れませんね。でも、僕は凄い事を町長は成し遂げたと思ってますよ.....?こんなに自然と融合した町並みを作って、手伝って.....資金集めも自らが赴いて、頭下げて.....立派ですよ。こんなに町の人々が笑顔なのは良いことですよ。人は犠牲の上で生きていくんです。こんなに穏やかで美しい町並みが犠牲をともなって.....貴方自信が傷ついてできたのは当然と言うべきで、凄い尊敬できる事だと思いますよ?」

 「っ!?」サクリは目を見開かせて、後傾姿勢で暫くの固まる。


 夜風だけが時間の進みを知らせる中、時間が動き出したようにサクリはその表情を優しい笑みに変えた。


 「不思議ですな.....貴方にならなんでも話せる気すらします。少し私の砂を噛むような話にお付き合いいただけますかな?」

 「えぇ....勿論」

 

 月明かりと町明かりに照らされる町長宅のベランダ.....他愛もない話を微笑みながら話す二人の影が写し出されていた。風は心地よく、活気づく町並みは鮮やかで話は尽きることを知らなかった──


 『あ、あの~.....ステファ探さないと.....』


 〈あっ!わ、忘れてた.....〉

 ありがとうございました。

 ふ、ふぅ~・・・・・・・・重たい話は一段落!次回は感動の再会!ステファとハルナです!お楽しみにっ!

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