63話 道場名はカッコよく
よろしくお願いします。
なんだかんだで夕食へと漕ぎ着くことができた....これで心置きなくカレーを食べることが.....とはまだいかないようだ.....
「良いですか?絶対にバレてはいけないんですからね??名前とか道場名とか決めるのも良いですけど、性格とかしゃべり方もしっかり変えといてくださいね?!」
「ハイハイハイハイ.....分かっておるわい。バレて困るのはワシなのだからちゃんと変装くらいはしようと思っておるしの。」
〈へ、変装?た、確かに、この格好じゃ怪しまれるかもだけどさ.....〉
[なんじゃ?不安か?]
〈滅茶苦茶不安です。〉
[ド直球!?そ、そこは否定するとか、大丈夫だと言うとか.....色々あるじゃろ?]
〈.....本当の事ですし.....それに、貴方に嘘は通用しませんしね。〉
フィルスのその言葉にぐぅの音も出ないといった感じで黙り込むカースト。しばらくそんななかでの沈黙が続き、カーストが人差し指を軽く振るうと自身の体が光始め、あっという間に服装が変わっていた。黒い服に黒いズボン.....いわゆるタキシードを着たカーストが現れて意外と似合っているのと、何故、こんな格好にしたのかと思う気持ちでごっちゃになるフィルス達。
「これでどうじゃ?」
「.....ま、まぁ.....さっきの着物みたいな服装よりは良いかも知れませんが.....なんでそんな畏まった衣装を?」
「ふむ、ダメであったか.....?変にボロい服というのも帝王とやらを不機嫌にさせかねないと思ったのだがな。」
「な、成る程.....そういう意味があるなら....別に良いんじゃないでしょうか.....?」
少し不安は残る.....だが、このまま迷っていても何も変わらないし、帝王達も待たせているのだ。それに万が一、バレてもフィルス的にはどちらでも良いしそこまで気負いする必要もないだろう。
「良いか?ワシがもしバレようものなら神界の掟82条に乗っ取り、ワシと共犯であるお主らも罰則が与えられるからの。心してワシをバレぬようにカバーしてくれ。」
「.....へ?えっ?き、共犯??カースト様から来たのに?僕たちは被害者じゃないのですか??」
【はぁ~.....まったくカースト様はこういうときだけ掟を出してくるんだから卑怯なんですよね~.....】
「えっ!わ、私たちも罰せられるの??な、なんか怖い.....」
【.....私は.....知らない.....】
〈あっ!クロが放棄したぞ!!ず、ズルい.....僕も抜けたいけどな.....〉
[む!?逃げるつもりか!そうはさせぬぞ!]
〈.....無理そうだしな~......〉
フィルスは初耳の神界の掟を破らないようにカーストをバレさせないようにフォローしなければならないようで、そんな掟を作った者を恨んで盛大なため息を吐きながらも、一際大きな門をノックしてから開けて部屋の真ん中一杯を占めるテーブルに人数分のカレーを並べている。スパイシーなその香りには一同称賛の声をあげるが、この独特の色には嫌悪感を露にしている。
「.....ふ、フィルス.....?君が作ったなら間違いないと思うんだけど.....い、一応聞くね.....」
「.....はい?」
なんとなく何を聞かれるのか分かっている。これは失敗作か?っと聞きたいのだろう。そのリアクションはもうノンシーがしているので慣れた.....慣れた?は可笑しいかな.....?
暫くの沈黙のあと帝王はカレーを指差しながら口を開く。
「これって、なんの素材で出来てるの~?」
「.....えっ?あ、はい!こ、これはですね....」
〈お、思ってた反応と違ったね.....ま、まぁ良い方に違うかったから良いんだけどさ.....〉
だが、これは帝王の善意だ。本当は失敗作か?と聞きたくて仕方がなかったが、フィルスに尋ねようとした瞬間に、少しだけフィルスの顔が暗くなったのを感じ、慌てて方向転換をしたのだ。相手を見る洞察力はいつも貴族達や他国の王の顔色を窺ってきたからだろう。
「ヘ~.....ハーブね.....それじゃあ、辛いんだ.....」
「それは米で少しは和らぐかと.....味見もしてみましたが、思ったよりも辛くないので甘党の帝王様でも召し上がれると思いますし、体にも良いので是非食してほしい品です。」
[まだ食べてはダメなのか.....?]
〈貴族の礼儀として目上の者が食べるまでは食べてはダメなんです。まぁ、毒味役の近衛兵は除外しますが.....〉
こんなに良い香りを出しているカレーを目の前に待てと言われれば犬でも待つのは難しいであろうがここは貴族として、大人として待たねばならない。近衛兵は一口、帝王のカレーを食べて目を見開かして驚いている。そして帝王にOKと言うサインなのか頷いて後ろに下がったあとフィルスに親指をたてて旨かったぞと言いたげな顔をしていたので苦笑しながら頭を下げた。
「それじゃあ、頂こうかな~.....皆も好きに食べて良いからね?貴族の礼儀とか堅苦しいのは僕、苦手だからさ~.....」
「「「「「「御意。」」」」」」
「ぎ、御意.....?」
慣れない言葉に戸惑いながらもそう告げて、前世からの癖みたいなもので手を合わせて小さく「頂きます。」と呟いて食べてみると、やはり味見の時とは違い米があるからかよりまろやかで甘味が増していて丁度良い塩梅に出来上がったのではないかと自分でも思う。
「うんっ!美味しいよ!フィルス!」
「本当に.....失敗作じゃなかったのね.....」
「.....まだそんなこと思ってたんだ.....」
「うむ!カレーとはここまで美味なものであったのだな!」
「あ~!そう言えばご挨拶がまだだったね~.....帝王のハーリス・トリウスだよ~.....君は?」
「ワシは《カーリスト》。黒銀の刃という道場を開いておるしがない老人ですぞ。」
〈......ネーミングセンスの無さでしょ!?カーリストってカーとストの間にリを入れただけじゃないですか!それから!なんですか?!黒銀の刃って!中二病じゃ無いんですしそんなカッコつけた名前じゃなくても良いことないですか?!〉
[何を騒いでおるのだ.....そのカッコ悪い道場に入門しておるのはフィルスなのだぞ?]
〈そうなるからもっと違うのにしてほしかったっていう文句を言っているんですよ!!.....はぁ~.....もう手遅れか.....〉
諦めの感情で力なく肩を落とすフィルス。カーストは励ましとも取れない励ましの言葉を言ってくるがガン無視して自分を慰め続ける。だが、そのあとの帝王の言葉に驚愕する。
「へぇ~.....やっぱり、どれもこれも道場の名前はカッコいいんだね~。」
「「.....へ?」」
〈か、カッコいい?どれもこれも??ど、どういうことですか?カースト様.....?〉
[......さぁ?]
〈あんた神でしょうが!?それくらいのこと千里眼とかで見てたりしなかったのですか!?〉
[ワシは千里眼は使わんよ.....シンクスに任せておったのでな.....]
この人は本当に創造神であろうか?そんな感情さえ湧いてくるフィルスは盛大なため息を吐きながら、久し振りの米とカレーを堪能するのであった.....
ありがとうございました。
なかなかののんびりが続いておりますね・・・・・・・まだまだ長引くかも知れませんがお付きあい頂けるとありがたいです(*≧∀≦*)




