17話 無だ!
よろしくお願いします。
「ここで、良いわよ.......」
「そだね......どこも満員だったからね......宿屋。」
落ち着きを取り戻したララと別れ、宿探しのために町を歩き回っていた。だが、帝国の首都だからだろうか......何処もかしこも、嫌がらせかと言うほどに満員で仕方なく少し大通りから離れた場所にある宿屋に泊まることにした。名前は『ドラゴンの隠れ家』.........一瞬、犯罪者を匿う場所なのかともとれるその名前には、恐怖しか感じないが、外装は普通にきれいで、中もなかなか良いのではないだろうか......?
程よく清潔なカウンターの広場は静まり返っており、夕日が沈みかけているなかで、カウンターのランプだけが、周辺を写し出していた。
「..........いらっしゃい......」
「っ!?........って、店員さんか.......子供二人、泊まれますか?」
突如として目の前から話しかけられて体が飛び跳ねそうになる。よくよく見ても、顔はランプの灯りよりも上にあるため見えないが、体からして男だというのは人目見れば分かるほどに筋骨隆々であった。
「........一人、銅貨50枚だ.......大人も子供も変わらねぇ........」
「え、えぇ.......分かりました....はい、銀貨1枚です。」
フィルスがノンシーの分も含めて銀貨1枚を渡すと、部屋へと通される。その部屋も不気味なまでに暗く、何かが潜んでいそうで気味が悪い。
「.......朝、晩ご飯は付いてる.......別料金でもない......部屋はあまり汚すな......子供は早く寝ろ....以上だ。」
「あ、はい........ありがと.....って!?もう居ない!」
注意事項等を話すとそそくさと扉を閉めて居なくなっていた。そして、聞かれることもなく、フィルスとノンシーは同じ部屋となってしまった.......
「明日に備えて、今日はもう寝よっか?」
「へ?.......え、えぇ......そうね......」
あからさまに、アタフタしているノンシーに首を傾げながらベッドを探す.......多分、このせいだと思う.........いや、間違いなくこのせいだ.......ベッドが1つしかないのだ。
「なっ!?.........ノンシー、ベッド使いなよ......僕は床でもソファーでも寝れるから......」
「なっ、何言ってんのよ!ふ、フィルスは疲れてるでしょ?!私こそ床で大丈夫だから!」
「そ、それは、男としてのプライドが許さないよ!僕が床!ノンシーがベッド!いいね?!」
「ダメっ!これだけは譲れないわ!私が床!フィルスがベッド!分かった?!!」
【........僕たちだけでも寝よっか?】
【.........人間は......めんどくさいね.......】
フィルスとノンシーの譲合いを余所に、サティウスとクロはベッドへと潜っていった。
「.......ひ、1つ......提案があるんだけど.......」
「........き、奇遇だね.......僕もだよ......」
はいっ!......っと、言うわけで、フィルスとノンシーは互いに背を向けあってベッドの上で寝ている。ぽっかりと空いた真ん中には、サティウスとクロがスヤスヤと寝息をたてて眠っているが、サティウスとクロは異性である.....そこは、人間と妖精の違いなのかは分からないが、あまり気にしはしないようだ。
〈無だ、無!.......僕は石像だ!木だ!......兎に角、何も考えるな.......寝ろっ!早く寝ろっ!〉
二人は自分と意識が無くなるまで戦い続け、なんとか朝を迎えることが出来た........
「.......おはよー.........」
「うん、おはよう........ノンシー?大丈夫?」
まだ眠いのか、欠伸をしながら挨拶を交わしてきたノンシー。
大丈夫かと聞くと、ノンシーは大丈夫だと首を縦に振ったので、まだ眠いであろうノンシーを連れて食堂へと向かった。
「.........飯なら、そこで待ってな........」
「あ、はい.........お願いします。」
食堂へ向かうと、ここへ来たときに会ったであろう店員がフィルス達を席へ座るように促してから厨房らしき場所に歩いていった。この時フィルスは驚愕していた........
〈あの.........あの、店員さんが作るのか?!!........だ、大丈夫かな.......〉
案の定.........運ばれてきたのは見るに堪えない程に汚ない物体......話を聞けばオーク肉だという......
「あっ!わ、私たち、急いでたのよね!は、早く、行きましょっ!!」
「え?.........あ、あぁ、そうだったね!い、急ごう!!」
店員に残したことを謝り、スタコラサッサと町へと繰り出していったフィルス達であった.......
ありがとうございました。