360話 さらば祐也
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二人の踏み込みは力強く、地面を抉りながらリエルへ駆け抜ける。リエルはその巨体からは想像もできない華奢な動きで後ろへステップすると助走を始め、勢いよく上空に飛び跳ねた。まるでミサイルが発射された時のような砂埃が舞い、視界が一瞬にして闇に包まれるとモルテは隣で走っている咲龍に手を伸ばし腕を掴むと勢いよく後方へ投げ飛ばす。
いきなりの行動に咲龍は悲鳴を上げながらその声をどんどん遠のかせモルテは暫くその声を辿るように視線を追わすと空を見上げる。
「バケモンにかける情けはねえぞ」モルテは呟くと傍らに落ちている剣を持ち上げた。
反則とかそういうのは戦闘にはない。それに、元を辿れば化け物に変化するというのは反則のように思えるわけで、ならば御相子様。試合に勝てば勝負の勝ちだ。
「炎よ──永久の灯火は消えず我が力とする──地よ──生きとし生けるものへの恵みは我が盾とする──代償は我が名を捧ける──祐也──世の常識を覆し死をも遊びとする者の名だ!」
モルテは剣を高熱の炎に燃やし舞った砂埃は微細な粒子となりモルテを包むように膜で覆った。上空を見上げれば迫り来るリエルと目が合い、モルテは口の端を持ち上げた。
「炎に焼かれろ!この、バケモンが!」
炎はまるでモルテの言葉に呼応するように激しさを増し、赤い色を青い色に変える。熱波は辺りを襲い、不時着した咲龍は顔を覆わなければ焼け死ぬほどまでの熱さに驚きながら顔を目以外を腕で覆った。
モルテは相手と上空で戦おうとはせず、地に落ちてくるのを待つようにその場で武器を下段に構える。リエルはモルテの真上から瓦割りのように腕を振り上げた状態で落ちてくる。ゴリラのように足より長い筋肉質な腕がモルテを間合いに収めるとタイミングを見計らって振り下ろす。
その腕はモルテの高熱に耐えきれなくなったように蝋のように溶け悲鳴をあげたリエルの首は高熱の刃が当てられ硬い皮など関係ないように切断した。
「じゃあな.....祐也」モルテは寂しそうに呟くと剣を一振して纏わせていた炎を消し去った。
いつの間にか薄く張られていた土の守りも消え去りモルテは暫く無惨な姿になったリエルを見下ろした。その隣から下駄が地面に当たるような足音が聞こえ、咲龍がモルテの顔を覗き込んでくる。
「急に投げるなんて酷いでござるよ」咲龍は不満げに目を細めた。
「死ぬよりマシだろ。見ての通りあのままじゃお前、溶けてたんだぞ」モルテはリエルに視線を向けたまま言う。
咲龍は暫くあれが最善だったのか考えに耽り「それでも酷いでござるよ!」と結論付けるとモルテは微笑を浮かべた。
「まあ、一件落着だろ?」話題を終わらせるように締めの言葉を吐く。
「拙者が首の骨折ってたら落着してなかったでござるがね」咲龍は犀利な眼で言う。
「だからすまんって」
「だから、って!今の一回しか謝ってもらってないでござるよ!」歩き出したモルテを追いかけながら咲龍は言及を続ける。
「はいはい。ごめんなさい」
「はいはい?!──」
二人の会話は戦場である王都城門前に愉快に響き渡った。
ありがとうございました




