54話 女性の町と行動開始
よろしくお願いします。
「......成る程.....確かに《フラワー通り》だね......」
「.......綺麗......」
この町は年中春の気候のようだ。色とりどりの花が咲き乱れその中央には大きな噴水がある。フェンスで囲われているのは踏みつけられないようにするためだろうが木のフェンスなのでよりいっそうに鮮やかに見える。
所々に植えてある木は春風に靡き、鳥の囀ずりを乗せてフィルス達に運んできてくれているようで......まさに絶景だ。
【......こういう場所......好き......】
【そりゃぁね~......故郷が森だもんね~.....】
〈故郷......か......確か、僕が直人だった頃の故郷も自然豊かだったっけか......〉
春は暖かくて昼寝にはうってつけで、夏は暑くて川によく入っていた......秋は紅葉が綺麗で上着を羽織ってボンヤリと外を眺めてて、冬は寒くて銀色に染まる外を炬燵で暖まりながら見るのが好きだった......母はいつも暖かくて、優しかった......父は無口で優しくて、逞しかった......
そんな事を思い返していると久し振りに両親に会いたいという気持ちが込み上げてくる......叶わぬ願いであるとは分かっているが、少しでも会いたいと願うのは親孝行もろくにできずに死んでしまった未練があるからだろう。寂しげな顔のフィルスはこんな綺麗な光景から目を背けるように俯いていた......だが、突如握られた自分の手に驚いて顔をあげる。
「フィルス!速く行くわよ!クレプーの材料を早く集めないとっ!」
【もぉ~......ボーとしてちゃダメじゃんか!全く.......少しは僕を見習ってよね!】
【......逆......サティウスがフィルスを敬うべき......】
【なぁ!?産みの親に向かってなんて事を言うんだよ!それに!僕は毎日だらけててクレプーだけ食べれれば良いとか思ってないから!】
「......よしっ!サティウスにはクレプーなしね!」
【やめてぇえぇぇぇえぇ!!クレプー食べたい!食べないと死んじゃうぅうぅぅ!】
縋りついてくるサティウスに苦笑しながら、独りではない安心感や嬉しさに浸る......町は色めき市場だと言うのにお洒落な通りを進んで行く。
この町には冒険者が居ないのか、清潔で全く厳つくない人達しか見かけない。恐らくこの中に厳つい冒険者とか居たら浮きまくりであろう。それから女性が多かったり、逆に子供や男性、はたまた獣人までもをあまり見ない。一言で言えば女性の町とも言えるこの状況は男であるフィルスには居心地が悪いみたいで落ち着けない。
「ま、まぁ、辛いのは美容にも良いからキ......じゃなくてハムチェとかあるんじゃないかな?」
「う~ん......どうなんでしょうね......私は美容のためだけに嫌いなものを食べる気にはなれないけど......?」
〈......いや、全員が辛いの嫌いな訳じゃないんだからね?それに、美容に気を使う人だって居るだろうし......〉
本当に辛いのが苦手な様子のノンシーに呆れた眼差しを送りながら考える。
〈ここは店員に聞いたりして情報を得るのが一番だろうか?.....いや、地元で店をやっていない人の方が知ってるんじゃ......でも、女性には話しかけづらいしな......ナンパだとか思われたら困るし......いや、僕子供だったわ......〉
否定に否定を重ね思案して至った答えは......片っ端から聞いて回るということだ。勿論、このまま歩いていれば偶然見つけられる可能性もあるがそれだとどうしても時間がかかり、クエストである帝王護衛に差し支えが出てしまう。
「取り敢えず、片っ端から聞いて回ろう......」
「そうね。それが一番確実だわ。」
【う~......クレプーの為には働きますか.....】
〈あんたを周りの人は見えないでしょうが!?何をため息まじりに訳の分からない事を言ってるの?!〉
サティウスはヤレヤレと言いたげな顔でやる気を見せているが、勿論、周りの人にはサティウスの存在はとらえられないし、仮にとらえられたとして混乱を招くだけであろう。
フィルスはそんなサティウスに呆れた視線をしばらく送り、ため息を吐きながら行動を始めた。
ありがとうございました。
まだまだクレプー作りは終わりません!次回はフィルスの聞き取り調査からスタートです!お楽しみに!